私は張飛の嫁ですわ!

家紋武範

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出会い編

第二十九回 護衛 一

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 兵や物資をまとめて小沛の城へ向かうと、城からたくさんの炊煙が上がっております。
 雲長さんは、兵士に向かって叫びます。

「みんなご苦労だったな。豫州さまは心根のよいかたである。みんなを労うために食事の準備をしていたようである。帰ってみんなで食事にありつこうではないか!」

 その言葉にみんなまたもや歓声を上げました。ちなみに豫州さまとは兄者さま、つまり劉備さまのことです。豫州牧という地位にあったのでこう言われました。

 兵士たちは大喜びで城に入ると、兄者さんはみんなを労いました。

「さぁさぁ、待ってたぞゥ。粟飯も小麦を練って焼いた餅もある。みんなたらふく食っておくんな!」

 兵士の皆さんは、ワッと声をあげてご飯にありつきました。益徳さんと、雲長さんもそれにありつこうと腕捲りすると、チョンチョンと肩を突かれます。
 二人が振り替えると甘夫人でした。

「ほらほら。あんたたち将校が兵士に混じってたら、兵士が気を遣うでしょう。あんたたちはこっちよ!」

 と招かれるほうに行きますと、城内の一室でした。そこには三人分のお食事が用意されていたのです。
 魚のなますに炙り肉。清湯ちんたん、炒り豆に焼き栗に粟飯。ずらりと並んで美味しそうです。兵士の食事とは一段上ですわね。

「もうすぐ旦那も来るから。あーたたちも席に着きなさい。今回はご苦労だったわね! 私はお酒を持ってくるわよ」

 劉備一家に入って日の浅い狐の甘夫人ではございますが、もう男性陣の心を掴んだようで、益徳さんも雲長さんも、畏れ入って頭を下げています。
 そうしているの兄者さんが入ってきました。

「おう! 雲長、益徳。ご苦労だったなァ。この料理は梅のヤツが自ら作ったのよ。さぁ食ってくれ。それから梅よ! 酒だ、酒だ!」
「はいはい、分かってるわよゥ」

 甘夫人がお酒の瓶と柄杓を抱えてきて労いの宴の始まりです。
 三人揃うと陽気なものです。キャッキャウフフと楽しそう。

「こんな旨いもん久々に食った!」
「そうかぁ? 益徳、もっと食え。オイラのも食うか?」
「益徳ゥ。では儂のも食うがよい」

「そうかい? すまねぇな、兄者、義兄。オイラぁ、いつもでき損ないの足手まといだ。そんなオイラにこんなにまで……」
「バカやろう、なに言いやがる……」
「そうさ。儂たちァ家族……家族じゃないか……」

 な、泣いてる……。昔からこの人たち、こんな感じです。優しいお兄さまたちなんですねぇ。
 お酒を飲むのも身を寄せあってです。こんなにお部屋は広いのに。やがて兄者さんが手を打って話し出しました。

「さて義兄弟たち。雲長の策によって我らは一万の兵と、有り余る粟糧を手に入れた分けだが、これならいつでも徐州を取り戻せるぞぉ! どうでィ雲長、益徳!」

 と声高らかに宣言しますと、益徳さんも両手をあげて「そうだ!」と同調しました。ですが、雲長さんが一喝。

「んなわけないでしょう。もっと慎重にならなきゃいけませんよ、兄者」

 と言うので、二人とも上げた拳をゆっくりと下ろしました。

「で、でもよぅ。だったらどうすりゃいいんでィ、雲長」
「そうよ義兄。オイラたちァ、勢いに乗ってる。今攻めたほうがオイラはいいと思うがなァ」

 お二人は食い下がっていうものの、雲長さんは冷静です。

「前にも言いましたが、呂布は三万の騎兵を持ってます。これだけでも曹操どのと互角の兵馬だ。それに歩兵が二万。しかも練兵は呂布がやってる。儂らの兵は勢いは盛んなれども、未だに一同を介して練兵はしてません。馬も足りません。これでは戦いかたを知らずに全員やられます。いいですか? 兵が死んだらどうやって家族に詫びるのです?」

 非常に現実的な数字です。確かに五倍の兵ですし、難しいですわよねぇ。

「で、でもさ。オイラにゃ雲長もいる、益徳もいる。益徳のこの筋肉を見てくれよォ。中原にこんなやつァなかなかいねぇぞ、なァ! 益徳!」

 益徳さんはそこで力こぶをつくって見せましたが、雲長さんはジト目でございます。

「お二人、呂布陣営には呂布一人と思ってませんか? 呂布の元には名将の張遼ちょうりょう、字を文遠ぶんえんというものがおります。さらに勇将に高順こうじゅん。この二将は手強いですぞ。他にも腕の立つものがぞろぞろいます。さらには、呂布の背後に陳宮ちんきゅうという知恵者がおります。これが厄介だ」
「厄介ってはどう厄介なんだ?」

「この陳宮、元々は曹操どのの知恵袋でしたが、曹操どのを裏切り、呂布を兗州引き入れた張本人なのです。今、兗州と徐州が乱れているのはこの男のはかりごとなのです」

 どどーん! ですわ! そうなんです。呂布はお神輿。担いでるのは陳宮。武は呂布とその軍団が、知は陳宮が。これではそう簡単に破ることなど出来ないのです。
 シーンとしてしまったお部屋で、甘夫人がポンと手を叩きました。

「だから、この小沛の兵をさらに精兵しなくちゃね」

 それに雲長さんは大きく頷きました。

「姐さん言う通り。儂が兵を練兵します。それには三ヶ月ほどかかりましょう。そして、我らが強兵に努めていることを陳宮は感付くでしょう」
「な、陳宮が?」

「ボヤボヤはしておれません。益徳には城民を動員して堀を深くして貰います。出来るな、益徳」
「おう!」

「それと同時に、山より薪を切り出して城に貯めておくのだ。燃料がなくなってはいかん。これもそなたが監督せい」
「おおう!」

 大変よいお返事です、益徳さん。つまり益徳さんは、城民の監督と護衛ですわね。
 それよりも、陳宮と呂布はいつ頃こちらに兵を発するのでしょうか? 怖いですわ!
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