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出会い編
第二十二回 青嵐賊 一
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はぁ、あれから一月。花嫁修行の名目で掃除、洗濯、料理に手芸。お作法やら高貴な方への儀礼、楽器や躍りや歌までみっちり毎日しごかれます。
とは言え、伯母さまからは益徳さんの名前は一切出ずに、ただ花嫁修行としか言われません。
くぬぬ。これは別に益徳さんのとこに嫁にやるんじゃなく、ただ単に益徳さんと会わせないための過密スケジュールなんですわ!
「三娘! 水汲みは終わったの!?」
「は、はーい。ただいま~」
ひい! 考えてる暇もないですわ。伯母さまったらどこから見てるのでしょう? ひーん。水汲みは力仕事だから苦手なんです~。もしも益徳さんならヒョヒョイのヒョイでしょうけど。
なんとか会えないかしらね? そしてお互いに頑張りましょうとエールを送り合うのよ。
この水汲みの合間にこっそりと……。
「三娘」
ドキィッ! ですわ。髪の毛全部逆立ちました! 伯母さまったら私の考えが読めますの?
声のほうを見ますと、そんな近くじゃありませんでした。台所の勝手口から身を乗り出して読んでおります。
「は、はーい。何でしょう、伯母さま」
「麦の粉を買ってきて頂戴」
「あ、あら。お屋敷に備蓄のものがありますでしょう?」
「あるわよ。これはあなたの修行なんだから、黙って目の前の市場に行って買ってきなさい。車を押して行けばすぐよ」
うーん。粉は女の子には重い。でも、屋敷の外に出られるじゃない!
でも、嬉しそうな顔をすると伯母さまに感ずかれるから、露骨に嫌な顔をしようっと。これも計略よ。
「こら。嫌な顔をするんじゃないわよ。それでは嫁の行き手がないわよ」
ふふふ。計略が図に当たったわね。嫁なら益徳さんが貰ってくれるもんねー。
私は手押し車を押して、市場のほうに。しかし市場には入りません。そのまま益徳さんのいる客舎のほうへ──。
◇
「え? いない?」
私は客舎に入る前に門番に話し掛けたら、その回答でした。
「ええお嬢さま。張郎中なら公務と称して西門のほうに行かれたっきりです。あれから五日にはなるでしょう。ひょっとしたら宿直などの業務に当たってるのかもしれません」
なーんだ。そうかー。郎中のお仕事もいろいろあるんでしょうね。
あまりブラブラしてると咎められるでしょうから、私は少し西門のほうに益徳さんがいるかどうかの確認だけしようと、出来るだけ近道をしてそちらに向かいました。
しかし、それが行けませんでした。普段行かないような薄暗い細い路地を、カラカラと手押し車を押しながら行きますと、突然口をふさがれ、大きな袋を頭から被されました。
ええええーー! ちょっと待ってよ!
「夏侯のお屋敷から身なり卑しからぬお嬢さまが出てきたとつけてきたら、簡単だったな。早速砦に運ぼう」
な、何事ですのーー!?
私を入れた袋は口を閉じられ、なにやら荷車の後ろに押し込まれました。そのままガラガラと音を立てて城門を出たようです。
そ、そうだわ。西門のほうにはごろつきが多いって伯父さまが言ってましたわ! つまり、私、誘拐されてしまったってことですの?
◇
揺られ揺られて、ようやく袋の口を開けられますと、汚いお顔をした男の人が数人覗き込んでおりました。ここは愛想笑いをするしかありません。
「おいおい、このお嬢さま、自分の立場も分からずに笑ってやがるぞ?」
「へっ! 何も分からず、良いもの着て、良いもの食ってるお嬢さまには世間の苦労なんざ分からんだろうよ。今の自分の立場すらな。お頭! どうしやす!?」
ひぃぃいいいい!!
笑っただけなのに怒らせてしまいましたわ!
お頭と呼ばれたのはこの一団のリーダーですわね。少し離れた場所に偉そうに座りながら答えました。
「まあそんな怒声を浴びせるなよ。お嬢さまが怯えるじゃねぇか。お嬢さまは大事なお客人だ。丁重に扱えよ」
ホッ。大事なお客かぁ。なんのお客なのかしら?
「おい手前ェ。お前は夏侯校尉のお屋敷に手紙を書け! 『お嬢さまは預かっている。返して欲しくば、身代金に千金用意しろ』とな!」
うえええ!! 私、人質ですの!? 手下の男は竹簡に言われた言葉を書き入れて、出ていきました。きっと夏侯屋敷に届けに行ったんですわ!
伯父さまや、伯母さまにとんだ迷惑が……。久しぶりに自己嫌悪ですわ。行くなと言われてた西門のほうに、たった一人でノコノコ出掛けてしまうなんて。
こんなお嬢さまの服装じゃ、目をつけられるに決まってるじゃない。
一団の頭目は、私のもとにやって来て、頭を掴みました。振り払おうとしたら殴られるかもしれません。ここは大人しく従うべきだわ。
「お嬢さま、我らは青嵐団ってぇんだ。世間では曹司空を恐れるが、俺たちは恐ろしくねぇ。金を集めて、呂布将軍の陣営にお土産にするのよ。そしたら呂布将軍は俺たちを優遇してくれるハズだ。なぁに、殺しゃしねぇよ。金貰うまではな」
ええーー!? お金貰った後は? どうなるんですのーー!?
この人たち、青嵐団って、都で聞く青嵐賊のことね? 山賊だわ。徐州の呂布の陣営に行くために都でお金集めをしていたのね。
この砦……、かなり大きいわ。数百人は暮らしてるようね。くぅぅうう~。こんなことになるなんて。
私は引き連れられて牢屋に入れられました。丸太で作られた牢屋は頑丈で、とても出られそうもありません。
伯父さまがお金を用意した後はどうなるのかしら?
私は口止めに殺される? それとも呂布陣営に連れていかれるのかしら?
ひーん。どちらにせよ、いい結果ではなさそうだわァ……。
とは言え、伯母さまからは益徳さんの名前は一切出ずに、ただ花嫁修行としか言われません。
くぬぬ。これは別に益徳さんのとこに嫁にやるんじゃなく、ただ単に益徳さんと会わせないための過密スケジュールなんですわ!
「三娘! 水汲みは終わったの!?」
「は、はーい。ただいま~」
ひい! 考えてる暇もないですわ。伯母さまったらどこから見てるのでしょう? ひーん。水汲みは力仕事だから苦手なんです~。もしも益徳さんならヒョヒョイのヒョイでしょうけど。
なんとか会えないかしらね? そしてお互いに頑張りましょうとエールを送り合うのよ。
この水汲みの合間にこっそりと……。
「三娘」
ドキィッ! ですわ。髪の毛全部逆立ちました! 伯母さまったら私の考えが読めますの?
声のほうを見ますと、そんな近くじゃありませんでした。台所の勝手口から身を乗り出して読んでおります。
「は、はーい。何でしょう、伯母さま」
「麦の粉を買ってきて頂戴」
「あ、あら。お屋敷に備蓄のものがありますでしょう?」
「あるわよ。これはあなたの修行なんだから、黙って目の前の市場に行って買ってきなさい。車を押して行けばすぐよ」
うーん。粉は女の子には重い。でも、屋敷の外に出られるじゃない!
でも、嬉しそうな顔をすると伯母さまに感ずかれるから、露骨に嫌な顔をしようっと。これも計略よ。
「こら。嫌な顔をするんじゃないわよ。それでは嫁の行き手がないわよ」
ふふふ。計略が図に当たったわね。嫁なら益徳さんが貰ってくれるもんねー。
私は手押し車を押して、市場のほうに。しかし市場には入りません。そのまま益徳さんのいる客舎のほうへ──。
◇
「え? いない?」
私は客舎に入る前に門番に話し掛けたら、その回答でした。
「ええお嬢さま。張郎中なら公務と称して西門のほうに行かれたっきりです。あれから五日にはなるでしょう。ひょっとしたら宿直などの業務に当たってるのかもしれません」
なーんだ。そうかー。郎中のお仕事もいろいろあるんでしょうね。
あまりブラブラしてると咎められるでしょうから、私は少し西門のほうに益徳さんがいるかどうかの確認だけしようと、出来るだけ近道をしてそちらに向かいました。
しかし、それが行けませんでした。普段行かないような薄暗い細い路地を、カラカラと手押し車を押しながら行きますと、突然口をふさがれ、大きな袋を頭から被されました。
ええええーー! ちょっと待ってよ!
「夏侯のお屋敷から身なり卑しからぬお嬢さまが出てきたとつけてきたら、簡単だったな。早速砦に運ぼう」
な、何事ですのーー!?
私を入れた袋は口を閉じられ、なにやら荷車の後ろに押し込まれました。そのままガラガラと音を立てて城門を出たようです。
そ、そうだわ。西門のほうにはごろつきが多いって伯父さまが言ってましたわ! つまり、私、誘拐されてしまったってことですの?
◇
揺られ揺られて、ようやく袋の口を開けられますと、汚いお顔をした男の人が数人覗き込んでおりました。ここは愛想笑いをするしかありません。
「おいおい、このお嬢さま、自分の立場も分からずに笑ってやがるぞ?」
「へっ! 何も分からず、良いもの着て、良いもの食ってるお嬢さまには世間の苦労なんざ分からんだろうよ。今の自分の立場すらな。お頭! どうしやす!?」
ひぃぃいいいい!!
笑っただけなのに怒らせてしまいましたわ!
お頭と呼ばれたのはこの一団のリーダーですわね。少し離れた場所に偉そうに座りながら答えました。
「まあそんな怒声を浴びせるなよ。お嬢さまが怯えるじゃねぇか。お嬢さまは大事なお客人だ。丁重に扱えよ」
ホッ。大事なお客かぁ。なんのお客なのかしら?
「おい手前ェ。お前は夏侯校尉のお屋敷に手紙を書け! 『お嬢さまは預かっている。返して欲しくば、身代金に千金用意しろ』とな!」
うえええ!! 私、人質ですの!? 手下の男は竹簡に言われた言葉を書き入れて、出ていきました。きっと夏侯屋敷に届けに行ったんですわ!
伯父さまや、伯母さまにとんだ迷惑が……。久しぶりに自己嫌悪ですわ。行くなと言われてた西門のほうに、たった一人でノコノコ出掛けてしまうなんて。
こんなお嬢さまの服装じゃ、目をつけられるに決まってるじゃない。
一団の頭目は、私のもとにやって来て、頭を掴みました。振り払おうとしたら殴られるかもしれません。ここは大人しく従うべきだわ。
「お嬢さま、我らは青嵐団ってぇんだ。世間では曹司空を恐れるが、俺たちは恐ろしくねぇ。金を集めて、呂布将軍の陣営にお土産にするのよ。そしたら呂布将軍は俺たちを優遇してくれるハズだ。なぁに、殺しゃしねぇよ。金貰うまではな」
ええーー!? お金貰った後は? どうなるんですのーー!?
この人たち、青嵐団って、都で聞く青嵐賊のことね? 山賊だわ。徐州の呂布の陣営に行くために都でお金集めをしていたのね。
この砦……、かなり大きいわ。数百人は暮らしてるようね。くぅぅうう~。こんなことになるなんて。
私は引き連れられて牢屋に入れられました。丸太で作られた牢屋は頑丈で、とても出られそうもありません。
伯父さまがお金を用意した後はどうなるのかしら?
私は口止めに殺される? それとも呂布陣営に連れていかれるのかしら?
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