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妖狐
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やれやれ。今日も一日が終わった。
俺は心地よいため息をつきながら机の引き出しを閉めた。
帰って妻と遊ぼう。少しドライブして、コーヒーショップで冷たい飲みものをテイクアウトしながら夜の街を軽く流そう。
そんなことを考えていた。急ぎ足でも弾むようだ。
俺は妻が好きなのだ。自分でいうのもなんだが平凡な俺。それが高嶺の花である妻に熱烈なプロポーズをし、それを涙ながらに受けてくれた。あんな美人で気遣いの出来る妻はそうはいないぞ?
どこにでも自慢できる彼女の元に逸る心を抑えながら道を進んでいた。
帰り道にある、大きな赤鳥居がある神社。そこから山伏姿の男が長い階段から降りてくる。
胡散臭いことこの上ない。そもそも宗派が違うのでないかと思うものの、珍しい姿の男を見つめてしまった。
「そ、そこのお方」
う。声をかけられた。見るんじゃなかった。面倒なことこの上ない。
男は急ぎ足で俺のほうにかけ降りてきて前に回り、通り過ぎようとする俺のスーツの袖を掴んできた。
「な、なんですか、あなた。藪から棒に」
「い、いえ、あなたは何もお気づきでない」
「何がです。人を呼びますよ?」
俺は本気だった。辺りを見渡しても誰もいないのが悔やまれる。男はそれをいいことに、矢継早に話し始める。
「あなたの奥さまは、人ではありません。妖怪です。膨大な力を持った狐ですよ」
「は? 何を言ってるのです」
「信じられないかもしれませんが、あなたから妖狐の気を感じました。其奴の狙いはあなたの肝臓や精気です。ただ自分の長命のためにあなたを利用しているのです。あなたは少しずつ妖狐に生命エネルギーを喰われ、用済みになったら身体を破られ肝臓を持ち逃げされます! そうなる前に……!」
「そ、そうなる前に?」
「どうか私をお連れください。そのような悪しき妖怪を倒す術を、修行の末に身に付けたのです」
そう言って俺の手を握って来たので、俺はそれを振り払った。男はバランスを崩してふらつき、俺を睨んできた。
「バカな。にわかには信じ難いかもしれませんが、これは本当のことですぞ!」
俺はそれに答えた。
「いい加減にしてください。そんなこと知ってますよ」
その回答に、男の目はまさに点、だった。
「知ってて結婚したんです。妻が俺の肝臓を抜きたいならそうすればいい。しかし妻は決してそんなことはしませんよ」
「そっ……!」
男は何か言おうとしていたが、俺はその横を通り過ぎる。
さて、途中のコンビニで彼女の好きな犬用のビーフジャーキーでも買って帰ろう。今日のご飯も油揚げ料理かな?
家について扉を開けると、油揚げを焼いた香ばしい香りと共に妻が駆け寄ってきて抱き付いてきた。
「お帰りぃん、ダーリン」
「ただいま、陽子。これはお土産だよ」
妻にコンビニの袋を渡すと、嬉しそうに中を覗き込んでいる。俺は妻に質問した。
「なあ陽子」
「なぁに?」
「俺の肝臓を抜くかい?」
「えー、抜かないよ? でも浮気したら分からないぞぉ~」
「うひゃ~、怖ぇえ~」
「それよりご飯食べちゃってよ。ドライブするんでしょ? あのコーヒーショップで、今はピーチのフラッペやってるよ」
「すっかり雑食になっちゃったなぁ~」
俺は妻に押されて食卓についた。食事の際には、あの男の話など一切しなかった。
きっと俺たちのように、この日本にはこうしてひっそりと妖怪を配偶者にしているものがいるのだ。
俺は心地よいため息をつきながら机の引き出しを閉めた。
帰って妻と遊ぼう。少しドライブして、コーヒーショップで冷たい飲みものをテイクアウトしながら夜の街を軽く流そう。
そんなことを考えていた。急ぎ足でも弾むようだ。
俺は妻が好きなのだ。自分でいうのもなんだが平凡な俺。それが高嶺の花である妻に熱烈なプロポーズをし、それを涙ながらに受けてくれた。あんな美人で気遣いの出来る妻はそうはいないぞ?
どこにでも自慢できる彼女の元に逸る心を抑えながら道を進んでいた。
帰り道にある、大きな赤鳥居がある神社。そこから山伏姿の男が長い階段から降りてくる。
胡散臭いことこの上ない。そもそも宗派が違うのでないかと思うものの、珍しい姿の男を見つめてしまった。
「そ、そこのお方」
う。声をかけられた。見るんじゃなかった。面倒なことこの上ない。
男は急ぎ足で俺のほうにかけ降りてきて前に回り、通り過ぎようとする俺のスーツの袖を掴んできた。
「な、なんですか、あなた。藪から棒に」
「い、いえ、あなたは何もお気づきでない」
「何がです。人を呼びますよ?」
俺は本気だった。辺りを見渡しても誰もいないのが悔やまれる。男はそれをいいことに、矢継早に話し始める。
「あなたの奥さまは、人ではありません。妖怪です。膨大な力を持った狐ですよ」
「は? 何を言ってるのです」
「信じられないかもしれませんが、あなたから妖狐の気を感じました。其奴の狙いはあなたの肝臓や精気です。ただ自分の長命のためにあなたを利用しているのです。あなたは少しずつ妖狐に生命エネルギーを喰われ、用済みになったら身体を破られ肝臓を持ち逃げされます! そうなる前に……!」
「そ、そうなる前に?」
「どうか私をお連れください。そのような悪しき妖怪を倒す術を、修行の末に身に付けたのです」
そう言って俺の手を握って来たので、俺はそれを振り払った。男はバランスを崩してふらつき、俺を睨んできた。
「バカな。にわかには信じ難いかもしれませんが、これは本当のことですぞ!」
俺はそれに答えた。
「いい加減にしてください。そんなこと知ってますよ」
その回答に、男の目はまさに点、だった。
「知ってて結婚したんです。妻が俺の肝臓を抜きたいならそうすればいい。しかし妻は決してそんなことはしませんよ」
「そっ……!」
男は何か言おうとしていたが、俺はその横を通り過ぎる。
さて、途中のコンビニで彼女の好きな犬用のビーフジャーキーでも買って帰ろう。今日のご飯も油揚げ料理かな?
家について扉を開けると、油揚げを焼いた香ばしい香りと共に妻が駆け寄ってきて抱き付いてきた。
「お帰りぃん、ダーリン」
「ただいま、陽子。これはお土産だよ」
妻にコンビニの袋を渡すと、嬉しそうに中を覗き込んでいる。俺は妻に質問した。
「なあ陽子」
「なぁに?」
「俺の肝臓を抜くかい?」
「えー、抜かないよ? でも浮気したら分からないぞぉ~」
「うひゃ~、怖ぇえ~」
「それよりご飯食べちゃってよ。ドライブするんでしょ? あのコーヒーショップで、今はピーチのフラッペやってるよ」
「すっかり雑食になっちゃったなぁ~」
俺は妻に押されて食卓についた。食事の際には、あの男の話など一切しなかった。
きっと俺たちのように、この日本にはこうしてひっそりと妖怪を配偶者にしているものがいるのだ。
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