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    わ ちいうゅじ いだ

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一息ついたオレたちは、鳥居に向かって歩き出した。
石造りの鳥居は、最近は誰も訪れないであろう今でも威厳を誇っていた。

鳥居をくぐり手入れのされていない石段を上る。
左右には背の低い木が石段まで枝を伸ばしていて、オレたちの侵入を阻むようだった。

それを数珠がナタで切り落とす。
『バサッ』といいながら、枝は重さから解放された時に跳ね上がって空に向かって手を伸ばした。

「苔で足を滑らすなよ」

数珠は注意を促すが、そりゃ数珠はいいよなぁ。
外国のメーカー製の登山靴だもんな。こっちは普通のスニーカー。
そのスニーカーもさんざん草や木の葉を踏みしめたために緑色の汁で着色されていた。


カナカナカナカナ


セミの声が涼し気なものに変わった。
うっそうと木々が生い茂って、気温が随分と下がったからだろう。

昼間というのに少し暗めだ。

オレとジュダイも荷物から懐中電灯を取り出した。
柄が長い懐中電灯。これで枝や草を叩いて、数珠の補助をしながら進んだ。

石段を登りきると、左右に苔だらけの狛犬があった。
まるで小さく笑っているよう。
左側に小さいお社がある。
そこまでにも、長く伸びた植物が道を阻んでいた。

「もう少しだな」

数珠は息切れをしながら、細い木や雑草を切って進んだ。


お社だ。


小さいと言ってもオレたち四人入れる大きさ。
三段の木造の階段があり、賽銭箱の奥に木製の引き戸があった。

「カギ……なんて、ついてねーじゃん……」
「そうだな……」

数珠に続いて、オレたちも階段を上った。
数珠が引き戸に手をかけながら小さくつぶやいた。

「開けるぞ?」
「う、うん……」

その三人の返答も小さい。返事を聞くと、数珠は引き戸をゆっくりと開けた。


中は暗く、和紙が床におちて黒くカビが生えている。

床も真っ黒だ。湿り気のせいで、床板にカビが生えているんだ。
そして、絨毯のようなホコリ。そこに真っ先に入って行ったのは雅美さんだった。

「ここで、悪神の“ううち”が待ってるの? おーい! でてこーい!」
「ちょ! ミヤビさん! フラグっすよ!?」

「構いやしないよ。ただのウワサなだけ。見てみなよ。この中だってただの木小屋みたいなもんだよ」

雅美さんは悪びれない様子で言った。
さすがに数珠も冷静な声で雅美さんに凄んだ。

「おい。神を冒涜するな。ここは神域だぞ? 悪ふざけはやめろ!」

雅美さんはハッとした顔をして数珠に謝った。

「そうだね……。ごめんね。エイちゃん……」
「いや。反省してればいいけど……」

数珠の一喝で雅美さんの暴走も止まり

「そーだ。ここを掃除して帰ろうよ。そしたらジュダイちゃんの気持ちもリフレッシュして、ちゃんとお弔いした気分になるよ」

と提案した。それにみんな賛成した。


数珠は先ほど切った枝や葉っぱを集めて簡易なホウキを作った。
オレとジュダイとで荷物に入っていた濡れティッシュで窓ガラスを拭いた。
雅美さんはナタでお社の周りをキレイに伐採した。

数珠がホウキを四本作り終え、オレたちはマスクをして一斉にお社の中を掃き掃除した。
カビやホコリが舞い上がる。
お社の外に押し出されたホコリの塊は、大きな犬ほどになった。


掃除完了だ。


「ふーーーっ。よかった。なんか憑き物が晴れたというか……」

ジュダイが笑顔になる。
これでこの旅も終わりだ。

あとは数珠にお経でも唱えてもらってえば……。



………

………

………


気 付 い て し まっ た……。


気付かない振りをしとけばよかったんだ。
オレの心の中にだけ入れておけばよかったんだ。
いや。でも、それだったらジュダイの悪夢は終わらないかもしれないと思ったのは否めない。

だから、みんなに言ってしまったんだ。

「オレの足元の床。……空洞のような気がする」

雅美さんが躍り出てきて、片足を上げてトントンと踏んだ。音の帰りが明らかに空洞を示していた。

「……ホントだ」

雅美さんがそう言うと、数珠は聞こえない振りをしていそいそと荷物をしょい込んだ。

「さて……帰るか」

そんな数珠の荷物を勢いよく掴んで雅美さんは止めた。

「ちょっと! エイちゃん! まだ問題解決してないでしょ?」

数珠は、ハァとため息をついた。そりゃ行きたくないよなぁ。



床をグルリと見渡すと、見えないように床が細工されていた。上手い具合いに継ぎ目があり裏側から蝶番ちょうつがいが付けられている。
それは地下室への扉だった。

地下室と言っていいのだろうか?
床の扉を開くと、重苦しい空気が漂ってきた。

下には大きな穴。
そこに、木製の細い丸太で作られた梯子がかかっていた。

数珠は、荷物からランプを取り出して取っ手に縄をかけ、ゆっくりと下におろした。


カチャ……。


ランプが底に到達した。ロープの長さから、だいたい3メートル半ほどだ。
はしごはそこまで伸びていた。


「いくん すか……?」
「あたし一人で行って来てもいいけど?」

雅美さんはカラッと言った。
そして、ジュダイの方を向いて

「ジュダイちゃんは? ここに残る? わざわざ怖いの見なくてもいいけど」


やっぱ怖いんかよ……。


ジュダイは辺りを見回した。うるさいほどの静けさ。

「みんな行っちゃって、一人になるほうが怖いです……」
「だよね。じゃ、みんなで行っちゃおう!」

と、雅美さんは号令をかけた。
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