1 / 1
呪いのダイヤモンド
しおりを挟む
それは、「天上の宝玉」と呼ばれていた。
決して大げさな話ではない。
ローズカットが施された美しいダイヤモンド。
この薄暗い小部屋でもその輝きは異様を放っていた。
その歴史は古く、17世紀のインドの寺院から発見されたらしい。
当時の大きさは157カラット。
それがヨーロッパに渡り、カットされ小粒になっていった。
今私の目の前にあるのがそれだ。
思わず息を飲んだ。
「効果は本当なんだろうな?」
聞くと、怪しき老宝石商はふふんと笑った。
「そもそも、最初の所持者である寺院の僧侶は略奪して行った探検家たちに呪いの言葉を吐きながら屋根から身を投げてその命を亡くしました。ぶんどっていった探検家も売り払った後に事故で全員が死亡。それを買い取った王家も戦争で負けて滅亡。フランスの王妃がその後の所有者となったが革命にあって生涯を閉じました」
「しかし、それだけでは。ただの偶然と……」
「思われても仕方がないとおっしゃられるんでしょう?」
そう言って黄ばんだ歯をのぞかせながら二ィッと笑った。
「フランス王家からその宝石は消えた。本当に呪いのダイヤ『天上の宝玉』などあったのでしょうか? しかしその後、ナポレオンが現れるまでフランスには粛清の嵐が吹き荒れました。国に呪いをかけ続けたのではないでしょうか。そしてある本にこうあります。革命後、どさくさ紛れに貴族の宝物殿に入り込んだ盗賊が自警団に手を切り落とされ殺された」
「ふむ」
「それから小さなニュースではあるものの、ヨーロッパで同じようなニュースが点々。盗みを働いたものが殺され、その付近でまた、その付近でまた……」
「なるほど」
「こちらはロシアにある美術館にあったものを、あるルートで手に入れたものです。その説明書きにはしっかりと『天上の宝玉』と」
「ほう……」
「文献にある通り、ローズカットされた透明度の高いダイヤモンド。そしてカラット数もその通りだったようで。最後にはロシアに流れる小さい川の中で骸骨とともに見つかったそうです」
「……つまり、最後の持ち主を呪い殺したまま、川の中にうずまったんだな」
「その通り。だが今このように目を覚ましました」
話を聞いていた私はうなった。
こんな呪いの宝石が本当に現存するなんて。
しかし、ありがたい。
自分の計画にはそれが必要だったのだ。
私は愛していない女と結婚する。
富豪の娘。むこうは私にぞっこんだ。
資産は何百億あることやら。
本当は貧乏だが同棲している女がいるのだ。
愛しているのはこちらの方だ。
どちらを取るのか?
金か?
愛か?
どちらも選べなかった。
方法がないものか考えた。
金を持っている女は嫉妬深い。
愛する女を外に囲って会いに行って見つかったら裸で追い出されてしまうだろう。
目的は金なのに、よけいなオマケ。
このオマケをどうにかしたい。
だが殺すわけになど行かない。いずれ発見されて逮捕されては元も子もない。
そこでこの方法を見つけた。
呪いの宝石。
所持者を呪い殺す。
これをオマケに婚約指輪だと渡してやれば、きっと感激するだろう。
大事に大事に持つことだろう。
所持することで発動するんだ。
これでオマケが死ねばしめたものだ。
財産は手中に収めることができ、ほとぼりがさめれば愛人を迎え入れればいい。
夢のような生活がすぐにやってくる。
自分の計画の良さに笑いを漏らした。
「よし、買おう」
「へへへ。毎度ありぃ」
「いくらだ」
「一億。それでダンナの計画がなれば安いものです」
足元を見やがる。
だが、一億はオマケから小遣いとしてもらっている。
婚約指輪を買うと言ったらポーンとくれた。
オマケにしてみりゃ一億動かすなんてなんてこたぁないんだろう。
金は後払いということで、宝石をケースに入れてもらい外に出た。
これをアイツの指につけてやろう。
もう一度ケースを開けて中を見てみると、大粒の宝石が太陽の光を受けて燃えるように光った。
「まぶし!」
思わず目をつぶる。
その時だった。
目をくらんだのは私だけではなかった。
道路を走っていた大型トレーラーの運転手も光の被害者であった。
ガオーンと音を立てて宝石店に突っ込んだ。
◇
富豪の娘は新聞を見ていた。
そして涙を流す。
宝石店に突っ込んだトレーラーからは火が吹き出し、店を全焼させた。
後からは遺体が二つ。
運転手は奇跡的に無事。
おそらく、店主と客ということだった。
富豪の娘の婚約者が店から出るところを見ていた者がいた。
その手には大きな宝石がついたリングがあったらしい。
その宝石がまばゆい光を放ち、運転手は目がくらんだろうという話であった。
彼女の手にはそのリングがある。
だが宝石はない。
ダイヤモンドの元素記号は『C』。
すなわち炭素だ。
火災により宝石の部分は燃え尽きてしまった。
呪いのダイヤモンド『天上の宝玉』は永遠にこの世から失われてしまったのである。
決して大げさな話ではない。
ローズカットが施された美しいダイヤモンド。
この薄暗い小部屋でもその輝きは異様を放っていた。
その歴史は古く、17世紀のインドの寺院から発見されたらしい。
当時の大きさは157カラット。
それがヨーロッパに渡り、カットされ小粒になっていった。
今私の目の前にあるのがそれだ。
思わず息を飲んだ。
「効果は本当なんだろうな?」
聞くと、怪しき老宝石商はふふんと笑った。
「そもそも、最初の所持者である寺院の僧侶は略奪して行った探検家たちに呪いの言葉を吐きながら屋根から身を投げてその命を亡くしました。ぶんどっていった探検家も売り払った後に事故で全員が死亡。それを買い取った王家も戦争で負けて滅亡。フランスの王妃がその後の所有者となったが革命にあって生涯を閉じました」
「しかし、それだけでは。ただの偶然と……」
「思われても仕方がないとおっしゃられるんでしょう?」
そう言って黄ばんだ歯をのぞかせながら二ィッと笑った。
「フランス王家からその宝石は消えた。本当に呪いのダイヤ『天上の宝玉』などあったのでしょうか? しかしその後、ナポレオンが現れるまでフランスには粛清の嵐が吹き荒れました。国に呪いをかけ続けたのではないでしょうか。そしてある本にこうあります。革命後、どさくさ紛れに貴族の宝物殿に入り込んだ盗賊が自警団に手を切り落とされ殺された」
「ふむ」
「それから小さなニュースではあるものの、ヨーロッパで同じようなニュースが点々。盗みを働いたものが殺され、その付近でまた、その付近でまた……」
「なるほど」
「こちらはロシアにある美術館にあったものを、あるルートで手に入れたものです。その説明書きにはしっかりと『天上の宝玉』と」
「ほう……」
「文献にある通り、ローズカットされた透明度の高いダイヤモンド。そしてカラット数もその通りだったようで。最後にはロシアに流れる小さい川の中で骸骨とともに見つかったそうです」
「……つまり、最後の持ち主を呪い殺したまま、川の中にうずまったんだな」
「その通り。だが今このように目を覚ましました」
話を聞いていた私はうなった。
こんな呪いの宝石が本当に現存するなんて。
しかし、ありがたい。
自分の計画にはそれが必要だったのだ。
私は愛していない女と結婚する。
富豪の娘。むこうは私にぞっこんだ。
資産は何百億あることやら。
本当は貧乏だが同棲している女がいるのだ。
愛しているのはこちらの方だ。
どちらを取るのか?
金か?
愛か?
どちらも選べなかった。
方法がないものか考えた。
金を持っている女は嫉妬深い。
愛する女を外に囲って会いに行って見つかったら裸で追い出されてしまうだろう。
目的は金なのに、よけいなオマケ。
このオマケをどうにかしたい。
だが殺すわけになど行かない。いずれ発見されて逮捕されては元も子もない。
そこでこの方法を見つけた。
呪いの宝石。
所持者を呪い殺す。
これをオマケに婚約指輪だと渡してやれば、きっと感激するだろう。
大事に大事に持つことだろう。
所持することで発動するんだ。
これでオマケが死ねばしめたものだ。
財産は手中に収めることができ、ほとぼりがさめれば愛人を迎え入れればいい。
夢のような生活がすぐにやってくる。
自分の計画の良さに笑いを漏らした。
「よし、買おう」
「へへへ。毎度ありぃ」
「いくらだ」
「一億。それでダンナの計画がなれば安いものです」
足元を見やがる。
だが、一億はオマケから小遣いとしてもらっている。
婚約指輪を買うと言ったらポーンとくれた。
オマケにしてみりゃ一億動かすなんてなんてこたぁないんだろう。
金は後払いということで、宝石をケースに入れてもらい外に出た。
これをアイツの指につけてやろう。
もう一度ケースを開けて中を見てみると、大粒の宝石が太陽の光を受けて燃えるように光った。
「まぶし!」
思わず目をつぶる。
その時だった。
目をくらんだのは私だけではなかった。
道路を走っていた大型トレーラーの運転手も光の被害者であった。
ガオーンと音を立てて宝石店に突っ込んだ。
◇
富豪の娘は新聞を見ていた。
そして涙を流す。
宝石店に突っ込んだトレーラーからは火が吹き出し、店を全焼させた。
後からは遺体が二つ。
運転手は奇跡的に無事。
おそらく、店主と客ということだった。
富豪の娘の婚約者が店から出るところを見ていた者がいた。
その手には大きな宝石がついたリングがあったらしい。
その宝石がまばゆい光を放ち、運転手は目がくらんだろうという話であった。
彼女の手にはそのリングがある。
だが宝石はない。
ダイヤモンドの元素記号は『C』。
すなわち炭素だ。
火災により宝石の部分は燃え尽きてしまった。
呪いのダイヤモンド『天上の宝玉』は永遠にこの世から失われてしまったのである。
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
マーガレット・ラストサマー ~ある人形作家の記憶~
とちのとき
ミステリー
人形工房を営む姉弟。二人には秘密があった。それは、人形が持つ記憶を読む能力と、人形に人間の記憶を移し与える能力を持っている事。
二人が暮らす街には凄惨な過去があった。人形殺人と呼ばれる連続殺人事件・・・・。被害にあった家はそこに住む全員が殺され、現場には凶器を持たされた人形だけが残されるという未解決事件。
二人が過去に向き合った時、再びこの街で誰かの血が流れる。
【作者より】
ノベルアップ+でも投稿していた作品です。アルファポリスでは一部加筆修正など施しアップします。最後まで楽しんで頂けたら幸いです。
時ヲ震ワス鐘 ~美野川線列車脱線事故~
星野 未来
ミステリー
『紬(つむぎ)』と『陸(りく)』は、美野川のほとりで結婚を約束し合った。しかし、4月12日に陸の乗った列車が、脱線事故を起こし、死傷者100名を超える大惨事となった。その列車の1両目に乗っていた陸は、鉄橋から落ち、美野川で遺体となって発見される。
大切な恋人を失ってしまった紬は、陸の眠っているお墓を訪ねると、そこで出会ったお寺の住職に、過去に戻れることを教えられた。半信半疑の紬だったが、過去に戻り彼をあの列車事故から救いたいという気持ちが勝り、時を震わす魔法の釣鐘で過去に戻る決断をする。
そして、あの列車事故のあった当日へ戻り、陸を助けようとするが……。
紬は、果たして陸を救い出すことができたのか……?
乗客を事故から救い出せたのか……?
紬と陸の思い出の場所を舞台にした『美野川線列車脱線事故』めぐる恋愛タイムスリップ・サスペンス。
もし、あなたが過去に戻って、大好きな人を救い出せるとしたら、歴史が変わったとしても戻りますか……。
有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第八話。
『過去』は消せない
だから、忘れるのか
だから、見て見ぬ振りをするのか
いや、だからこそ――
受け止めて『現在』へ
そして、進め『未来』へ
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
パストメール
れくさん
ミステリー
主人公の湯浅あさひは昔のあることに後悔をする日々を送っていた。人を疑わなかったことで起こり続けた不可解な現象、あさひの人生はそれにめちゃくちゃにされていた。ある日人生に絶望していたあさひは自殺を試みるが….
Brain Nunber
藤岡 志眞子
ミステリー
脳の記憶に数式が浮かぶ。解くとある暗号が…
十七歳の少女が難題の数式を解き、答えであるパスワードを用いて開けられずにいた天才研究者の開かずの扉を開けるミッションに駆り出される。
しかし、数式を解いていく中、関わる者達の関係性、ミッションの内容が紐解かれていく。
33話完結。
※グロい内容を含みます。
Instagram
morioka09
隠蔽(T大法医学教室シリーズ・ミステリー)
桜坂詠恋
ミステリー
若き法医学者、月見里流星の元に、一人の弁護士がやって来た。
自殺とされた少年の死の真実を、再解剖にて調べて欲しいと言う。
しかし、解剖には鑑定処分許可状が必要であるが、警察には再捜査しないと言い渡されていた。
葬儀は翌日──。
遺体が火葬されてしまっては、真実は闇の中だ。
たまたま同席していた月見里の親友、警視庁・特殊事件対策室の刑事、高瀬と共に、3人は事件を調べていく中で、いくつもの事実が判明する。
果たして3人は鑑定処分許可状を手に入れ、少年の死の真実を暴くことが出来るのか。
クアドロフォニアは突然に
七星満実
ミステリー
過疎化の進む山奥の小さな集落、忍足(おしたり)村。
廃校寸前の地元中学校に通う有沢祐樹は、卒業を間近に控え、県を出るか、県に留まるか、同級生たちと同じく進路に迷っていた。
そんな時、東京から忍足中学へ転入生がやってくる。
どうしてこの時期に?そんな疑問をよそにやってきた彼は、祐樹達が想像していた東京人とは似ても似つかない、不気味な風貌の少年だった。
時を同じくして、耳を疑うニュースが忍足村に飛び込んでくる。そしてこの事をきっかけにして、かつてない凄惨な事件が次々と巻き起こり、忍足の村民達を恐怖と絶望に陥れるのであった。
自分たちの生まれ育った村で起こる数々の恐ろしく残忍な事件に対し、祐樹達は知恵を絞って懸命に立ち向かおうとするが、禁忌とされていた忍足村の過去を偶然知ってしまったことで、事件は思いもよらぬ展開を見せ始める……。
青春と戦慄が交錯する、プライマリーユースサスペンス。
どうぞ、ご期待ください。
うつし世はゆめ
ねむていぞう
ミステリー
「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」これは江戸川乱歩が好んで使っていた有名な言葉です。その背景には「この世の現実は、私には単なる幻としか感じられない……」というエドガ-・アラン・ポ-の言葉があります。言うまでもなく、この二人は幻想的な小説を世に残した偉人です。現実の中に潜む幻とはいったいどんなものなのか、そんな世界を想像しながら幾つかの掌編を試みてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる