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ティンクルさん
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俺たちの高校には「ティンクルさん」という遊びがあった。
いわゆる降霊術で、類似したものに「エンジェル様」とか「こっくりさん」とか有るらしいと親から聞いた。
学校的には禁止されていたが、誰もいない教室で五十音が書かれた紙に、中央には☆、その左右には「はい」と「いいえ」を書いて、☆の位置に50円玉を置いて参加者は50円玉に人差し指を添える。
「ティンクルさん、お出ましください」
と言って、50円が「はい」の方向に進めば成功だ。その後、聞きたい質問をすると、ティンクルさんは答えてくれる。と言っても、五十音の文字盤を使った単語のみなのだが。
俺たちは、仲の良い同じ班の女子二人と、同じく男子の佑樹の四人で放課後、誰もいない教室でティンクルさんをすることにしたのだ。
俺には目的があった。それは女子二人の中の山田が俺に気があるかを聞きたかったのだ。佑樹には言ってあったが、当然女子たちは知らない。
ティンクルさんには悪いが、少し操作してでも「やまだ」の名を指し示したかったのだ。
こういうことは女子は好きだが、俺たち男子は信じてはいない。だがそれに付き合って、運命は俺だと山田に伝えたかったのだ。
◇
さてメンバーも準備も揃いティンクルさんを始める。
ティンクルさんは、早々にお出でくださったようで、すぐに「はい」を示した。まあ佑樹がやったのだろうが。
女子はキャアキャア言いながら、青春まっしぐらな質問をしていた。くだらないテストの出題範囲や、どのコスメを買ったら良いかなんて聞いていたのだが。
ティンクルさんの答えは安定の「しらない」だけだったのだが。さすが佑樹。そんなの俺も知らん。
さて俺の番になったので、俺も聞いてみた。
「私貴之の運命の人は誰ですか?」
そう聞くと二人は真っ赤になって、黄色い声を上げる。
そして50円玉は、滑るように五十音の文字盤へと進む。
最初に「や」、次に「ま」。女子二人は好意的にキャアと一声。山田がこちらを上目遣いに見る。
50円玉は「ま」から「は」を通過し「た」に向かう一つ前の「な」で、止まる。そこでピタリと。引けど押せどまったく動かないのだ。
俺たちは驚いて、そこを見つめたままになってしまった。
「山田」ではなく、「山名」。
ウチのクラスにいる、目立たない女子「山名優宇」……。
洒落っ気もなく、チビなメガネっ娘。それが俺の頭の中にグルグルと回る。
俺は佑樹をギロリと睨み付けるが、佑樹は真っ青な顔をして首を横に振っている。
女子のほうを見ると、完全にシラケた顔をしていた。
「なーんか今日はもういいや」
「だねー、もうやめよ」
女子はそう言い放って、さっさとティンクルさんに帰って貰うと、自分たちも帰ってしまった。
俺と佑樹はただ呆然。しかし、佑樹はそんな操作はしていないと言うし、確かにそんなくだらないイタズラをするような男じゃない。
じゃあなんだ。あの運命の人はホントに山名──?
◇
それから妙に山名が気になり出してしまった。あのメガネの奥の瞳も。授業中に目が合って、互いに赤くなる毎日。
山田を思いつつ、山名まで気になる自分に自己嫌悪し、思い切って山田に言ってみた。
「なー山田? 俺たちって、そのぉ遊んでても面白ぇじゃん?」
「そだねー」
「それってワンチャンあるってことかなぁ」
「あー……、付き合うってこと?」
「んー、まあ」
「でもさぁ~、穂坂はさぁ、山名ちゃんのこと好きでしょ? 授業中見てるの知ってるよ?」
「やっぱそうナンすかねぇ?」
「自分に正直になれよ、少年」
「はい。山田パイセンあざーす」
「うむ、素直でよろしい」
なんか。逆に山田に言って良かったような気がする。
その日の帰り道、俺は山名を追いかけて告白した。山名は泣いて告白を受けてくれた。
地味で陰キャな豆チビだと思ってたけど、こうして見るとメチャクチャ可愛いと思った。
◇
それから、山名と一緒に帰るようになった。山名もどんどんオシャレになって行き、ますます可愛くなっていった。
帰り道の途中にあるホットドッグのキッチンカーに二人で並んで250円のプレーンを買う。半分にしてベンチで食べるのだ。
「あ、優宇。50円ある? 俺200円出すから」
「あ。ちょっと待って」
彼女は財布から50円を取り出したが、手から滑らせてしまった。
「あ、ゴメン。ちょっと待って」
山名は転がる50円を追いかけて草の中に入った。
◇
私は50円を探しに草むらに頭を突っ込んだが、なかなか見つからない。仕方がないので能力を使った。
すると当たり前のように50円は私の手の中に吸着してくる。
「あった、あった」
「ふふ、ドジだなぁ」
ふふ。見られてないよね。
いわゆる降霊術で、類似したものに「エンジェル様」とか「こっくりさん」とか有るらしいと親から聞いた。
学校的には禁止されていたが、誰もいない教室で五十音が書かれた紙に、中央には☆、その左右には「はい」と「いいえ」を書いて、☆の位置に50円玉を置いて参加者は50円玉に人差し指を添える。
「ティンクルさん、お出ましください」
と言って、50円が「はい」の方向に進めば成功だ。その後、聞きたい質問をすると、ティンクルさんは答えてくれる。と言っても、五十音の文字盤を使った単語のみなのだが。
俺たちは、仲の良い同じ班の女子二人と、同じく男子の佑樹の四人で放課後、誰もいない教室でティンクルさんをすることにしたのだ。
俺には目的があった。それは女子二人の中の山田が俺に気があるかを聞きたかったのだ。佑樹には言ってあったが、当然女子たちは知らない。
ティンクルさんには悪いが、少し操作してでも「やまだ」の名を指し示したかったのだ。
こういうことは女子は好きだが、俺たち男子は信じてはいない。だがそれに付き合って、運命は俺だと山田に伝えたかったのだ。
◇
さてメンバーも準備も揃いティンクルさんを始める。
ティンクルさんは、早々にお出でくださったようで、すぐに「はい」を示した。まあ佑樹がやったのだろうが。
女子はキャアキャア言いながら、青春まっしぐらな質問をしていた。くだらないテストの出題範囲や、どのコスメを買ったら良いかなんて聞いていたのだが。
ティンクルさんの答えは安定の「しらない」だけだったのだが。さすが佑樹。そんなの俺も知らん。
さて俺の番になったので、俺も聞いてみた。
「私貴之の運命の人は誰ですか?」
そう聞くと二人は真っ赤になって、黄色い声を上げる。
そして50円玉は、滑るように五十音の文字盤へと進む。
最初に「や」、次に「ま」。女子二人は好意的にキャアと一声。山田がこちらを上目遣いに見る。
50円玉は「ま」から「は」を通過し「た」に向かう一つ前の「な」で、止まる。そこでピタリと。引けど押せどまったく動かないのだ。
俺たちは驚いて、そこを見つめたままになってしまった。
「山田」ではなく、「山名」。
ウチのクラスにいる、目立たない女子「山名優宇」……。
洒落っ気もなく、チビなメガネっ娘。それが俺の頭の中にグルグルと回る。
俺は佑樹をギロリと睨み付けるが、佑樹は真っ青な顔をして首を横に振っている。
女子のほうを見ると、完全にシラケた顔をしていた。
「なーんか今日はもういいや」
「だねー、もうやめよ」
女子はそう言い放って、さっさとティンクルさんに帰って貰うと、自分たちも帰ってしまった。
俺と佑樹はただ呆然。しかし、佑樹はそんな操作はしていないと言うし、確かにそんなくだらないイタズラをするような男じゃない。
じゃあなんだ。あの運命の人はホントに山名──?
◇
それから妙に山名が気になり出してしまった。あのメガネの奥の瞳も。授業中に目が合って、互いに赤くなる毎日。
山田を思いつつ、山名まで気になる自分に自己嫌悪し、思い切って山田に言ってみた。
「なー山田? 俺たちって、そのぉ遊んでても面白ぇじゃん?」
「そだねー」
「それってワンチャンあるってことかなぁ」
「あー……、付き合うってこと?」
「んー、まあ」
「でもさぁ~、穂坂はさぁ、山名ちゃんのこと好きでしょ? 授業中見てるの知ってるよ?」
「やっぱそうナンすかねぇ?」
「自分に正直になれよ、少年」
「はい。山田パイセンあざーす」
「うむ、素直でよろしい」
なんか。逆に山田に言って良かったような気がする。
その日の帰り道、俺は山名を追いかけて告白した。山名は泣いて告白を受けてくれた。
地味で陰キャな豆チビだと思ってたけど、こうして見るとメチャクチャ可愛いと思った。
◇
それから、山名と一緒に帰るようになった。山名もどんどんオシャレになって行き、ますます可愛くなっていった。
帰り道の途中にあるホットドッグのキッチンカーに二人で並んで250円のプレーンを買う。半分にしてベンチで食べるのだ。
「あ、優宇。50円ある? 俺200円出すから」
「あ。ちょっと待って」
彼女は財布から50円を取り出したが、手から滑らせてしまった。
「あ、ゴメン。ちょっと待って」
山名は転がる50円を追いかけて草の中に入った。
◇
私は50円を探しに草むらに頭を突っ込んだが、なかなか見つからない。仕方がないので能力を使った。
すると当たり前のように50円は私の手の中に吸着してくる。
「あった、あった」
「ふふ、ドジだなぁ」
ふふ。見られてないよね。
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