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【第2話】究極魔法発動!
しおりを挟む土に埋もれている彼女。魅力的な赤い唇はかすかに開いているが長い睫毛があるまぶたは閉じられたまま。
だがその睫毛が小さく動く。驚いて話しかけてみた。
「もしもし! 大丈夫ですか!?」
そう叫ぶと、彼女は驚いたように目を覚ましムクリと起き上がり拳を握りしめていた。
「クソ! なんてことだ!」
よく見るとまったくの無傷。
あれほどの高い地点からの落下をして衝撃を受けておきながら無傷とは。
その女の子はこちらを見て驚いていた。
「ん! 貴様! 勇者ではないか! クソ!」
え? どーゆーこと?
さっぱり意味が分からない。
「あの~……」
「ええい! 殺せ! もう覚悟を決めたわい!」
そういうとせっかく起き上がった穴の中で、また大の字にゴロリとなってしまった。
話が全然見えないんですけど。
しかし勇者か。思わず苦笑した。
「元です。元勇者。今はただの人」
「ん?」
オレは彼女をたき火に招き、火を挟んで話しをはじめた。
「キミは誰? ケガしないなんて何者?」
「なんだ? 余を知らんのか。ふははははは! 我こそは大魔王エビネスなるぞ!」
そう言うと、立ち上がって黒いローブを大きく広げてユラユラと動かす。
なにそれ。自分を大きく見せてんの? 威嚇??
ぜんぜん怖くねぇ。
え? なんていった? 大魔王?
だい……まおー??
「知らない。大魔王? 魔王じゃないの?」
そういうと、元気なつり上がった目が寂しく下がるのが分かる。
彼女はうつむいてしゃがみこんでしまった。
「元な。元。今は部下だったものに謀反を起こされて、ここに飛ばされてしまった。おおかた勇者の近くに落として殺させるつもりだったのであろう。さぁ殺せ!」
と、また大の字になって後ろに倒れ込む。
なぜにこの大魔王はそれにこだわるのか?
「部下って?」
「宰相バドガスだ。今頃は大魔王バドガスを名乗ってるだろうがな」
え? バドガスって魔王バドガス?
オレたちの標的じゃん。
──たちじゃねーか、もう。オレは追放された勇者。ただの一般人だからな。
「はぁ、そーなんだ」
彼女はオレの無気力な回答を聞いてムックリと起き上がった。
「なんだ。興味なさそうだな」
「そらそーだよ。もう関係ないし」
「ん?」
天を仰いでため息をついた。
パチパチとたき火の音だけが二人の間に静かにBGMとして流れた。
「関係ないとは?」
「オレも追われたんだ。勇者の座を。それも仲間に」
「ほう。おもしろい。話しを聞こうじゃないか。そこにかけたまえ」
「──うん」
いや、威厳のある言葉につい頷いちゃったけど、そこにかけたまえもなにも、このキャンプはオレの場所だけど?
……まぁいいか。今までの経緯を彼女に話した。
目の前にいるのは敵の──そのまた主君だった人物だけど。
今は誰でもいいから話を聞いて欲しかったんだ。
「なるほどのう。それはそれは。気持ちは分かる。つまり我々は同じ境遇というわけだ」
彼女はそういうと、ニヤリと笑う。
「なに? どういうこと?」
「キミは仲間にリーダーの座を追われた。余は家臣に君主の座を簒奪された。同じだ。そして、敵も同じ」
え。それってまさか。
「敵は宰相バドガスだ! 我々が力を合わせれば、きっと倒せる!」
「は、はぁ。で、でも──」
「なんだ」
「オレは勇者じゃないわけだし」
エビネスはグイッと顔を近づけてきた。
ん。ちょ、ちょっと。か、かわいい……んですけど──。
「オマエはバカか? バカなのか!? 神から啓示を受けたんだろォ? 神託を受けたんだろォ?」
あまりに詰め寄られてタジタジ。
だってこの女神みたいに美しい顔がマジかにあったらなんかもう。オレ、なんかもう。
「は、はい。でも、オレはこんなに弱いし。仲間よりも」
「寝坊助が。余を見よ」
え? は、はい。見るんですね。
え、えーとですねぇ。
細い体に、美しくて長い銀色の髪。
大きくてパッチリした目。
でも出てるところはでてらっしゃる。
ゴクリ。
か、完璧であります。女神降臨って感じです。ハイ。
「分ったであろう」
え?
「な、何がですか?」
彼女は「フン!」と鼻で笑った。
「余は大魔王と生まれ、覚醒してまだ短い。これからしばらく長い時間がかかってようやく真の力を得ることができるだろう。つまりキミの勇者としての成長も合わせてあるのだ! 晩成型なのだよ」
「そ、そうなの?」
「そーだ。あやつら。余の覚醒を心待ちにしていたはずなのに。こいつは弱い。しかも女だ。自分の方が上だと思ったのであろう。クソ! 腹が立つ!」
エビネスは思い切り大地を蹴ると土埃が舞い上がる。
でもなるほど! そうなのか!
魔王バドガスの上にはもっと強い大魔王エビネスが将来出来上がるってことだったのか。
だから、オレの成長もつまりゆっくりだったってこと??
「真の勇者の光の力。大魔王の闇の力。これが合わされば、ものすごい力になるぞ!」
エビネスの言葉に古い神話が思い出される。
そ、そういえば聞いたことがあるぞ。
光が無ければ闇はできない。
闇が無ければ光の輝きに誰も気づかない。
お互いの力を合わせると、無限の力になるって。
エビネスは楽しそうに笑い、片手を出してきた。
「では、明日より行動開始だ。よろしく頼む」
「あ。うん。こちらこそ」
オレたちは固く手を握り合った。
その瞬間──。
オレたちの手から暖かい光と、冷たい冷気が吹きだした。
「うわぁ! なんだ!?」
「ほう。面白い」
そういう彼女の姿は消えていた。
え。どこにいった!?
手を握ってる感触はあるのに。
見ると、オレの手も消えてるゥ!
慌てて手を放すと、二人の姿はパッと現れた。
「え? どういうこと?」
彼女は分かったように笑って手を叩いた。
「ふっふっふ。これは合体魔法が発動したのであろう。光と闇の二人が手をつなぐと、究極魔法の透明化『クリガラ』が使えるようだな。今の時代使える術者はいないと聞いたが、こうすると簡単に使えるようだな」
と言って、またオレの手をつないだ。
その瞬間パッと消える二人の姿。
もうオレは驚きの唸りを上げるだけだった。
「つまり、オマエは真の勇者。余は真の大魔王。得心が行ったか?」
「い、行きました」
究極魔法クリガラ──。
神話にあるぞ。神々と敵対者との戦いの時に、偵察部隊の小人たちにクリガラをかけて敵の城内を潜入させたってやつだよな。
自身の体と、触っているものを透明にする魔法。
伝説の失われた魔法って聞いたことがあるけど、こりゃすごいよ。
魔城に忍び込むのだって簡単じゃん!
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