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第7話 オリビア④
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アドリアン様が国境へと出てすでに一週間が過ぎようとしていた。その領土の貴族に歓待を受けているのだろう。
もしも、そこに年頃の女性がいたらどうだろうか?
アドリアン様の閨の相手をして、連れて帰るのかもしれない。そうなったら、私の孤独はますます深まるだろう。
今さらながらにアドリアン様とは関係の修復は無理なのだ。
私はため息をつきながら、窓辺へと歩み寄る。私の部屋からバルコニーがあって庭園を造っている。そこには、噴水もありたくさんの花も咲いていた。
私は庭園へと出て、しばらく散歩に興じた。すると、階下から女の笑い声が聞こえる。覗き込むと、女性が二人。
青いドレスに、青い扇子。金髪で長髪。鼻が高くて目の大きさが特徴。しかし性格は温厚で大人しい。私よりも幾分小柄な可愛らしい彼女はカーラだ。陛下の第二夫人。
そのカーラと笑っているのは桃色のドレスに桃色の扇。美しい鳥の尾羽の髪飾りをつけている。陛下の第三夫人のスザンヌだった。
スザンヌが王宮にきて、笑い声が増えた。それは侍従や使用人たちからもだ。
彼女の明るい社交性が周りを暖めるのであろう。まるで太陽のような人。
それがライバルだろうとなんだろうと関係ない。カーラを連れ出して女同士の話をして楽しんでいる。
私にもあんな友だちがいたら、悩みを打ち明けられるのに。
そう思っていると、二人はこちらに気付いたようだった。ドレスの裾を引っ張り上げて王妃に対する礼をとる。
「王妃オリビア様、本日も女神の如き麗しきご尊顔でございます」
二人とも、私を讃えるようなことを言うが、その心中は計りかねる。
しかし彼女たちは顔を上げてにこやかにこちらに顔を向けた。スザンヌは口を開く。
「オリビア様! 今から三人でお茶でも飲みませんこと?」
階下であるために彼女は声を張り上げる。しかし耳に優しい声だ。それに引き込まれそうになる。
私は、手を振って了承の言葉をかけようと思ったが思い直した。アドリアン様のお言葉。二人と話をするのは禁ずると言った言葉を。
あんなに楽しそうな人たちと話すこともできないなんて。アドリアン様は私に生きることもするなとおっしゃるのだわ。
負けない。絶対に正妃の座を譲らない。
「ごめんあそばせ。今日は遠慮しておくわ。お二人とも、いいお天気に丁度よい元気ね」
二人とも、それは楽しそうに笑う。
「左様でございますわね、オリビア様ァ」
そういうスザンヌに合わせてカーラも一礼し、また散歩をしながら談笑しているようだった。
心底うらやましい。アドリアン様から寵愛を受けるばかりか、誰に憚ることなく自由に王宮内を闊歩できる。
私は王妃といえども惨めだ。愛も自由もない。私が欲しいのは王妃の地位であろうか? それとも愛と自由なのだろうか? しかし、王妃でなくなったらアドリアン様からなにを貰えるのだろう。
自由もなく、愛もなく、思い出もなく、ただ死んでいくだけだ。なんとも寂しく惨めなことだろう。
◇
次の日。私は思い直した。今はアドリアン様がいない。少しばかり自由にさせて貰おう。部屋から出て散歩して、誰構わず話し掛けてみよう。
私は昨日、二人が散歩していた中庭に降りて、侍従たちを引き連れて散歩した。美しい花々が並んで綺麗である。
思わずため息が漏れる。
「ここを、アドリアン様と歩くことができたらどんなに素晴らしいことでしょう」
すると、後ろから歓声が上がる。私は思わずそちらにふり返ると、スザンヌとカーラが笑いながらこちらにやって来るので、驚きつつも背筋を伸ばした。
カーラは大人しく小さい女の子と思っていたが、スザンヌが来てから変わったようで、にこにこしながら王妃に対する礼をとる。スザンヌも同じように礼をしてきた。
「これはこれは、王妃さまァ。いつもながらに変わらぬご尊顔でございます。本日のご機嫌はいかがでしょうか?」
楽しそうな声にこちらもつられそうだ。私は口元の緩みを扇で隠しながら答えた。
「いいわ。あなたたちは?」
「もちろん。元気モリモリですよ!」
底抜けな元気さに扇の中で笑ってしまった。
すると二人は私をあっという間に囲んで、カーラは私の扇を持たない方の手を掴んで引く。
「あ、あら。なにかしら?」
「たまにはいいじゃありませんか。オリビア様。私、スザンヌとお友だちになったのですよ。私たち三人、陛下の妻でありながらほとんど話もしないなんておかしいですと話しあったのですよ。さあ、オリビア様は我々の主人ですからね。しっかりと我々の不満を聞いて頂きましょう」
「ふ、不満?」
「そうですよ。お茶を飲みながらお話しましょ!」
突然のことであっけにとられながらも、二人に強制的に連れて行かれてしまった。
カーラの部屋に入ると、自分の部屋よりも可愛らしい調度品。少女のような飾り物に彼女らしさを感じた。
「さあ、私の侍女たち! 王妃さまのお成りよ! スザンヌもいるわよ! お菓子とお茶を持ってきてちょうだい!」
カーラが奥に叫ぶと、慌てて返事が返ってくる。
「え!? あ、あ、あ、王妃さまが? か、かしこまりましたー!」
ばたばたと四、五人の足音。私はそんな中、カーラに導かれて窓側のテーブルに。同テーブルであるものの、二人とも私から離れて、臣下の礼をとった。
そうしていると、私の前にお茶と焼き菓子が並ぶ。カーラは手を出してそれを勧めた。
「王妃さま。侍女の中でお菓子作りが上手なものがおりますの。きっとお口に合いますわよ。さあ召し上がれ?」
促されるまま、焼き菓子をサクリと音を立てて食べると上品な味である。私はすっかり感心してしまった。
「へえ。美味しいわ」
「うふ。そうでしょう。スザンヌ。私たちも」
「ええ」
三人の初めてのテーブル。緊張するけど楽しい雰囲気。王宮に嫁いできて初めての楽しさに笑みがこぼれた。
もしも、そこに年頃の女性がいたらどうだろうか?
アドリアン様の閨の相手をして、連れて帰るのかもしれない。そうなったら、私の孤独はますます深まるだろう。
今さらながらにアドリアン様とは関係の修復は無理なのだ。
私はため息をつきながら、窓辺へと歩み寄る。私の部屋からバルコニーがあって庭園を造っている。そこには、噴水もありたくさんの花も咲いていた。
私は庭園へと出て、しばらく散歩に興じた。すると、階下から女の笑い声が聞こえる。覗き込むと、女性が二人。
青いドレスに、青い扇子。金髪で長髪。鼻が高くて目の大きさが特徴。しかし性格は温厚で大人しい。私よりも幾分小柄な可愛らしい彼女はカーラだ。陛下の第二夫人。
そのカーラと笑っているのは桃色のドレスに桃色の扇。美しい鳥の尾羽の髪飾りをつけている。陛下の第三夫人のスザンヌだった。
スザンヌが王宮にきて、笑い声が増えた。それは侍従や使用人たちからもだ。
彼女の明るい社交性が周りを暖めるのであろう。まるで太陽のような人。
それがライバルだろうとなんだろうと関係ない。カーラを連れ出して女同士の話をして楽しんでいる。
私にもあんな友だちがいたら、悩みを打ち明けられるのに。
そう思っていると、二人はこちらに気付いたようだった。ドレスの裾を引っ張り上げて王妃に対する礼をとる。
「王妃オリビア様、本日も女神の如き麗しきご尊顔でございます」
二人とも、私を讃えるようなことを言うが、その心中は計りかねる。
しかし彼女たちは顔を上げてにこやかにこちらに顔を向けた。スザンヌは口を開く。
「オリビア様! 今から三人でお茶でも飲みませんこと?」
階下であるために彼女は声を張り上げる。しかし耳に優しい声だ。それに引き込まれそうになる。
私は、手を振って了承の言葉をかけようと思ったが思い直した。アドリアン様のお言葉。二人と話をするのは禁ずると言った言葉を。
あんなに楽しそうな人たちと話すこともできないなんて。アドリアン様は私に生きることもするなとおっしゃるのだわ。
負けない。絶対に正妃の座を譲らない。
「ごめんあそばせ。今日は遠慮しておくわ。お二人とも、いいお天気に丁度よい元気ね」
二人とも、それは楽しそうに笑う。
「左様でございますわね、オリビア様ァ」
そういうスザンヌに合わせてカーラも一礼し、また散歩をしながら談笑しているようだった。
心底うらやましい。アドリアン様から寵愛を受けるばかりか、誰に憚ることなく自由に王宮内を闊歩できる。
私は王妃といえども惨めだ。愛も自由もない。私が欲しいのは王妃の地位であろうか? それとも愛と自由なのだろうか? しかし、王妃でなくなったらアドリアン様からなにを貰えるのだろう。
自由もなく、愛もなく、思い出もなく、ただ死んでいくだけだ。なんとも寂しく惨めなことだろう。
◇
次の日。私は思い直した。今はアドリアン様がいない。少しばかり自由にさせて貰おう。部屋から出て散歩して、誰構わず話し掛けてみよう。
私は昨日、二人が散歩していた中庭に降りて、侍従たちを引き連れて散歩した。美しい花々が並んで綺麗である。
思わずため息が漏れる。
「ここを、アドリアン様と歩くことができたらどんなに素晴らしいことでしょう」
すると、後ろから歓声が上がる。私は思わずそちらにふり返ると、スザンヌとカーラが笑いながらこちらにやって来るので、驚きつつも背筋を伸ばした。
カーラは大人しく小さい女の子と思っていたが、スザンヌが来てから変わったようで、にこにこしながら王妃に対する礼をとる。スザンヌも同じように礼をしてきた。
「これはこれは、王妃さまァ。いつもながらに変わらぬご尊顔でございます。本日のご機嫌はいかがでしょうか?」
楽しそうな声にこちらもつられそうだ。私は口元の緩みを扇で隠しながら答えた。
「いいわ。あなたたちは?」
「もちろん。元気モリモリですよ!」
底抜けな元気さに扇の中で笑ってしまった。
すると二人は私をあっという間に囲んで、カーラは私の扇を持たない方の手を掴んで引く。
「あ、あら。なにかしら?」
「たまにはいいじゃありませんか。オリビア様。私、スザンヌとお友だちになったのですよ。私たち三人、陛下の妻でありながらほとんど話もしないなんておかしいですと話しあったのですよ。さあ、オリビア様は我々の主人ですからね。しっかりと我々の不満を聞いて頂きましょう」
「ふ、不満?」
「そうですよ。お茶を飲みながらお話しましょ!」
突然のことであっけにとられながらも、二人に強制的に連れて行かれてしまった。
カーラの部屋に入ると、自分の部屋よりも可愛らしい調度品。少女のような飾り物に彼女らしさを感じた。
「さあ、私の侍女たち! 王妃さまのお成りよ! スザンヌもいるわよ! お菓子とお茶を持ってきてちょうだい!」
カーラが奥に叫ぶと、慌てて返事が返ってくる。
「え!? あ、あ、あ、王妃さまが? か、かしこまりましたー!」
ばたばたと四、五人の足音。私はそんな中、カーラに導かれて窓側のテーブルに。同テーブルであるものの、二人とも私から離れて、臣下の礼をとった。
そうしていると、私の前にお茶と焼き菓子が並ぶ。カーラは手を出してそれを勧めた。
「王妃さま。侍女の中でお菓子作りが上手なものがおりますの。きっとお口に合いますわよ。さあ召し上がれ?」
促されるまま、焼き菓子をサクリと音を立てて食べると上品な味である。私はすっかり感心してしまった。
「へえ。美味しいわ」
「うふ。そうでしょう。スザンヌ。私たちも」
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