二人で究極魔法♡勇者＆大魔王

【第3話】不本意ですが城塞に侵入

伝説の魔法の存在、それが使えることに驚き喜びの声を上げた。

「すっげぇー！」
「さもありなん」

そっか。やっぱりオレ勇者だったんだ。
自信取り戻してきた！

そうだな。魔王バドガス。
最初っから倒す目的だったわけだから、例えみんなが認めてくれなくてもいい。平和が目的なんだから。
それに今は心強い仲間がいる。大魔王──

「えーと。そーだ。自己紹介。オレは──」
「不要だ。勇者グレイブくん」

「え？　え？　名前……」
「分かっている。グレイブくんは大魔王職は激務かと思うかもしれんが、それほど多忙でもない。みんな部下がやってくれるからな。であるから暇つぶしにいつも水晶玉でキミを追跡していた。まぁ、最近のキミの落ち込みようったらなかった。滑稽。まさに滑稽。勇者のくせに自信をどんどん無くしてゆくサマは余の笑いの種であったわ」

「ひ、ひでぇ。知ってたのかよ」
「知ってた。愉快であったわ。しかし、今は同じ境遇が二人。これも巡り合わせであろう」

「君のことはエビネスって呼んでいいの？」
「ん？　うむ……。多少不敬ではあるが、まぁいいだろ。余は今のところ配下なし、城なしの庶民と同等であるからな」

「じゃ、オレのことはグレイブと」
「そうだな。これから人間の街とかにいくだろう。そしたら余を大魔王と呼ぶなよ？　迫害されるからな」

「わかってる。分かってますとも！」
「ふふふ。ではグレイブくん。早速、簒奪さんだつ者バドガスを討伐に参ろう」

「うん」

こうしてオレは新しい仲間を得て、魔王の城へ向かって旅をはじめた。
エビネスは魔法はオレよりも全然上。さすが大魔王。
物理攻撃は同等くらい。
──素手だけど。

やっぱり、これが敵だったら仲間と一緒じゃないと無理だよな。
モンスターとの戦闘が終わり、エビネスはパッパと手を振るった。そして怒りの目をこちらに向ける。

「みろ。手が汚れた」
「そりゃ、芋虫モンスターを素手で攻撃すりゃぁねぇ」

「ふむ。武器が必要か。手を汚さんためにも」
「武器？　でもお金ないからなぁ。食べるので精一杯」

そうなのだ。今までは国から援助をもらってた。
勇者保護金という名目だ。
でも、今はクランプ一行に行ってしまった。
オレはただの一般庶民。

しかし、エビネスはそんなことをお構い無しに貴族のような生活をしたがる。
豪奢な部屋に泊まり、豪華な料理を頼むのだ。
それだけでオレたちの旅はカツカツ。
こうして馴染みのギルドからクエストを貰って僅かな収入を得るしかない。

「はぁ。もっと働かないとなァ」
「それよりも奪え。クリガラを使えば簡単に手に入ろう」

「そりゃまぁ、そうだけど同胞から奪うのはなァ」

意見の食い違い。これが大きい。
エビネスは人間のことなんて、これっぽっちも思っちゃいない。

逆に高額な賞金首の砦のモンスターの将とか倒すのはダメ。
言った側からブチキレる。うらんでいるのは魔王バドガスだけで、そういうのは可愛い民衆だというわけだ。
ただ、知能を持たないモンスターはそれは魔王軍に属してないからいいらしい。

「じゃぁ、やっぱり農地を荒らすイナゴモンスターとかミミズモンスターを倒して賞金稼ぐ？」
「バカ言え。この爪を見よ！」

見ると、爪と指の間が黒く汚れている。

「オマエがあんな虫とばっかり戦わすから、こんなに汚れたんだ。早う余になじむ武器を買え！」

そんなこと言ったって。
この『王』の身分についていた方は大変扱い難い。こちらに合わすことをしてくれない。

「うーん」

オレが唸っていると、エビネスは思い出したようにポンと手を叩いた。

「そーいえば、この先に人間が守っている魔法の城塞があるであろう」
「うん。あるよ。城塞ディレック」

「何を守ってるか分かるか？」
「え？　それは人間の土地が侵されないようにモンスターの侵入から」

「それもある。しかし、彼かの城塞の地下には闇の宝剣プルトンが隠されている」
「えええ！！？」

「最近、情報を掴んだのだ。アレは我々魔族にとって最強の剣。最終兵器だ。それを奪ってしまおう」
「え？　だって……」

「なにが、だってだ。逆にバドガスに渡ってみよ。人間の世界など終わるぞ？　いいんだな？　終わっていいんだな？」

良いわけない。
良いわけないよなァ。

だからといって、同胞が守っている城塞から宝を盗み出すなんてェ。
ああ苦悩……。





次の日の夜。
オレたちは城塞から見えない大木の後ろに隠れていた。

「じゃ、はじめるか」
「うん。じゃぁ、握るね」

オレは横に並ぶ彼女の手をそっと握った。

「クリガラ！」

その瞬間、エビネスは夜空に叫んだ。
たちまちオレたちの体は辺りと同化し、姿が全く見えなくなってしまった。

「何も大声出さなくても勝手に透明になるのに」
「よいではないか。雰囲気だ。雰囲気」

オレたちは、手を繋ぎ合って城門の門番の横をすり抜け城塞の中へ。
互いに透明だけど、あの可愛いエビネスの手を握っている。
あ、手汗。エビネスに突っ込まれないかなぁ。
でも、うわー！
態度は大きいけど柔らないエビネスと手を繋いでる。

ドキドキだぁ。
エビネスはどんな顔してるのかなぁ？
見えないのが残念。

城塞の中は兵士が犇ひしめき合っていた。
しかしなんで、こんなに兵士が。
エビネスの手を引いて、話をしている兵士の側によってみた。

「しかし最近、魔王軍の攻撃が多すぎる」
「なんでも、この城塞の地下に魔王軍の最終兵器が眠ってるらしい」
「そうか。クソ！　それを狙ってるんだな」
「あーあ。損な役回りだ」

……そうか。エビネスも言ってたもんな。闇の宝剣プルトンの情報をつかんだって。
つまり魔王軍。即ちバドガスはこちらを重点的に攻めようとしているのだろう。
そう考えていると、横から大きな声が聞こえてくる。

「それを今宵こよい、このエビネス様が頂きに参上！」
「バカ！」

彼女の口らしき場所を片手でふさいだ。
手の下で彼女の口がもごもごと動いてる。

どーせ「バカだとぉ？　放せい！　無礼であろう！」とかなんとかいってんだろ。
ああ、とんだお荷物。
金はかかるし、空気が読めない。

「ん？　誰かいるのか？」

やば！　感づかれた！

「な、なんかおかしいぞ？」

どんどん兵士達が集まって来る。
これは少しまずい！
クソ～。お荷物大魔王め！