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だい きゅう わ
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数珠が、火箸をとって土間に地図を書いた。
明日、お社に向かう地図だ。
この集落の他に数か所集落が点在している。
その中央の小高い山にお社があるらしい。
距離にすれば5kmほど。
今日と明日で10km歩くのか…。
いや違う…。戻らなきゃならないんだから20kmか…。
こりゃ大変だぞ?
車がないと少し遠いけど仕方がない。
そんな中、女性二人は畳の上のランプの横で楽しそうにキャッキャウフフと話をしていた。
「え? ウソ」
「ホントだよ~。エイちゃんにはまだ言ってないんだ~」
「へ~。おめでとうござます!」
「んふふ……」
……なにがおめでとうなのやら……。
でも楽しそうだからいいか。なんて思っていた。
そして数珠の方を見ると、焚火に連結させたお社のカギを照らしていた。
炎がキラキラと揺らめき、その度にカギが鈍く輝いた。
「ホントにお社のカギなのかな。お社にカギなんて付いてたのかなぁ……」
「でも、村の人が大事に恐れて守って来たんだろ? じゃ、やっぱり“ううち”を封じたのはお社じゃねぇのかな」
「うん。どうなんだろう。オレたちが子供の時はお祭りの時にしかいかないサミシイ場所だからなぁ」
「そうなんだ……」
その日、オレたちは一つの部屋でまとまって寝た。
古いタイプの家なので、障子や襖が外れた今、他の部屋も一体化しており、奥の方は真っ暗で見えなかった。
みんなと一緒なのでそちらを気にせず過ごせたが、あの闇の怖さと言ったら半端ない。
ジュダイもその日はうなされることがなかった。
ひょっとして人が多いと安心して怖い夢を見ないのかも?
あと、雅美さんのパワフルさ。それがジュダイの精神を落ち着かせているのかもしれない。
きっとそうだ。
次の日。目を覚ますと、すでに数珠が起きてたき火で湯を沸かしていた。
そして、カップラーメンが4つ。
朝食ラーメンか。いいなぁ。
数珠もサバイバル能力高いなぁ。
「おいーす。やっぱり坊主の朝は早いね~。朝のお勤めは終わりましたか?」
「終わった。おいロマン」
そう言って手渡して来たのは園芸用の小さなスコップだった。
「なにこれ?」
「女の子が起きる前にトイレしてこいよ。草むらに穴掘ってちゃんと埋めてこい。紙はそこにある」
指さしたリュックの上には開けたばかりのボックスティッシュが一つ。
オレは、そこからティッシュを4、5枚ほど引き抜いて数珠を拝むように頭を下げた。
「お心遣い感謝します」
「おう」
家から出て、よさそうな茂みを見つけてそこで用を足した。
起きてきた雅美さんやジュダイもそれぞれ促されて朝の用を足したらしい。
その間、数珠はカップラーメンを作ってくれた。
マジで数珠を尊敬し始めた。
やっぱお坊さんは尊敬を集めるもんなんだなぁとも思った。
食事も終わり、これまた数珠が出して来たゴミ袋に後かたずけをキレイにした後、数珠が言った。
「じゃ、そろそろお社に向かうか。不要な荷物はここに置かせてもらおう。まだトイレに行きたい人は体を軽くして来い」
オレはうなずいて小の方をしに立ち上がって外に出ると、数珠もついてきた。
「男同士で連れションしよう」
「あ、おう!」
二人で並んで庭の木を目掛けて連れションした。
「なぁ、ロマン」
「ん?」
「万一の場合、オレに何かあったら、女の子を二人連れて逃げてくれ」
そう言いながら、真剣な顔をこちらに向けた。
お化けなんていない。
だけど、覚悟は持っておきたいということなんだろう。
数珠の熱い言葉にグッと来た。
ジュダイを守る為にここに来たんだ。その気持ちがより強くなったのを感じた。
「おう! それじゃオレも。もしも、オレに何かあったら、ジュダイとミヤビさんと一緒に逃げてくれよ?」
「ああ。任せとけ!」
数珠の覚悟に、オレの覚悟を返した。
用を足しながら空いている片手をがっちりと握り合わせた。
だからって、これはフラグじゃない。
何もおきないと思っている。
起きるわけがない。
「ふふ」
「ははは」
オレたちは、握りしめた手を放し、続いてコツンと拳を合わせた。
「ションベンついてねーだろうな?」
「うぉい! こっちのセリフだわ!」
家に戻ると、二人がなに笑っていたの?
と聞いて来たが、男同士の話しだと言った。
そして、ある程度の荷物を持って、お社へ向かって歩き出した。
お社への道。
長らく使われていない道は草がボウボウに生えていた。
両脇には自分と同じくらいの背丈ほどもある雑草。
それが、大きく伸びて道路にはみ出していた。
もしも、この草をかき分けて鎌を持った農夫の“ううち”が飛び出して来たら、真っ先に気絶する自信がある。
それほど、両脇の雑草群から何が飛び出すか分からなかった。
オレたちが歩くと、その草むらがガサガサと音を立てる。
その中に生息する野生の動物たちが、久しぶりの人間の足音に怯えて逃げて行っているのだろう。
バササササッ!
大きなキジが飛び出して、目の前を低く飛ぶ。余り飛ぶ能力がないのか、道を走って逃げまた草むらに入って行った。
マジで驚いた。
「国鳥が脅かすな!」
というと、三人とも大笑いした。
なにがおかしいんでぃ!
「ホント。ロマンはマジでビビりだな」
と数珠が笑いながら言う。
「ほっとけや。人のこと言えねーだろ。数珠もジュダイも都市伝説板にいたくせに二人ともビビりだもんな」
「なんだよぉ。私を巻き込むなっつーの」
そう言いながらジュダイは口を尖らせた。
「おい。数珠」
「なんだ」
「まさか、クマは出ねーだろうな?」
「ああ。クマはでないが」
「“が”? “が”ってなんだよ」
「虎は出るぞ?」
オレは、数珠の背中に張り付いた。
マジ1メートルは跳躍したかもしんない。
「マジかよ!」
呆れて雅美さんがそんなオレの背中を軽く叩いた。
「日本にいるわけないでしょ」
「え? いないの? オイ! 数珠!」
「ははは!」
そんなことをやりながら、楽しく目的地までの道を歩いた。
明日、お社に向かう地図だ。
この集落の他に数か所集落が点在している。
その中央の小高い山にお社があるらしい。
距離にすれば5kmほど。
今日と明日で10km歩くのか…。
いや違う…。戻らなきゃならないんだから20kmか…。
こりゃ大変だぞ?
車がないと少し遠いけど仕方がない。
そんな中、女性二人は畳の上のランプの横で楽しそうにキャッキャウフフと話をしていた。
「え? ウソ」
「ホントだよ~。エイちゃんにはまだ言ってないんだ~」
「へ~。おめでとうござます!」
「んふふ……」
……なにがおめでとうなのやら……。
でも楽しそうだからいいか。なんて思っていた。
そして数珠の方を見ると、焚火に連結させたお社のカギを照らしていた。
炎がキラキラと揺らめき、その度にカギが鈍く輝いた。
「ホントにお社のカギなのかな。お社にカギなんて付いてたのかなぁ……」
「でも、村の人が大事に恐れて守って来たんだろ? じゃ、やっぱり“ううち”を封じたのはお社じゃねぇのかな」
「うん。どうなんだろう。オレたちが子供の時はお祭りの時にしかいかないサミシイ場所だからなぁ」
「そうなんだ……」
その日、オレたちは一つの部屋でまとまって寝た。
古いタイプの家なので、障子や襖が外れた今、他の部屋も一体化しており、奥の方は真っ暗で見えなかった。
みんなと一緒なのでそちらを気にせず過ごせたが、あの闇の怖さと言ったら半端ない。
ジュダイもその日はうなされることがなかった。
ひょっとして人が多いと安心して怖い夢を見ないのかも?
あと、雅美さんのパワフルさ。それがジュダイの精神を落ち着かせているのかもしれない。
きっとそうだ。
次の日。目を覚ますと、すでに数珠が起きてたき火で湯を沸かしていた。
そして、カップラーメンが4つ。
朝食ラーメンか。いいなぁ。
数珠もサバイバル能力高いなぁ。
「おいーす。やっぱり坊主の朝は早いね~。朝のお勤めは終わりましたか?」
「終わった。おいロマン」
そう言って手渡して来たのは園芸用の小さなスコップだった。
「なにこれ?」
「女の子が起きる前にトイレしてこいよ。草むらに穴掘ってちゃんと埋めてこい。紙はそこにある」
指さしたリュックの上には開けたばかりのボックスティッシュが一つ。
オレは、そこからティッシュを4、5枚ほど引き抜いて数珠を拝むように頭を下げた。
「お心遣い感謝します」
「おう」
家から出て、よさそうな茂みを見つけてそこで用を足した。
起きてきた雅美さんやジュダイもそれぞれ促されて朝の用を足したらしい。
その間、数珠はカップラーメンを作ってくれた。
マジで数珠を尊敬し始めた。
やっぱお坊さんは尊敬を集めるもんなんだなぁとも思った。
食事も終わり、これまた数珠が出して来たゴミ袋に後かたずけをキレイにした後、数珠が言った。
「じゃ、そろそろお社に向かうか。不要な荷物はここに置かせてもらおう。まだトイレに行きたい人は体を軽くして来い」
オレはうなずいて小の方をしに立ち上がって外に出ると、数珠もついてきた。
「男同士で連れションしよう」
「あ、おう!」
二人で並んで庭の木を目掛けて連れションした。
「なぁ、ロマン」
「ん?」
「万一の場合、オレに何かあったら、女の子を二人連れて逃げてくれ」
そう言いながら、真剣な顔をこちらに向けた。
お化けなんていない。
だけど、覚悟は持っておきたいということなんだろう。
数珠の熱い言葉にグッと来た。
ジュダイを守る為にここに来たんだ。その気持ちがより強くなったのを感じた。
「おう! それじゃオレも。もしも、オレに何かあったら、ジュダイとミヤビさんと一緒に逃げてくれよ?」
「ああ。任せとけ!」
数珠の覚悟に、オレの覚悟を返した。
用を足しながら空いている片手をがっちりと握り合わせた。
だからって、これはフラグじゃない。
何もおきないと思っている。
起きるわけがない。
「ふふ」
「ははは」
オレたちは、握りしめた手を放し、続いてコツンと拳を合わせた。
「ションベンついてねーだろうな?」
「うぉい! こっちのセリフだわ!」
家に戻ると、二人がなに笑っていたの?
と聞いて来たが、男同士の話しだと言った。
そして、ある程度の荷物を持って、お社へ向かって歩き出した。
お社への道。
長らく使われていない道は草がボウボウに生えていた。
両脇には自分と同じくらいの背丈ほどもある雑草。
それが、大きく伸びて道路にはみ出していた。
もしも、この草をかき分けて鎌を持った農夫の“ううち”が飛び出して来たら、真っ先に気絶する自信がある。
それほど、両脇の雑草群から何が飛び出すか分からなかった。
オレたちが歩くと、その草むらがガサガサと音を立てる。
その中に生息する野生の動物たちが、久しぶりの人間の足音に怯えて逃げて行っているのだろう。
バササササッ!
大きなキジが飛び出して、目の前を低く飛ぶ。余り飛ぶ能力がないのか、道を走って逃げまた草むらに入って行った。
マジで驚いた。
「国鳥が脅かすな!」
というと、三人とも大笑いした。
なにがおかしいんでぃ!
「ホント。ロマンはマジでビビりだな」
と数珠が笑いながら言う。
「ほっとけや。人のこと言えねーだろ。数珠もジュダイも都市伝説板にいたくせに二人ともビビりだもんな」
「なんだよぉ。私を巻き込むなっつーの」
そう言いながらジュダイは口を尖らせた。
「おい。数珠」
「なんだ」
「まさか、クマは出ねーだろうな?」
「ああ。クマはでないが」
「“が”? “が”ってなんだよ」
「虎は出るぞ?」
オレは、数珠の背中に張り付いた。
マジ1メートルは跳躍したかもしんない。
「マジかよ!」
呆れて雅美さんがそんなオレの背中を軽く叩いた。
「日本にいるわけないでしょ」
「え? いないの? オイ! 数珠!」
「ははは!」
そんなことをやりながら、楽しく目的地までの道を歩いた。
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