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ティンクルさん

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 俺たちの高校には「ティンクルさん」という遊びがあった。
 いわゆる降霊術で、類似したものに「エンジェル様」とか「こっくりさん」とか有るらしいと親から聞いた。

 学校的には禁止されていたが、誰もいない教室で五十音が書かれた紙に、中央には☆、その左右には「はい」と「いいえ」を書いて、☆の位置に50円玉を置いて参加者は50円玉に人差し指を添える。

「ティンクルさん、お出ましください」

 と言って、50円が「はい」の方向に進めば成功だ。その後、聞きたい質問をすると、ティンクルさんは答えてくれる。と言っても、五十音の文字盤を使った単語のみなのだが。

 俺たちは、仲の良い同じ班の女子二人と、同じく男子の佑樹ゆうきの四人で放課後、誰もいない教室でティンクルさんをすることにしたのだ。

 俺には目的があった。それは女子二人の中の山田が俺に気があるかを聞きたかったのだ。佑樹には言ってあったが、当然女子たちは知らない。
 ティンクルさんには悪いが、少し操作してでも「やまだ」の名を指し示したかったのだ。

 こういうことは女子は好きだが、俺たち男子は信じてはいない。だがそれに付き合って、運命は俺だと山田に伝えたかったのだ。





 さてメンバーも準備も揃いティンクルさんを始める。
 ティンクルさんは、早々にお出でくださったようで、すぐに「はい」を示した。まあ佑樹がやったのだろうが。

 女子はキャアキャア言いながら、青春まっしぐらな質問をしていた。くだらないテストの出題範囲や、どのコスメを買ったら良いかなんて聞いていたのだが。
 ティンクルさんの答えは安定の「しらない」だけだったのだが。さすが佑樹。そんなの俺も知らん。

 さて俺の番になったので、俺も聞いてみた。

「私貴之たかゆきの運命の人は誰ですか?」

 そう聞くと二人は真っ赤になって、黄色い声を上げる。
 そして50円玉は、滑るように五十音の文字盤へと進む。

 最初に「や」、次に「ま」。女子二人は好意的にキャアと一声。山田がこちらを上目遣いに見る。
 50円玉は「ま」から「は」を通過し「た」に向かう一つ前の「な」で、止まる。そこでピタリと。引けど押せどまったく動かないのだ。

 俺たちは驚いて、そこを見つめたままになってしまった。

 「山田」ではなく、「山名」。
 ウチのクラスにいる、目立たない女子「山名優宇ゆう」……。
 洒落っ気もなく、チビなメガネっ娘。それが俺の頭の中にグルグルと回る。

 俺は佑樹をギロリと睨み付けるが、佑樹は真っ青な顔をして首を横に振っている。
 女子のほうを見ると、完全にシラケた顔をしていた。

「なーんか今日はもういいや」
「だねー、もうやめよ」

 女子はそう言い放って、さっさとティンクルさんに帰って貰うと、自分たちも帰ってしまった。

 俺と佑樹はただ呆然。しかし、佑樹はそんな操作はしていないと言うし、確かにそんなくだらないイタズラをするような男じゃない。

 じゃあなんだ。あの運命の人はホントに山名──?





 それから妙に山名が気になり出してしまった。あのメガネの奥の瞳も。授業中に目が合って、互いに赤くなる毎日。
 山田を思いつつ、山名まで気になる自分に自己嫌悪し、思い切って山田に言ってみた。

「なー山田? 俺たちって、そのぉ遊んでても面白ぇじゃん?」
「そだねー」

「それってワンチャンあるってことかなぁ」
「あー……、付き合うってこと?」

「んー、まあ」
「でもさぁ~、穂坂はさぁ、山名ちゃんのこと好きでしょ? 授業中見てるの知ってるよ?」

「やっぱそうナンすかねぇ?」
「自分に正直になれよ、少年」

「はい。山田パイセンあざーす」
「うむ、素直でよろしい」

 なんか。逆に山田に言って良かったような気がする。
 その日の帰り道、俺は山名を追いかけて告白した。山名は泣いて告白を受けてくれた。

 地味で陰キャな豆チビだと思ってたけど、こうして見るとメチャクチャ可愛いと思った。





 それから、山名と一緒に帰るようになった。山名もどんどんオシャレになって行き、ますます可愛くなっていった。

 帰り道の途中にあるホットドッグのキッチンカーに二人で並んで250円のプレーンを買う。半分にしてベンチで食べるのだ。

「あ、優宇。50円ある? 俺200円出すから」
「あ。ちょっと待って」

 彼女は財布から50円を取り出したが、手から滑らせてしまった。

「あ、ゴメン。ちょっと待って」

 山名は転がる50円を追いかけて草の中に入った。





 私は50円を探しに草むらに頭を突っ込んだが、なかなか見つからない。仕方がないので能力ちからを使った。
 すると当たり前のように50円は私の手の中に吸着してくる。

「あった、あった」
「ふふ、ドジだなぁ」

 ふふ。見られてないよね。
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