上 下
1 / 1

婚約破棄されたけど、その後の求婚者がいっぱい

しおりを挟む
「ダリア! 君との婚約を破棄する! そして僕フィリッツは男爵令嬢モニカと真実の愛に生きるのです。ご静聴ありがとう」

 突然、夜会の最中、フィリッツ王太子殿下より婚約破棄を言い渡されてしまった、私はダリア。18歳の公爵令嬢なのですけど、そんなこと言って殿下ったら。私の家の後押しがなかったら、王太子の地位も砂上の城なのよ? 大丈夫?

 私がなにも言えずにいると、パーティーの席上から一つの声が上がった。

「じゃ、じゃあ私が次の婚約者に立候補してもいいかな!?」

 え? 私がそちらに目をやると、フィリッツ殿下の弟であるウィリアム王子だ。歳は私と同じで美男でありながら、才能もある優秀なひと。残念ながら後押しする貴族がいなかったけど、ウチがバックについたらそりゃあ次の王太子になっちゃうわよね?

「なんだと、ウィリアム。引っ込んでろ」
「兄上はダリアと婚約破棄なさるんでしょう。では口出し無用です。私は幼い頃より可憐な花のようなダリアを好きだったのに、王命にて兄上がダリアの婚約者になったので諦めざるをえなかったのです。ですがこうなれば私が立候補します」

「なにぃ!?」

 あわわわわ。兄弟ゲンカが始まっちゃったわ! えー!? たしかにウィリアムの恋する目線に気がついてなかったわけじゃないけど、いやーん。今それに答えなきゃ駄目? どうしよう。
 そこに、別の声が上がる。

「ちょっと待ったあ!」
「ちょっと待ったコール! あ、あなたは! 隣国の皇太子、エドワード殿下!」

 お? ギャラリーのお陰で誰が声をあげたか分かったわ。
 我が国の二倍の領地を持ってる帝国の皇太子さま。今日は外交のために来ていたんだったわね。

「ダリア。一目見たときから、素敵な人と思ってたんだ。王太子殿下から婚約破棄されたのであれば、我が国にいらっしゃい。私の妃の部屋を与えます」
「え? 本当ですか殿下」

「ええ、もちろんですとも」

 マジですか、エドワード殿下。飛ぶ鳥を落とす勢いの帝国の有望な皇太子が第一印象から決めてましたと。さぁこりゃ困ったぞ? ウィリアム殿下とエドワード殿下。どっちをとればいいのぉ?
 盛り上がってるそこに、またもや新たな声。

「待ってください!」
「あ、あなたは、『法王を守る魔導騎士団国』の長、グレゴリオ騎士団長!」

「ダリアさん。我が国は領地だけに及ばず、すべての国に影響を持つ法王の直轄です。私と共に世界を巡ってみませんか?」

 ええー!? そんなに若くて団長ですの? 『法王を守る魔導騎士団国』? お国の名前長くて覚えられないですわー? えー、でも金縁メガネがこれ程似合うかた、おられるかしら? 私、メガネフェチだったりするのよね。

「こうなったら、僕は婚約破棄をやめるぞー!!」
「もう兄上は引っ込んでてください!!」
「そうだ、そうだ! 彼女は私と帝国にいくのだ」
「いえいえ騎士団国です。毎日が巡察名目の世界旅行」

 ああどうしたらいいのかしら? たくさんの殿方が私を奪い合うなんて……!

「ダリア。僕と結婚するよな?」
「一度裏切った兄上など信用できません。ダリア私の元に来てください」
「第一印象から決めてました。ダリア、私の手をとってください」
「世界があなたを待ってます。さぁ私のところへ!」

 四人の将来有望な殿方が頭を下げて私の前に手を出してきた。私は誰の手をとればいいのぉ?



 その時だった。パーティー会場の灯りが全て消えて真っ暗になったのだ。突然のことにざわつく会場。

「早く灯りをつけろ!」
「あ、点いた!」
「ん? ダリア嬢は?」
「い、いない? 一体どこへ──?」





 気がつくと私は空の上から街を見下ろしていた。誰かが私を抱えている。

「お目覚めかい? 子猫ちゃん」
「あ、あなたは、怪盗トマホーク!?」

「その通り。今宵はあなたを盗みに来たのさ」

 怪盗トマホークだった。空を飛んでいるのはトマホークのグライダーだわ。
 しょっちゅう私がピンチの時に現れては偶然救う形になっていた義賊。いつも「あなたのためじゃない」と言って去っていたけど、今日は私を盗みに来たですって?

「だってあなたはいつも私に気がなくて……」
「そんなわけないだろ?」

 そう言って大空の上で情熱的なキス。ああこの人はいつも私の心を盗んでしまう。

「で、でも私、あなたのことよく知らないわ?」
「そうかな?」

 彼は私を抱いたまま仮面を取った。

「あ、あなたは私付きの使用人トム!」
「その通り、お嬢様。ずっとあなたが好きでした。もう公爵家には戻りません。このまま私とあなただけの国を作りましょう。構いませんね?」

「──まったく。勝手だわ。私に断ることなどできないのでしょう?」
「ええダリア。私のかわいいお嫁さん」

 そして私たちは満月の中に消えていった。

 それから私は誰も知らない土地で、愛する人の元で楽しい人生を送ったのでした。


〈了〉
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

(完結)嫌われ妻は前世を思い出す(全5話)

青空一夏
恋愛
私は、愛馬から落馬して、前世を思いだしてしまう。前世の私は、日本という国で高校生になったばかりだった。そして、ここは、明らかに日本ではない。目覚めた部屋は豪華すぎて、西洋の中世の時代の侍女の服装の女性が入って来て私を「王女様」と呼んだ。 さらに、綺麗な男性は、私の夫だという。しかも、私とその夫とは、どうやら嫌いあっていたようだ。 些細な誤解がきっかけで、素直になれない夫婦が仲良しになっていくだけのお話。 嫌われ妻が、前世の記憶を取り戻して、冷え切った夫婦仲が改善していく様子を描くよくある設定の物語です。※ざまぁ、残酷シーンはありません。ほのぼの系。 ※フリー画像を使用しています。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

処理中です...