王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範

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第9話 オリビア⑤

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 お茶会。
 あれから三人でしばらく談笑していた。それはカーラの出身やスザンヌの昔の屋敷の話。最近の天気や流行の髪飾り。そんな雑談だったが楽しくて仕方がない。
 しかし、カーラはスザンヌに目配せを送ったことが分かった。スザンヌも、している話を切り上げてしまった。

「あ、あら、どうしたの?」

 その言葉にカーラは少女らしさから一変して妖しい笑みを浮かべた。

「実は先ほど言いました、私たちの不満のことですの」
「ふ、不満? 王宮に来て陛下に愛され、なにか不都合がおありになって?」

 私がそういうと、二人は顔を見合わせて扇で口元を隠した。口が見えないが、眉が逆立って怒っているような、挑発するような、そんな感じに見て取れた。

「ああ、カーラ。キミはオリビアに比べてまるで少女のように素直で従順だ。素晴らしいよ」

 カーラからの言葉にドキリとした。それはアドリアン様の口調。アドリアン様と二人の時に聞いた言葉なのだ。

 オリビアに比べて。
 オリビアに比べて──。

 私の頭は真っ白になってしまったが、今度はスザンヌからだった。

「スザンヌ。キミはオリビアに比べて、明るい性格だな。一緒にいて楽しいよ」

 なにがなんだか分からない。二人はなぜこんなことを私に聞かせるのか。私は目の前が真っ暗になってしまった。

「カーラ。キミにこの耳飾りを送ろう。この中からどれがいい? それからスマンがオリビアにはどれが似合うと思う? それ以外を選んでくれたまえ」

 え──?

「スザンヌ。もう夜も遅い。オリビアの部屋の明かりも消えてしまったな。私は自室に帰るとするよ。お休み」

 ん? ん?

 二人は細くため息をついた。そして扇を下ろしてまくし立てるように話し出す。

「ああん、もう! 二人ともなんでそんなに強情ですの? 好きなんでしょう!?」
「そうですわ。二人とも早くに互いに心を通じ合っていれば私たちは籠の鳥にならずに済んだのに!」

 わあわあと二人は私に詰め寄る。その内容は、アドリアン様は私を愛しているものの、私の態度が緩まないのでなにも出来ないので、イヤミを言うことしか出来ないらしい。
 そして、私がアドリアン様を愛していることも侍女たちの裏情報で分かっているとのことだった。

 私は顔から火が出るように真っ赤になってしまっていた。

「陛下のおっしゃることといえば、オリビアが──、オリビアは──、オリビアに比べれば──、ばっかり。私たちなんて元々、家臣から薦められただけで、恋とか愛の相手じゃありませんわ」
「もう。二人ともしっかりなさいまし。これでは私たちは、ただの飾り物ですわ。なにしろ陛下は子どものようにオリビア様を一途に思ってらっしゃいますから。一生手をつけられません。さっさと二人が愛し合って、我々はこの国の伝統にありますように、側室を家臣に下賜されたほうがよっぽどましな人生を送れましてよ?」

 カーラがそう言うと、スザンヌはすぐさま口を開いた。

「私は騎士長のヘンリーがいいです」

 ヘンリーって。なんか一途に思い続けてる人がいて、婚約者もとらないって有名な人よね。たしかスザンヌとは縁続きだったような……。
 それを聞くと今度はカーラだ。

「私は、ローガン将軍ですわね」

 ローガン将軍……。カーラと20歳くらい歳が離れてるけど、戦のことしか考えてない寡黙な国の大忠臣って聞いてたけど……。



 私は頭を押さえてため息をついた。二人ともよく考えている。
 それよりも私たちだ。王宮内で私たちの互いに譲らず気のない振りをする姿は滑稽だったに違いない。

「さあオリビア様。私たちの不満はこういうことですの。いい加減に素直におなりあそばして、陛下に愛を伝えて下さいまし」
「そうですわ。私たちは一度は恋を諦めて王宮に来ましたが、お二人を見ているとなんとかなりそう。命がけでお二人の仲を取り持ちたく思っております」

 これは……。おそらく二人には別に縁があって愛する人がいたのかもしれない。しかし、国王陛下の側室と言われて他に婚約もしていないので断ることも出来ずに王室に嫁してきたのだわ。
 しかし、陛下は実は二人に愛を示さず、二人はこの計画を打ち明けてきたということね。
 私は笑顔になって本心を打ち明けた。

「私も──。私も、陛下を深く愛していて……」
「「知ってた!」」

 二人とも冷や汗を垂らして立ち上がり、苦笑している。やっぱり知っていたのね……。
 カーラは小さい体を震わせて、拳を突き上げた。

「さぁ、では今から陛下の元へ愛の告白へ行ってらっしゃいませ!」
「え? い、今から? だって陛下は国境にいるのよ? 馬車でも一週間の旅程だわ」

 それにカーラはポンと胸を叩いた。

「大丈夫。秘密ですが私の侍女に移動魔法を使える者がおりますの」

 魔法? 歴史上ではずいぶん前に失われた技術だわ。おとぎ話でもあるまいし、そんなことが本当に?

「ソフィア。いらっしゃい」

 カーラがそういうと、少し歳の行った侍女が笑顔で現れた。

「王妃さま。準備はよろしいですか?」

 そう問うので、そんなに早くは行けない。私は少し時間をもらい、部屋へと帰り、侍女たちに命じて召し物を替えさせた。
 着替えて戻ると、みんな目を丸くした。それもそのはず、私は軍服姿の軽装となっていたからだ。

「さあこれでいいわ。その魔法で私をアドリアン様の元に届けてくださる?」
「かしこまりました、王妃さま」

 ソフィアという侍女は私の手をとり、なにやら念じ始めた。

「さあ行きます! 国王陛下の元へぱぴゅーーん!!」

 私とソフィアの姿はその部屋から消えた。
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