上 下
9 / 76

開けてはいけない箱

しおりを挟む
 魔王を倒した我々四人のパーティは、もちきれるだけの戦利品を腰袋に入れ凱旋の帰路につくことにした。
 その中に小さな箱があった。握りこぶし大の箱である。

 しかし厳重に錠が下ろされており、鎖でくくられている。魔王直筆の『開けるべからず』の文字もあった。

 我々は、これは魔王の恥ずかしいものでも隠されているのではないかと苦笑しながら、解錠の魔法を使って箱を開けた。

 するとそこには、一匹の不定形生物が入っていて震えていた。
 我々が冒険初期に戦ったスライムに似ているが、あれより固めでドロドロしていない。人懐っこくて、リーダーの腕にすり寄って肩に登って遊んでいるようだ。

 なんとも可愛らしい。ふくふく、プルプル。我々はそれをみんなで撫でると、嬉しそうにしていた。

 リーダーがこれを飼おうと言うので、みんな賛成した。王都までの長い道のりの癒しとなるであろうと、みんなで代わり番子に抱きながら進んだ。
 どうやら虫を食べるようで、気持ち悪い虫を飲んでくれる、よい魔物だと思った。

 その日の野宿の後、目を覚ますと『それ』は二匹になっていた。分裂したのだと、その時、危機感は覚えなかった。ただ、抱き回し合う時間が減ったと逆にラッキーだと思ったのだ。

 しかし、次の日は四匹になっていた。まだそれでも、一人一匹になったと喜んで、可愛らしいそれを肩の上にのせて遊んでいた。

 だが次の日は八匹になって頭を抱えた。これは日に日に倍に増える魔物だったのだと今更ながらに気付いたのだ。

 それでも殺せなかった。それにはこの生物は愛らし過ぎたのだ。仕方なく四匹はそこに置いていくことにしたが、泣きながらすがってくるようで、気の毒に感じた我々は一晩そこに逗留することにした。

 次の日、十六匹。
 まずい。我々は、その愛玩生物を完全にもて余した。早く王都に帰りたいものの、愛くるし過ぎて場所を移動することができない。

 三十二匹、六十四匹──。

 だが、百二十八匹となった時、それは起こった。『それ』は百匹になると融合して、山のような醜い生物となる。そして、我々に襲いかかってきて、リーダーを飲んでしまったのだ。
 好物の虫を飲み込むように……。




 ああ、そうなのか。
 魔王が封印するわけだ。もて余したのだ。

 これは生物兵器だ。この生物は、最初は弱い振りをして保護させるのだ。そのうちに、増えると団結して義理の親となったものを襲い始める。
 あの巨大なやつだって次の日には二体になるのだ。

 やがて我々人類は、この生物に蹂躙されてしまうのだろう。



 それは一年などという時間はかからない。


 三月もあれば──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シカガネ神社

家紋武範
ホラー
F大生の過去に起こったホラースポットでの行方不明事件。 それのたった一人の生き残りがその惨劇を百物語の百話目に語りだす。 その一夜の出来事。 恐怖の一夜の話を……。 ※表紙の画像は 菁 犬兎さまに頂戴しました!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

感染した世界で~Second of Life's~

霧雨羽加賀
ホラー
世界は半ば終わりをつげ、希望という言葉がこの世からなくなりつつある世界で、いまだ希望を持ち続け戦っている人間たちがいた。 物資は底をつき、感染者のはびこる世の中、しかし抵抗はやめない。 それの彼、彼女らによる、感染した世界で~終わりの始まり~から一年がたった物語......

処理中です...