13 / 76
犬
しおりを挟む
息子と娘が、学校の帰り道、なにやら拾ってきて、家の裏で飼っているらしいと妻から聞いた。
私は眉尻を下げて昔を思い出して懐かしく思った。
当時の私も学校帰りに箱に入れられた犬を拾って親に内緒にして縁の下で妹と育てたものだ。夕食を互いに残して小さいそれが美味しそうに食べるさまが可愛くって仕方がなかった。
「ダメですよ、動物なんて」
妻はそういうが、これも情操教育だと説得して、裏庭にいるであろう子供たちの元に行った。
二人は箱の前に立って、何もいないと言ったが、私は二人を落ち着かせた。
私の両親は、私たちの仔犬を捨ててしまったが、この子たちにはそんな寂しい思いをさせたくないと、当時の自分達を重ねていた。
「どれ。父さんにも見せてくれ」
「うんいいよ」
「とっても可愛いよ! ジョンって言うんだ!」
箱を覗いて驚いた。そこには犬でも猫でもない、何かがいたのだ。
まるで胎児のような……、モコモコに太った芋虫のような……。
それは醜い口を歪ませて『バフ、バフ』と息を漏らしている。
「ねぇ、飼ってもいいでしょう?」
「おうちの中で飼う?」
この子たちはこれを見てなんとも思わないのだろうか? 私の背中にはびっしょりと汗をかいていて、なんとも答えることが出来なかった。
捨ててこなくてはならない──。
夜中に私は、その生き物を箱に入れたまま、自転車の荷台にくくって川まで運んだ。
そして橋の上から、川に捨てたのだ。それはゴボゴボと暗い水面に吸い込まれてやがて消えた。罪悪感と、正直な安堵の気持ち。
思えば、私と妹が縁の下で飼っていたものも──。あんな形だったかもしれない。
私は自転車のペダルに力を込めて家へと向かう。その時だった。
犬ほどの胎児のような、芋虫のようなものがウネウネと目の前を右から左へと横切って行った。
それも一匹ではない、三匹もだ。
私は暫く、ただ呆然と風の音とバフ、バフという鳴き声を多数の場所から聞こえることを感じていた。
◇
「どうもこんにちわ~」
「あ、こんにちわ……」
迎えの奥さんが犬の散歩をしている。最近はアレを散歩させる人も多くなった。
犬とはもともとあんな形だったろうか?
私がおかしいのか、世間がおかしいのか、最近は分からなくなってしまった。
私は眉尻を下げて昔を思い出して懐かしく思った。
当時の私も学校帰りに箱に入れられた犬を拾って親に内緒にして縁の下で妹と育てたものだ。夕食を互いに残して小さいそれが美味しそうに食べるさまが可愛くって仕方がなかった。
「ダメですよ、動物なんて」
妻はそういうが、これも情操教育だと説得して、裏庭にいるであろう子供たちの元に行った。
二人は箱の前に立って、何もいないと言ったが、私は二人を落ち着かせた。
私の両親は、私たちの仔犬を捨ててしまったが、この子たちにはそんな寂しい思いをさせたくないと、当時の自分達を重ねていた。
「どれ。父さんにも見せてくれ」
「うんいいよ」
「とっても可愛いよ! ジョンって言うんだ!」
箱を覗いて驚いた。そこには犬でも猫でもない、何かがいたのだ。
まるで胎児のような……、モコモコに太った芋虫のような……。
それは醜い口を歪ませて『バフ、バフ』と息を漏らしている。
「ねぇ、飼ってもいいでしょう?」
「おうちの中で飼う?」
この子たちはこれを見てなんとも思わないのだろうか? 私の背中にはびっしょりと汗をかいていて、なんとも答えることが出来なかった。
捨ててこなくてはならない──。
夜中に私は、その生き物を箱に入れたまま、自転車の荷台にくくって川まで運んだ。
そして橋の上から、川に捨てたのだ。それはゴボゴボと暗い水面に吸い込まれてやがて消えた。罪悪感と、正直な安堵の気持ち。
思えば、私と妹が縁の下で飼っていたものも──。あんな形だったかもしれない。
私は自転車のペダルに力を込めて家へと向かう。その時だった。
犬ほどの胎児のような、芋虫のようなものがウネウネと目の前を右から左へと横切って行った。
それも一匹ではない、三匹もだ。
私は暫く、ただ呆然と風の音とバフ、バフという鳴き声を多数の場所から聞こえることを感じていた。
◇
「どうもこんにちわ~」
「あ、こんにちわ……」
迎えの奥さんが犬の散歩をしている。最近はアレを散歩させる人も多くなった。
犬とはもともとあんな形だったろうか?
私がおかしいのか、世間がおかしいのか、最近は分からなくなってしまった。
1
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。




会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる