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ピンポンダッシュ
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子どもの頃の帰り道のイタズラと言えばこれだった。学校から帰る道すがらにある家の呼び鈴を鳴らして、逃げる。
ただそれだけのことだが、ランドセルをガチャガチャ鳴らしながらスリルを楽しんだ。
ある日の帰り道、友人の一人が言った。
「最近新築した家があるだろ? あそこにはブクブクのニートが一人で暮らしてるんだぜ!」
だから、社会のゴミであるニートに制裁を加えるためにピンポンダッシュをしようと言ってきたのだ。
俺たち四人は、楽しげにそこに向かった。そこは新しくも小さい家だった。
その日は言い出しっぺの佑樹が呼び鈴を押すことにした。
ピンポーン!
その音が合図になって、俺たちは駆け出し近くの塀に隠れた。
すると本当にブクブクの男が出てきた。脂ぎった髪と顔。腫れぼったい目蓋が全てを睨んでいるようで、玄関に誰もいないことに腹を立てたようで、思い切り扉を閉めていた。
俺はとても怖くて何も言えなかったが、三人の友人たちは腹を抱えて笑っていた。
次の日。その日は知治がやると言って、軽やかに呼び鈴を押して駆け出した。
昨日と同じ男が出てきて、今度は扉を殴り付けていた。俺はゾッとしたが、三人はゲラゲラ笑っていた。
次の日は翔がやった。出てきたいつもの男は「誰だ!」と怒っていたので、俺だけ震えていたが三人の友人たちは涙を流して喜んでいた。
「なあ、もう止めよう」
と言うと、三人は罪の意識なく
「なんで? 明日は亮の番じゃん?」
「そーそー。四人回ったら止めたっていいんじゃね?」
と言っていた。でも俺は怖かった。あの男の様子、次やったものを殺そうと考えているような……。
家に帰ると、母親は夕食の準備をしていた。
「ねえお母さん」
「なに亮ちゃん」
「四丁目に出来た新しい家の人ってこの辺の人じゃないよね、どんな人?」
すると母親は困ったような顔をしていた。
「あそこの人ねぇ。なんでもどこかのお金持ちの息子さんなんだけど、親が亡くなってこっちに引っ越して来たみたいなんだけどね……」
なかなか歯切れの悪い回答だった。母親は躊躇していたが、そのうちに言葉を追加した。
「あそこに近付いちゃダメよ? なんでもお巡りさんに捕まったこともあるみたい……」
俺の小さな胸が激しく鳴る。やはり何かあると思った。冷や汗が頬をつたって行く。
あんなイタズラ、やっぱりしては行けないのだと……。
放課後がくるのが怖かったが、悪友たちに囲まれ、あの家へ──。
俺は途中で棒きれを拾った。これで呼び鈴を押してもいいし、男が追ってきたら武器になるかもしれない。
しかし、男の家につく頃には、その家は真っ赤に染まっていた。パトランプが壁に反射してそう見えたのだ。
男はお巡りさんに捕まっていて、周りを囲む野次馬たちを恨むようにジッと見渡していた。
その時にフッと俺とも目があった。俺にはそれがとても長い時間に感じられ、おののいて棒きれを地面に落としてしまった。
男を乗せたパトカーは、サイレンを鳴らして去っていった。
◇
なんでも、彼の家を訪れた宅配の人が呼び鈴を押そうと手を伸ばしたとき、ピアノ線の仕掛けが施されており、プツンとそれが切れたと思ったら、斧が振り子のようになって、その人の腕を落としてしまったらしい。
それってつまり、俺たちイタズラ者への報復だったのだろう。
警察でもそのように供述したようで、緊急全校集会が開かれ、そのようなイタズラを止めるように言われた。
しかし、子どもとはそんなことをすぐに忘れてしまうようで、誰かがというわけでなく、またピンポンダッシュのイタズラが復活してしまった。
大人になった今では、そこらじゅうに防犯カメラがあるので、子どもたちはそんなイタズラをしなくなったが……。
悪意のない彼らは、チャンスがあれば悪気のないイタズラを仕掛けるのだろう──。
ただそれだけのことだが、ランドセルをガチャガチャ鳴らしながらスリルを楽しんだ。
ある日の帰り道、友人の一人が言った。
「最近新築した家があるだろ? あそこにはブクブクのニートが一人で暮らしてるんだぜ!」
だから、社会のゴミであるニートに制裁を加えるためにピンポンダッシュをしようと言ってきたのだ。
俺たち四人は、楽しげにそこに向かった。そこは新しくも小さい家だった。
その日は言い出しっぺの佑樹が呼び鈴を押すことにした。
ピンポーン!
その音が合図になって、俺たちは駆け出し近くの塀に隠れた。
すると本当にブクブクの男が出てきた。脂ぎった髪と顔。腫れぼったい目蓋が全てを睨んでいるようで、玄関に誰もいないことに腹を立てたようで、思い切り扉を閉めていた。
俺はとても怖くて何も言えなかったが、三人の友人たちは腹を抱えて笑っていた。
次の日。その日は知治がやると言って、軽やかに呼び鈴を押して駆け出した。
昨日と同じ男が出てきて、今度は扉を殴り付けていた。俺はゾッとしたが、三人はゲラゲラ笑っていた。
次の日は翔がやった。出てきたいつもの男は「誰だ!」と怒っていたので、俺だけ震えていたが三人の友人たちは涙を流して喜んでいた。
「なあ、もう止めよう」
と言うと、三人は罪の意識なく
「なんで? 明日は亮の番じゃん?」
「そーそー。四人回ったら止めたっていいんじゃね?」
と言っていた。でも俺は怖かった。あの男の様子、次やったものを殺そうと考えているような……。
家に帰ると、母親は夕食の準備をしていた。
「ねえお母さん」
「なに亮ちゃん」
「四丁目に出来た新しい家の人ってこの辺の人じゃないよね、どんな人?」
すると母親は困ったような顔をしていた。
「あそこの人ねぇ。なんでもどこかのお金持ちの息子さんなんだけど、親が亡くなってこっちに引っ越して来たみたいなんだけどね……」
なかなか歯切れの悪い回答だった。母親は躊躇していたが、そのうちに言葉を追加した。
「あそこに近付いちゃダメよ? なんでもお巡りさんに捕まったこともあるみたい……」
俺の小さな胸が激しく鳴る。やはり何かあると思った。冷や汗が頬をつたって行く。
あんなイタズラ、やっぱりしては行けないのだと……。
放課後がくるのが怖かったが、悪友たちに囲まれ、あの家へ──。
俺は途中で棒きれを拾った。これで呼び鈴を押してもいいし、男が追ってきたら武器になるかもしれない。
しかし、男の家につく頃には、その家は真っ赤に染まっていた。パトランプが壁に反射してそう見えたのだ。
男はお巡りさんに捕まっていて、周りを囲む野次馬たちを恨むようにジッと見渡していた。
その時にフッと俺とも目があった。俺にはそれがとても長い時間に感じられ、おののいて棒きれを地面に落としてしまった。
男を乗せたパトカーは、サイレンを鳴らして去っていった。
◇
なんでも、彼の家を訪れた宅配の人が呼び鈴を押そうと手を伸ばしたとき、ピアノ線の仕掛けが施されており、プツンとそれが切れたと思ったら、斧が振り子のようになって、その人の腕を落としてしまったらしい。
それってつまり、俺たちイタズラ者への報復だったのだろう。
警察でもそのように供述したようで、緊急全校集会が開かれ、そのようなイタズラを止めるように言われた。
しかし、子どもとはそんなことをすぐに忘れてしまうようで、誰かがというわけでなく、またピンポンダッシュのイタズラが復活してしまった。
大人になった今では、そこらじゅうに防犯カメラがあるので、子どもたちはそんなイタズラをしなくなったが……。
悪意のない彼らは、チャンスがあれば悪気のないイタズラを仕掛けるのだろう──。
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