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灼熱のドラゴンと城
第75話 ヤケ酒の宴
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野営地。最近無言の三人。
もはやいい考えが浮かばない。
いつものようにステイルの中になにか良いものがないか探すが、もはや戦いになりそうなものは何もなかった。
そこにガッツが作っていた果実酒の樽が三つもあった。
「悔しいがもう万策尽きた。これを飲んで明日の朝、姫の元へ帰ろう」
「そうでやすねぇ。しかし酒か。手作りの酒。どんな味なのか」
酒を容器に満たすと、何とも言えない芳醇な甘い香り。
三人が一口飲んでみると今まで飲んだことの無い旨さだった。
「こりゃいい!」
三人は敗戦のことなど忘れてドンチャン騒ぎをしていると、いつの間にか一樽空いてしまった。
「あまり飲むとガッツに悪いかな?」
などと言っていると、人影を感じた。
見ると、露出の多い赤い衣に身を包んだ中年の美しい女性が一人、笑顔で近付いてきた。
「私はこの近くのものでローラと申します。とても美味しそうな匂いに誘われて来てしまいました」
酒で気持ちの大きくなっている三人は、妖しいとも思わず、その女を宴席に招き入れた。なみなみと容器に酒を注いで渡すと女は一気に赤くなった。
「美味しい!」
「そうでしょう。特製ですからね。どうです? もう一つ」
「いいわね。頂くわ」
女の酒が進むこと進むこと。
あっという間に一樽空けてしまった。
グレイブは最後の樽をステイルから取り出した。
「まぁ! まだあるのね」
「そうそう。せっかくですから飲んでしまいましょう」
「ローラさんはこの辺の方と仰ったがどの辺りで?」
「ああ、山の方ですよ」
「山にはドラゴンがいるでしょ?」
「おりますねぇ」
「ひょっとして我々の戦いを見てらした」
「そりゃ見えますよねぇ」
「いやぁ、お恥ずかしい負けて帰るところです」
男達がローラと話している間、レモーネは気付いてしまった。
赤い衣にみえるが、それは一枚一枚ウロコであったのだ。
レモーネの酔いは一気に覚めた。
これは人ならぬ者。ましてやこの地域に人の気配は無かった。
もしやこれはあのドラゴンが化けたものではないかとゾッとした。
「いやぁ、本当に美味しい! 長く生きておりますがこんなに美味しいものは始めでです」
「それほど気に入ったのならどうぞどうぞ」
グレイブはローラにさらに杯を勧めた。
「本当ですか? まぁ嬉しい!」
ローラはグレイブの杯を受け取らずに立ち上がって最後の樽を摑むとそれを抱え上げて徐々に樽を逆さにしていく。
あの嫋やかな女性が何という怪力であろうとグレイブもハーツも息を飲んだが、手を叩いて囃し立てた。
その内に樽は空になってしまいローラは残念そうな顔をした。
「ああん。もう無いのですね」
そう言って飲み残しを取ろうとテーブルに進むとフラフラと倒れ、テーブルに寄りかかってしまった。
「まぁ、何とも無様で申し訳ありません」
「ふふ。ローラさん。飲みすぎですよ。もし良ければ我々のテントで眠って行きなさい」
「まぁ。何から何まで甘えてしまって。実は先日大風に吹かれて家を失ってしまいまして」
「おやおやそれは難儀な」
「もし良ければお武家様のところのお酒も美味しいですし、旅のお供の端にお加え下さいませんか? 何でも致しますから」
「おお、そうですか。我々は世界を旅しており、いずれ自分たちの国を持とうとしております。その国民となって下さるなら願ったり叶ったりです」
「本当ですか? 嬉しいわ」
そう決まると、それぞれ寝台に向かって眠った。
残されたのはレモーネが一人。
訝しい思いを抱えて、馬車馬のアボガドゥル号をこっそりと馬車から外して鞍をつけた。
「アボガドゥル。目指すはアスローラ山の古城。ドラゴンが未だいるのか確かめたい!」
三人が寝ている中レモーネは馬を走らせた。
その内に気付いた。あんなに熱気ある山がずいぶんすずしくなっていると。
「やっぱりあれはドラゴンなのだわ」
山頂の山に着く頃には、暗闇も白くなり朝の訪れを示していた。
その城跡にはやはりドラゴンはおらず、朝露すら降っていた。
「ドラゴンが下山したので気温も元に戻ったのだわ。ハーツが危ない! ……グレイブさまも。きっとあれは私たちを噛み殺すつもりなんだわ!」
レモーネは馬の腹を蹴って急いで下山した。
安らかな生活を脅かした我々を簡単に殺せる場所にいる。
住処を大風で失ったと言っていた。
その恨みだ。城壁の間から首を覗かせていた執念深いドラゴン。
ハーツよ無事でいてくれ。
……グレイブも。
そんな思いのまま馬を走らせた。
もはやいい考えが浮かばない。
いつものようにステイルの中になにか良いものがないか探すが、もはや戦いになりそうなものは何もなかった。
そこにガッツが作っていた果実酒の樽が三つもあった。
「悔しいがもう万策尽きた。これを飲んで明日の朝、姫の元へ帰ろう」
「そうでやすねぇ。しかし酒か。手作りの酒。どんな味なのか」
酒を容器に満たすと、何とも言えない芳醇な甘い香り。
三人が一口飲んでみると今まで飲んだことの無い旨さだった。
「こりゃいい!」
三人は敗戦のことなど忘れてドンチャン騒ぎをしていると、いつの間にか一樽空いてしまった。
「あまり飲むとガッツに悪いかな?」
などと言っていると、人影を感じた。
見ると、露出の多い赤い衣に身を包んだ中年の美しい女性が一人、笑顔で近付いてきた。
「私はこの近くのものでローラと申します。とても美味しそうな匂いに誘われて来てしまいました」
酒で気持ちの大きくなっている三人は、妖しいとも思わず、その女を宴席に招き入れた。なみなみと容器に酒を注いで渡すと女は一気に赤くなった。
「美味しい!」
「そうでしょう。特製ですからね。どうです? もう一つ」
「いいわね。頂くわ」
女の酒が進むこと進むこと。
あっという間に一樽空けてしまった。
グレイブは最後の樽をステイルから取り出した。
「まぁ! まだあるのね」
「そうそう。せっかくですから飲んでしまいましょう」
「ローラさんはこの辺の方と仰ったがどの辺りで?」
「ああ、山の方ですよ」
「山にはドラゴンがいるでしょ?」
「おりますねぇ」
「ひょっとして我々の戦いを見てらした」
「そりゃ見えますよねぇ」
「いやぁ、お恥ずかしい負けて帰るところです」
男達がローラと話している間、レモーネは気付いてしまった。
赤い衣にみえるが、それは一枚一枚ウロコであったのだ。
レモーネの酔いは一気に覚めた。
これは人ならぬ者。ましてやこの地域に人の気配は無かった。
もしやこれはあのドラゴンが化けたものではないかとゾッとした。
「いやぁ、本当に美味しい! 長く生きておりますがこんなに美味しいものは始めでです」
「それほど気に入ったのならどうぞどうぞ」
グレイブはローラにさらに杯を勧めた。
「本当ですか? まぁ嬉しい!」
ローラはグレイブの杯を受け取らずに立ち上がって最後の樽を摑むとそれを抱え上げて徐々に樽を逆さにしていく。
あの嫋やかな女性が何という怪力であろうとグレイブもハーツも息を飲んだが、手を叩いて囃し立てた。
その内に樽は空になってしまいローラは残念そうな顔をした。
「ああん。もう無いのですね」
そう言って飲み残しを取ろうとテーブルに進むとフラフラと倒れ、テーブルに寄りかかってしまった。
「まぁ、何とも無様で申し訳ありません」
「ふふ。ローラさん。飲みすぎですよ。もし良ければ我々のテントで眠って行きなさい」
「まぁ。何から何まで甘えてしまって。実は先日大風に吹かれて家を失ってしまいまして」
「おやおやそれは難儀な」
「もし良ければお武家様のところのお酒も美味しいですし、旅のお供の端にお加え下さいませんか? 何でも致しますから」
「おお、そうですか。我々は世界を旅しており、いずれ自分たちの国を持とうとしております。その国民となって下さるなら願ったり叶ったりです」
「本当ですか? 嬉しいわ」
そう決まると、それぞれ寝台に向かって眠った。
残されたのはレモーネが一人。
訝しい思いを抱えて、馬車馬のアボガドゥル号をこっそりと馬車から外して鞍をつけた。
「アボガドゥル。目指すはアスローラ山の古城。ドラゴンが未だいるのか確かめたい!」
三人が寝ている中レモーネは馬を走らせた。
その内に気付いた。あんなに熱気ある山がずいぶんすずしくなっていると。
「やっぱりあれはドラゴンなのだわ」
山頂の山に着く頃には、暗闇も白くなり朝の訪れを示していた。
その城跡にはやはりドラゴンはおらず、朝露すら降っていた。
「ドラゴンが下山したので気温も元に戻ったのだわ。ハーツが危ない! ……グレイブさまも。きっとあれは私たちを噛み殺すつもりなんだわ!」
レモーネは馬の腹を蹴って急いで下山した。
安らかな生活を脅かした我々を簡単に殺せる場所にいる。
住処を大風で失ったと言っていた。
その恨みだ。城壁の間から首を覗かせていた執念深いドラゴン。
ハーツよ無事でいてくれ。
……グレイブも。
そんな思いのまま馬を走らせた。
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