これ友達から聞いた話なんだけど──

家紋武範

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俺はおふだを剥がしただけだ

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 それは暑い夏の日だった。
 俺は汗を拭きながら外回り営業をしていたんだ。
 その日は成果がさっぱりなので喫茶店にでも入って高校野球でも見ようと思ってた。

 ある小さな公園の入り口に、髪の長い女の子が石柱に寄りかかって立っていた。
 暑いのに、スーッと汗が引いてゆき逆に寒気がした。
 ははあ、これは幽霊だなと思っていると彼女と目があった。

 彼女は笑顔でこちらに近づいてきた。

「見えます?」
「一応ね。どうかしたかい?」

 普段なら幽霊なんて見えもしないし、会話もしないが、暑いからこの不思議な出来事がどうでも良かったのかも知れない。

 彼女は公園の前の塀に囲まれた豪邸を指差した。

「ここの住人は金貸しで、散々酷いことをしてきたんです」
「ふうん。そうかい」

「私の親はお人好しで借金の保証人になり、裏切られて取り立てに苦しみました」
「つまり君の一家は心中したと?」

「その通りです。私は成仏出来ずに彷徨っているのです」
「ふーん。俺にどうしろと?」

「ご迷惑はお掛けしません。あの門に御札がはってありますよね?」

 見ると大きな木の門の境目に御札が貼ってあり、達筆過ぎて読めない文字も書いてある。

「あれを剥がして貰うだけで結構です」
「そりゃ簡単だ。といっても俺にはなんのメリットもないよね。営業成績くらい上げてくれるのかな?」

「いえ。なにも出来ません。しかし私はあと二日の間にあの屋敷に入らないと……」
「どうなる? 恨みを晴らすのに期限があるのかい?」

「その通りなんです」
「ふうん」

 正直どうでもよかった。人助けなんてしたところで得もない。

「あっ……!」

 だが俺は御札を剥がしていた。お人好しな彼女の父親が報われないってのにも引っ掛かりがあったんだ。
 お人好しが彼女を助けたっていいじゃないか。

「ありがとうございます!」

 彼女はそう言うと、門の隙間から屋敷に入ってしまった。本当に幽霊だったんだな。
 しばらくすると屋敷の中から叫び声が聞こえてきたが、さっさとその場を去った。

 次の日、ある高利貸しが一家を殺害したとニュースでやっていた。気が狂って刃物を振り回し自殺したらしい。
 それが彼女の無念の晴らしかただったんだろう。

 まあこれで成仏してくれればな。しかしかわいい幽霊だった。女子高生くらいか?


 ある日会社から帰ると彼女はなぜか俺の部屋にいた。そして掃除や洗濯などの身の回りの世話をしてくれている。

「まだ成仏出来ない理由が出来たの」

 と言っている。どうしたもんか。
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