これ友達から聞いた話なんだけど──

家紋武範

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愛の巣

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「ただいまー」
「おかえりぃん」

◇六月十二日 晴れ

 賢也は十九時に帰宅。まだまだ新婚の熱さは消えない。
 私は賢也の幼なじみ。昔から一緒に遊んだ仲。こうして同じ家に住めるなんて幸せに。少しずつ愛を重ねていきたい。






「買い物行くか?」
「行こう。行こう」

◇六月十五日 晴れ

 休日に賢也と二人で買い物へ。まあいいついていこう。買い物袋四つ。全部賢也が持った。さすが力持ち。頼りになる。
 さりげない力強さが頼もしい。好き。





「あー。賢也がいないと暇だなァ。掃除も終わっちゃったし。友だちと電話でもするかな」

◇六月十八日 曇り

 賢也は出社。この空間に寂しさを覚えたので、こっそりついていった。迎えのビルの屋上から双眼鏡で賢也を眺める。好き。好き。好き。






「ただいま。出張中何もなかった?」
「ああん。寂しかった。おかえりぃぃ」

「他の男とか好きになってないよね」
「何言ってんのー。怒るよ」

「怒った顔も可愛いよ」

◇六月二十二日 晴れ

 賢也の出張にこっそりついていった。賢也は知らないけど、ビジネスホテルの隣の部屋にいたんだ。電気を消して、賢也の部屋の灯りを見ていたの。うふふ。私だけの賢也。大好きよ。






「ねぇ、賢也?」
「どうしたの?」

「私、お腹の中に赤ちゃんが……」
「ええ! うそ! やったぁ!」

「うふふふ。うれしい」
「やった、やった、やったぁ!」

「パパになるんだもんね。頑張って!」
「頑張るぞぉー!」

◇七月二十八日 はれ

 あの女!!! 殺してやりたい!!!






「賢也。賢也」
「……う。あ、ごめん」

「どうしたの? うなされてたよ?」
「ああ。昔の夢を見たんだ……」

「どんな?」
「小学校低学年の頃、高校生くらいの女の人が声をかけてきてさ……。一緒に遊ぼうって……。スゴく怖いって思ったけど、断ったらなにされるか分からなくて。かくれんぼをしたんだ。彼女が隠れている間に逃げたんだけど、いつもどこかで見られているような気がして……。忘れていたのにゴメン。急に思い出した」

「こっわ。ストーカー?」
「わからない。でもあの時の見下ろされていた目……。あれがどこかにあるようで……」

◇九月十一日 雨

 くそ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!
 お前が鬼のままなんだよ! 私との遊びは終わってない! さっさと探しに来い! あれからずっとそばにいるのに、チクショウ! そんなクソ女を選びやがって!






 九月十二日 曇り

 深夜。私はいつものように、天井の蓋を外し、冷蔵庫を足場にしてキッチンに降りる。風呂に行くのではない。今日の目的は別だ。
 こっそりと二人の寝室へと向かい、寝ている二人の元へ。
 顔だけでたらし込んだ女の顔をズタズタにしてやる。手にあるナイフを強く握り、大嫌いなその顔目掛けて振り下ろす。

 暗いのと屋根裏暮らしが祟ってか、耳と髪を僅かに削いだだけ。ナイフはベッドに刺さってしまった。

「キャーッ!」

 飛び起きる女と賢也。私はナイフを再度握る。

「だ、誰だ、お前は!」

 賢也は椅子の脚を掴んで殴りかかって来やがった! クソ! もう少しだったのに! クソ! クソ──!!







 三月十日 雪

 失敗した。女を殺せなかった。
 賢也のヤツも裏切りやがって。まだ遊びは終わってないのに。
 でもいいわ。あと六年、模範的に過ごせばここから出られる。その頃には賢也の子どもも、賢也と出会った頃くらいに成長しているだろう。
 賢也似の可愛い男の子だったらいいな。
 そしたら優しいお姉さんが遊んであげよう。今度は私が鬼のほうがいいかもね。

 うふ。うふふふふ。
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