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愛人を殺した
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愛人の夢子を山の中に埋めに行った。あいつ、妊娠したことを妻の静香にバラすと言い出したのだ。
静香に言ったらどうなる。会社はあいつの一族のもんなんだぞ? そしたらお前だって愛人の栄華を失うというのに分かってない。愛があればなんて言葉は陳腐なもんだ。バカなやつ──。
山道に入り、少し走って車を停める。夢子の身体をトランクから出して月明かりを頼りに山の奥に入って、崩れかけの山肌を掘って埋めた。
穴に入れると、夢子の顔がこちらを向いて、冷たい視線が痛いことにゾッとして体勢を変えて入れ直す。
一仕事を終えて車に戻りエンジンをかける。まあ私生活が乱れてたやつだから、失踪したとでも思われるだろう。俺に嫌疑はかかるまい。
電子タバコを咥えてアクセルをゆっくりと踏む。滑るように山道を下る。
タバコの煙を吐き出して、落ち着こうと思ったがそうはならなかった。
あの夢子の青白い顔が目に焼き付いて離れなくなっている。
なぜだ、チクショウ! 殺すときはなんとも思わなかったのに、今になって夢子への気持ちに押し潰されそうになってる!
そう思って、何度も彼女を乗せた助手席を見ると、青白い死んだ夢子が目を開いてこちらに顔を向けているので驚いて急ブレーキを踏んだ。
その瞬間、彼女の死体はフロントガラスにぶつかった。フロントガラスは割れはしなかったものの、血や髪の毛が付いていた。
なぜだ?
息が荒い。鼓動もだ。夢子の死体はさっき埋めたはず──。
いずれにせよ、このままでは帰れない。埋めてこないと。
車をUターンさせ、先ほどの場所へと戻る。そして夢子の死体を背負って月灯りを頼りに山肌へ。
掘り返すと夢子の死体だ。背中にはもう一つの死体。なぜ二つ? どうして? どうして?
一心不乱に山肌に穴を掘る。服も靴は泥だらけだ。しかし、なんとか埋めた。体力はほぼ残っていない。
車に帰ると、夢子の死体が後部座席に乗っている。思わずそこにしゃがみこんだ。
「クソッ!」
小石を掴んでその辺に放ると、木に跳ね返って額にぶつかり悶絶した。しかしこうしてはいられない。
夢子の死体を引きずり出した。そして穴を掘る。もう力が出ないので山肌へはいかなかった。
しかし、その穴の中には夢子の死体があった。しかも二つ。俺の横にももう一つ……。
腕が重い。体が痛い。その穴にぶっきらぼうに夢子を押し込んで土をかける。大きな怪しい土饅頭が出来たが、もういい。早く帰りたい。
車に戻ると、今度は運転席に夢子の死体が座っていた。
口の中がねばつく。もう限界。もう限界だ。運転席の夢子を引きずり出して、そこに放置して車を走り出した。
俺は帰る。帰るんだ。
山道を下って行くと、検問をやっていた。こんな夜中に。こんな山道で。警官が左右に分かれて赤い棒を振っている。
しかし完全に無気力だった。もうどうでもよかった。力尽きたのだ。
砂利の音を立てて、そこに止まると警官が窓を叩く。俺は窓を降ろしながら聞いた。
「何かあったんですか?」
「いえ、私を殺した犯人を追っているんです」
と言った、警官の顔は夢子。左からきた警官も、パトカーから降りてきたのも……。
静香に言ったらどうなる。会社はあいつの一族のもんなんだぞ? そしたらお前だって愛人の栄華を失うというのに分かってない。愛があればなんて言葉は陳腐なもんだ。バカなやつ──。
山道に入り、少し走って車を停める。夢子の身体をトランクから出して月明かりを頼りに山の奥に入って、崩れかけの山肌を掘って埋めた。
穴に入れると、夢子の顔がこちらを向いて、冷たい視線が痛いことにゾッとして体勢を変えて入れ直す。
一仕事を終えて車に戻りエンジンをかける。まあ私生活が乱れてたやつだから、失踪したとでも思われるだろう。俺に嫌疑はかかるまい。
電子タバコを咥えてアクセルをゆっくりと踏む。滑るように山道を下る。
タバコの煙を吐き出して、落ち着こうと思ったがそうはならなかった。
あの夢子の青白い顔が目に焼き付いて離れなくなっている。
なぜだ、チクショウ! 殺すときはなんとも思わなかったのに、今になって夢子への気持ちに押し潰されそうになってる!
そう思って、何度も彼女を乗せた助手席を見ると、青白い死んだ夢子が目を開いてこちらに顔を向けているので驚いて急ブレーキを踏んだ。
その瞬間、彼女の死体はフロントガラスにぶつかった。フロントガラスは割れはしなかったものの、血や髪の毛が付いていた。
なぜだ?
息が荒い。鼓動もだ。夢子の死体はさっき埋めたはず──。
いずれにせよ、このままでは帰れない。埋めてこないと。
車をUターンさせ、先ほどの場所へと戻る。そして夢子の死体を背負って月灯りを頼りに山肌へ。
掘り返すと夢子の死体だ。背中にはもう一つの死体。なぜ二つ? どうして? どうして?
一心不乱に山肌に穴を掘る。服も靴は泥だらけだ。しかし、なんとか埋めた。体力はほぼ残っていない。
車に帰ると、夢子の死体が後部座席に乗っている。思わずそこにしゃがみこんだ。
「クソッ!」
小石を掴んでその辺に放ると、木に跳ね返って額にぶつかり悶絶した。しかしこうしてはいられない。
夢子の死体を引きずり出した。そして穴を掘る。もう力が出ないので山肌へはいかなかった。
しかし、その穴の中には夢子の死体があった。しかも二つ。俺の横にももう一つ……。
腕が重い。体が痛い。その穴にぶっきらぼうに夢子を押し込んで土をかける。大きな怪しい土饅頭が出来たが、もういい。早く帰りたい。
車に戻ると、今度は運転席に夢子の死体が座っていた。
口の中がねばつく。もう限界。もう限界だ。運転席の夢子を引きずり出して、そこに放置して車を走り出した。
俺は帰る。帰るんだ。
山道を下って行くと、検問をやっていた。こんな夜中に。こんな山道で。警官が左右に分かれて赤い棒を振っている。
しかし完全に無気力だった。もうどうでもよかった。力尽きたのだ。
砂利の音を立てて、そこに止まると警官が窓を叩く。俺は窓を降ろしながら聞いた。
「何かあったんですか?」
「いえ、私を殺した犯人を追っているんです」
と言った、警官の顔は夢子。左からきた警官も、パトカーから降りてきたのも……。
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