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彼女と別れた
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俺は昔から霊感が強かった。
それによって、見えなくてもいいものが見え、聞こえなくてもよいものが聞こえ、友人、知人から気味悪がられた。
そして長い間、霊障というものに悩まされ続けた。
相談するものは家族しかいなく、その家族も自分には見えないものだから半信半疑だ。
そんな状況だったが、仕方なしにその霊たちと付き合っていくという道を選び、無視することによってその状況をわずかだが打破することができ始めてきた。慣れとは恐ろしいものだ。
小中高とぼっちな俺だったが、大学で二つ上の玲奈と出会った。
彼女はギャルのような容姿をしており、とても強引で、なぜか俺に一目惚れしたと部屋に連れ込まれて男女となった。
とても友人が多く、俺とは正反対な性格だった。まるで太陽だ。人がたくさんよってくる。俺には人じゃないものが寄ってくるというのに。
「これ! アタシの彼氏。トモヲくん。みんなヨロシク~!」
あっという間に腕を組まれて宣言された。今までは霊による非日常的な生活だったけど、今度は玲奈による非日常的な生活に変わった。
彼女は俺の手を引いて、おしゃれな洋服屋。美容室。カフェなどに連れていって、人生の楽しさを教えてくれ始めた。
そんな日々は楽しくて、霊なんか忘れ始めていたが、ある時、交差点でドッと背中に重みを感じた。
すぐさま霊だと思ったが今までのとは桁違いだ。
俺は急いで家に帰ろうと、まるで腰の曲がった老人のような格好をしてアパートへ向かったが、そいつの力は余りにも強い。たくさんの霊体が重なりあって出来ているようなものだと感じた。
しかも、声が一つではない。何十何百と聞こえるのだ。しかも同じようなことを。
「死ね」「死ねよ」「死のう。ね?」「死ね」「死にな」「死のう」「死に」「死ね」「死んで」「来なよ」「死のう死のう」「死ね」「死んでね」「死ーね」「死ね」「死ね」「死」「死ぬか」「死ね──」
なぜだろう。だんだんと死にたくなってきた。これは死んだ人の魂の塊でこうして自分たちを大きくしているんだと思った。
路地を曲がると、そこに待っていた霊体が掃除機に吸われるように背中の霊と結合する。
背中にいるのに、まるで真っ黒い煙に覆われているのが見えるようだった。
俺はアパートの自室に帰るとひと息ついた。そして靴を脱いで部屋に上がり込んで一言。
「じゃ……死ぬかな」
背中の霊体は喜んで、死ぬことを煽る。俺は玲奈と買ったおしゃれな服を手にとって、手の部分を結ぶ。これをトイレのドアノブにかけて、簡易な首吊りをしようと考えたのだ。
霊もそうしろと俺を急かす。
俺はすぐさま死ななくてはならないと、トイレに向かおうとしたが、ポケットのスマホが着信を知らせた。玲奈だった。
俺は電話を取って、玲奈の話を聞く。
「トモヲ? 今、トモヲのアパートの下まで来たよー。美味しいご飯作ってあげるね」
普通の男なら喜ぶ話だが、玲奈のそんな言葉は今から死ぬ俺にとって迷惑でしかない。
「いいよ。帰れよ」
「なに? どうしたの?」
「玲奈のこと嫌いになった。だから別れたい。もう帰れ!!」
自分でもびっくりするほどの声が出た。それをいうなり、俺は電話を切ってソファーへと放り投げた。
そして服をドアノブにかけ、寝そべる形をとって、服の環に首を通す──。
霊たちは、気持ち悪く笑い俺の回りを漂う。俺はそうすることが当然のように、顎を服の環にかけ力を抜こうとした。
すると、霊たちが高らかに笑っていたはずなのに苦しみの声を上げ始める。
そうなると、俺の死にたい気持ちが徐々に薄れ、ハッと気付いて首吊りの姿勢を止めた。
霊たちは苦しみながら散り散りになり、廊下や壁に小さくなりながら消えて行く。そのときだった。
「トモヲ! もうなんだっていうの! アタシ別れないからね! 嫌な部分があるなら直すからそんなこといわないで!」
そこには泣いている玲奈が立っていた。どうやら部屋の鍵を閉めていなかったらしい。
彼女は泣いていたが、まるで太陽のようで部屋の中は眩しいくらい明るくなって、黒い煙だった霊体はあっという間に消しとんでなにもいなくなってしまった。
そこには、泣き叫ぶ玲奈と俺がいるだけ。俺は玲奈を部屋の中に入れて抱き締めていた。
それから俺は玲奈に話した。自分が霊を呼び寄せる体質で、その日は人生最強の霊に取り憑かれていたことに。
玲奈はその話を真剣に聴きながら俺の手を握っていた。
彼女はそれを信じてくれた。でもどうして霊が去ったのだろうと不思議に思っている感じだった。
俺はその原因が分かった。今まで、それが見えたことはなかったが、玲奈の後ろには白濁の玉を持ち和服を着た美女がいたのだ。その他にも槍を持った二人の武者。
おそらく守護霊というものだろう。
とにかく、こんな力強い霊を見たことはなかった。彼女の守護霊なのに、俺のピンチにその姿を現して助けてくれたのだ。
するとその和服美女がこちらを向いてニコリと微笑んだ。それに驚いていると、武者ともども美女も姿を消した。
玲奈はそれに気付かずに、俺のほうを向いていた。
「でもトモヲすごいね。私にも霊が取り憑いているのかな? ちょっと見てみてよ」
俺はそれに笑って答えた。
「ああいるよ。とびっきりすごいのが」
「え! ウソ! やだ!」
そういいながら玲奈は立ち上がって背中を壁にゴリゴリしていた。かわいい。
「いるけど、すごくいいヤツだよ」
「いいヤツでもやだよ」
「どうして?」
「だってトモヲとの夜のことも見られるんでしょ?」
そーか。たしかに。
「じゃ、止めとくか……」
「なにいってんの? 今日は悲しませたんだから、いつもの倍すること」
「強引だなぁ」
「いいじゃない」
玲奈は、守護霊の力もあるだろうけど、もともと太陽のような輝く力を持ち、陰気を持つ霊を避ける力を持っているのだろう。
彼女と同棲し始めたら、今までの霊障はウソのようになくなり、全身も軽くなった。
数年後、俺は当たり前のように彼女と結婚した。
たまに強引な彼女に辟易するけど、まったく霊は近づかなくなった。
それによって、見えなくてもいいものが見え、聞こえなくてもよいものが聞こえ、友人、知人から気味悪がられた。
そして長い間、霊障というものに悩まされ続けた。
相談するものは家族しかいなく、その家族も自分には見えないものだから半信半疑だ。
そんな状況だったが、仕方なしにその霊たちと付き合っていくという道を選び、無視することによってその状況をわずかだが打破することができ始めてきた。慣れとは恐ろしいものだ。
小中高とぼっちな俺だったが、大学で二つ上の玲奈と出会った。
彼女はギャルのような容姿をしており、とても強引で、なぜか俺に一目惚れしたと部屋に連れ込まれて男女となった。
とても友人が多く、俺とは正反対な性格だった。まるで太陽だ。人がたくさんよってくる。俺には人じゃないものが寄ってくるというのに。
「これ! アタシの彼氏。トモヲくん。みんなヨロシク~!」
あっという間に腕を組まれて宣言された。今までは霊による非日常的な生活だったけど、今度は玲奈による非日常的な生活に変わった。
彼女は俺の手を引いて、おしゃれな洋服屋。美容室。カフェなどに連れていって、人生の楽しさを教えてくれ始めた。
そんな日々は楽しくて、霊なんか忘れ始めていたが、ある時、交差点でドッと背中に重みを感じた。
すぐさま霊だと思ったが今までのとは桁違いだ。
俺は急いで家に帰ろうと、まるで腰の曲がった老人のような格好をしてアパートへ向かったが、そいつの力は余りにも強い。たくさんの霊体が重なりあって出来ているようなものだと感じた。
しかも、声が一つではない。何十何百と聞こえるのだ。しかも同じようなことを。
「死ね」「死ねよ」「死のう。ね?」「死ね」「死にな」「死のう」「死に」「死ね」「死んで」「来なよ」「死のう死のう」「死ね」「死んでね」「死ーね」「死ね」「死ね」「死」「死ぬか」「死ね──」
なぜだろう。だんだんと死にたくなってきた。これは死んだ人の魂の塊でこうして自分たちを大きくしているんだと思った。
路地を曲がると、そこに待っていた霊体が掃除機に吸われるように背中の霊と結合する。
背中にいるのに、まるで真っ黒い煙に覆われているのが見えるようだった。
俺はアパートの自室に帰るとひと息ついた。そして靴を脱いで部屋に上がり込んで一言。
「じゃ……死ぬかな」
背中の霊体は喜んで、死ぬことを煽る。俺は玲奈と買ったおしゃれな服を手にとって、手の部分を結ぶ。これをトイレのドアノブにかけて、簡易な首吊りをしようと考えたのだ。
霊もそうしろと俺を急かす。
俺はすぐさま死ななくてはならないと、トイレに向かおうとしたが、ポケットのスマホが着信を知らせた。玲奈だった。
俺は電話を取って、玲奈の話を聞く。
「トモヲ? 今、トモヲのアパートの下まで来たよー。美味しいご飯作ってあげるね」
普通の男なら喜ぶ話だが、玲奈のそんな言葉は今から死ぬ俺にとって迷惑でしかない。
「いいよ。帰れよ」
「なに? どうしたの?」
「玲奈のこと嫌いになった。だから別れたい。もう帰れ!!」
自分でもびっくりするほどの声が出た。それをいうなり、俺は電話を切ってソファーへと放り投げた。
そして服をドアノブにかけ、寝そべる形をとって、服の環に首を通す──。
霊たちは、気持ち悪く笑い俺の回りを漂う。俺はそうすることが当然のように、顎を服の環にかけ力を抜こうとした。
すると、霊たちが高らかに笑っていたはずなのに苦しみの声を上げ始める。
そうなると、俺の死にたい気持ちが徐々に薄れ、ハッと気付いて首吊りの姿勢を止めた。
霊たちは苦しみながら散り散りになり、廊下や壁に小さくなりながら消えて行く。そのときだった。
「トモヲ! もうなんだっていうの! アタシ別れないからね! 嫌な部分があるなら直すからそんなこといわないで!」
そこには泣いている玲奈が立っていた。どうやら部屋の鍵を閉めていなかったらしい。
彼女は泣いていたが、まるで太陽のようで部屋の中は眩しいくらい明るくなって、黒い煙だった霊体はあっという間に消しとんでなにもいなくなってしまった。
そこには、泣き叫ぶ玲奈と俺がいるだけ。俺は玲奈を部屋の中に入れて抱き締めていた。
それから俺は玲奈に話した。自分が霊を呼び寄せる体質で、その日は人生最強の霊に取り憑かれていたことに。
玲奈はその話を真剣に聴きながら俺の手を握っていた。
彼女はそれを信じてくれた。でもどうして霊が去ったのだろうと不思議に思っている感じだった。
俺はその原因が分かった。今まで、それが見えたことはなかったが、玲奈の後ろには白濁の玉を持ち和服を着た美女がいたのだ。その他にも槍を持った二人の武者。
おそらく守護霊というものだろう。
とにかく、こんな力強い霊を見たことはなかった。彼女の守護霊なのに、俺のピンチにその姿を現して助けてくれたのだ。
するとその和服美女がこちらを向いてニコリと微笑んだ。それに驚いていると、武者ともども美女も姿を消した。
玲奈はそれに気付かずに、俺のほうを向いていた。
「でもトモヲすごいね。私にも霊が取り憑いているのかな? ちょっと見てみてよ」
俺はそれに笑って答えた。
「ああいるよ。とびっきりすごいのが」
「え! ウソ! やだ!」
そういいながら玲奈は立ち上がって背中を壁にゴリゴリしていた。かわいい。
「いるけど、すごくいいヤツだよ」
「いいヤツでもやだよ」
「どうして?」
「だってトモヲとの夜のことも見られるんでしょ?」
そーか。たしかに。
「じゃ、止めとくか……」
「なにいってんの? 今日は悲しませたんだから、いつもの倍すること」
「強引だなぁ」
「いいじゃない」
玲奈は、守護霊の力もあるだろうけど、もともと太陽のような輝く力を持ち、陰気を持つ霊を避ける力を持っているのだろう。
彼女と同棲し始めたら、今までの霊障はウソのようになくなり、全身も軽くなった。
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