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【第10話】最後の究極魔法

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宝剣は仕事を終た。回転はやがてスピードを無くし、自動的にオレたちの腰に再び戻ってきた。

「ふふ」
「はは」

腰を抱き合いて笑い合うオレたちにみんなが歓声を上げた。

「大魔王陛下ばんざーーい!!」
「大魔王陛下ばんざーーい!!」
「大魔王陛下ばんざーーい!!」

オレは彼女の手を取った。
その瞬間、二人の姿は消える。クリガラが発動したのだ。

「ん? 陛下?」
「一体、どこへ?」

彼女を連れて行く場所は一つだ。

「さぁ、エビネス」
「うむ」

フッと玉座に座った大魔王エビネスが現れた。
みんなみんな喜び合っている。

エビネスは歓喜に包まれている魔物たちに片手を上げて声を制した。
そして並みいる大臣、各将たちに語り出した。

「諸君らは人間に深い恨みがあろう」
「はい!」

え? エビネス。何を言い出すんだ??

「人間を殺し、その領土を奪い、我々の一族の繁栄を願っているはずだ」
「ははぁ!」

え? ちょ、ちょっと。
なんなんだよ。その演説は。

「──しかしな。それは間違いである。」

玉座の間にいるみんな顔を見合わせた。

「恨みは新しい恨みを生む。恨み恨まれ果てしなく続き、どちらか一方が絶滅するまで続いて行く。今日はその命あることを歓び、明日は子を殺され親を殺される。そんなことは間違いである」
「は、はい」

「余の横を見よ。一番我々の一族を殺し尽くした男だ。しかし、この者はどうやら余を好きらしい」

な、な、な、なんですって?
──まぁ、そーですけどさぁ。

「ええ!!?」

魔物各将の驚いた声。そりゃそうだよね~。

「はっはっはっは。間抜けな声を出すでない。そんな男でも一緒に旅をすればいつしか好きになって行くものだ。諸君らも昨日の敵を好きになる。好きになれるものなのだ」

一同キョトンとした顔。それを見てエビネスは楽しそうに叫んだ。

「ではバドガスの死をもって、人間との戦いの一切を終結する! 各地の軍をすぐさま退け!」
「ははーーー!!」

と言うと、みんな最敬礼をとって玉座の間から出ようとした。
しかし…玉座の間に現れた影。それが大声で咎める。

「グレイブ! きさま! 人間の敵め! 大魔王の手先め!」

扉から現れたのはクランプたちだった。
大勢の兵隊も連れている。

「クランプ。落ち着けよ。もう戦いは終わったんだ。大魔王に戦う意志はない。魔王バドガスは死んだ。帰って王様やみんなに伝えるんだ。キミの手柄にするといい」

クランプはオレに向かって火球の魔法を使ってきた。
それを、エビネスは闇の魔法を包んで簡単に消しさった。
クランプは歯ぎしりをして悔しがる。

「みんな、見たろ? もうグレイブは人間じゃない! 魔王の横に立っている! 魔族に魂を売ったんだ!」

と言って、剣を抜いた。

「な、何言ってんだよ! もう戦いは終わったって言ってるだろ?」
「どうだか。魔王は気まぐれだ。そんなことを言っても、いつ反古ほごにする? 一年後か? 一ヶ月後か? それとも明日かもしれない。人間が軍備をといて、平和に酔いしれている頃、突然襲ってこないと言う確証があるのか!」
「そんなことは……」

隣りのエビネスは深くため息を漏らす。

「グレイブくん。あやつを殺してしまってもいいか?」
「そらみろ! 聞いたか! いいとも! 殺せ! それが、また戦いの合図になるだろう!」

「くー。腹の立つやつだなぁ」

そりゃそうだ。大魔王エビネスの方には戦う意思はないが、未だに人間たちは信じられないだろう。
そこで思いついた。数々ある究極魔法。究極の究極。それが存在する。
オレはエビネスの顔を見た。

「エビネス」
「なんだ」

「立ってくれ」
「ああ、いいが」

彼女は玉座から立ち上がり、オレは彼女の腰を抱いた。

「やん♡人が見てるのにぃ」

途端、二人の腰から宝剣が抜けて回転する。エビネスは驚いた様子。
ライエネスでクランプを攻撃するつもりだと思っているかも知れない。

「ん? グレイブくん。どうするつもりだ?」
「なぁ、エビネス。神話の続きを覚えてるか?」

「ん? 真の敵を討った後?」
「そうさ。もう一つの究極魔法が残ってる!」

「え?」

オレは、彼女を引き寄せてそのまま、口づけをした。

瞬間、パッと白く輝いた。

光の宝剣が玉座の間の中央を四角くなぞるとそこが光りだした。
そこに闇の宝剣が黒い文字を書き記す。

そこには、古代の魔法文字が記される。

「ここに終戦を契約する」

と書かれ、その後契約書はバッと光って消えた。

みんなその光景を黙って見ていた。
オレたちの胸の中に温かいものを感じる。

オレは彼女に言った。

「最後の究極魔法アウレーカ。終戦の契約だ。もう誰も戦意を持ってないだろう」

クランプの顔がものすごく穏やかだ。

「グ、グレイブ……」

オレは、クランプに駆け寄った。

「もう、争いはない。そう王様に伝えてくれ」
「あ、ああ。分かった」

クランプは、オレに背中を向けて歩き出そうとしたが立ち止まってまた振り返った。

「──ゴメン。グレイブ。オレはキミに嫉妬していたんだ。真の勇者だって知ってた。知ってたよ。だから煙たかったんだ! 勇者になれない自分が悔しかったんだ! だから、キミが死んでしまえば勇者の後継になれると思ったんだ。ゴメン! キミを裏切ってゴメン! 山でキミを置き去りにして本当にゴメン!」

彼は床に伏して、泣きだしてしまった。

「──いいさ。オレも弱くてゴメン。足手まといでゴメン」

クランプを抱き起こして、オレたちは互いに泣いた。
抱き合いながらカッコ悪く泣いた。

「エミリが、エミリが好きなんだ! だからキミに奪われたくなくて! いつもエミリが見ているキミが憎かったんだ! わぁぁぁあああーーー!!」
「え? エミリを? そうか、言ってなかったよな」

オレは、エミリの方を向いた。

「エミリ」
「うん」

「クランプのこと、好きなんだろ?」
「うん……」

そして、クランプの手をとって、エミリの手をそこに置いた。

「クランプ。妹を頼む」
「え?? そ、そんな! ああ! きっと……ッ! きっと幸せにするよ!」

「グレイブ……兄さん……」

エミリから一筋の涙がこぼれ、頬を濡らした。
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