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第30話 夢を見た
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時計の針は23時。貸し切りだったので他の客はこない。
長く会わなかった、二人のおしゃべりは尽きなかった。
「ケイちゃん。焼酎にする?」
「だね。ビールでおなかパンパン」
「大将! 赤霧島もらいますよー」
「あいよ。自分でだしてー」
「ケイちゃん。ちょっとボランティアして? オレ、氷だすから、水さしに水入れて」
「あいよぉ。オマエさん」
「ふふ。江戸っ子夫婦」
「てやんでぇべらぼうめぇ!」
「へへ! あたりきよぉ~!」
「へへ~! 祭りだぁ! 祭りだぁ!」
「それって、江戸弁??」
あたらしいグラスを出して、氷を入れる。注がれる甘露。
二人の空間。二人の世界。
近付いた距離。
「おいしそ」
「おいしいよ」
「あたしさ」
「うん」
「カズちゃんの彼女になれたけど」
「彼女じゃない。婚約者!」
「あ、ふふ。そうか」
「ケイちゃん。結婚しようね?」
「うん。するする!」
「やった! さっき、指輪渡したときに返事聞くの忘れてた。じゃ、正式に婚約しましたね」
「うん。でね。婚約者になれたけどさぁ」
「なに?」
「先生より大きな存在になれるかなぁ」
「あー……」
「うん」
「あのね、気を悪くして聞いて欲しくないんだけど」
「……なに?」
「昨日の夢でね、オレのアパートに帰って行ったら、先生がいたんだ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「カズトおかえり。ふふ」
それは、和斗の普通の日常だった。
先生との結婚生活。貧乏なので狭いアパート。
そこには、先生の不倫で出来た子供、娘の和月もいる。和斗はしばらく娘と遊んでいた。
「カヅキは賢いなぁ~。もうこれ覚えたんだ。やっぱママの子だな」
「あら、パパの教え方が上手なのよ~。いっぱい愛情もらってるもんね。それからいい名前も!」
「うん!」
「それじゃ、カズト。カヅキ。行きましょうか?」
そういって、家族は外に出て歩き出した。
普通に、娘をお互いの手でつないで、ブランブランと遊ばせて。
白い壁のある道を、どこまでも、どこまでも。
和斗は言った。
「イツキ。幸せだなぁ。こんな日がずっとつづけばいいのに」
「うん。そうだね。あたし、カズトに思われてとっても幸せだったよ?」
足を止める。不思議な言葉。
不要な言葉が入っていたからだ。
「だった?」
先生は下を向いた。少し肩を震わせる。
しかし、上げた顔は笑顔だった。
「うん。でもね、カズトが幸せにするのはあたしじゃないよ? 後ろ見てごらん?」
和斗が振り返ると、そこには、恵子が立っていた。
忘れられてしまって不安で寂しい顔をしている彼女が、和斗の背中を見つめていたのだ。
「ほら。行って手を引いてあげないと、あの子動けないよ」
「う、うん」
「私は大丈夫だから。ほらカヅキ。いくよ?」
「うん。ママ」
先生に呼ばれて、和月はその手を繋いだ。
和斗の放された手が寂しい。つい二人に手を伸ばす。
「イツキ! どこにいくの?」
「どこにも。でも、カズトが行くのはあの人のところじゃない?」
「そうか。そうだった」
和斗は改めて恵子の方に駆け出す。
「パパ、バイバイ! 名前ありがとう!」
「カヅキ。バイバイ! またな!」
「カズト。幸せになってね」
「イツキ。先生! 先生! ありがとう!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そういってオレ、ケイちゃんのところに来たんです。なんかとってもリアルで、先生に祝福されてるようで……。はは。不思議な夢だったなぁ」
恵子と見た夢とリンクする。
視点は違えど同じ状況。
それは、先生が二人に同じ夢を見させたのかもしれない。
二人のこれからを祝福しているのかもしれない。
「へー。そうなんだ」
「はい。先生がもう、あたしを吹っ切って、前を向けって言ってくれて」
「不思議だね。夢に続きはあった?」
「もちろん。ケイちゃんのところに飛び込んで」
「その時、あたしのセリフはなんかあった?」
「あ。はい。でも、バカにされそうだなぁ」
恵子は和斗の首に抱きついて、自分の胸に強引に引き寄せた。
「泣き虫!」
和斗は胸の中で驚く。夢と同じ状況。同じ声。
「え?」
「フフ」
「え? え? え? えー!?」
「ふふ。あたしもその夢、知ってるも~ん」
「ええーー!!?」
不思議。不思議な夢。
二人で驚きあった。そして、笑った。
きっと、先生も応援してくれてたんだと。
やがて二人は現実に戻らなくてはならない時間となった。
明日は会社。二人は大将に、暇乞いをした。
「さぁて。帰りますかぁ~」
「そうだね」
「カズちゃん」
「ん?」
「ウチにくる?」
「え? 行きたい」
「来なよ。一緒に寝よ~。……生理だけど」
「関係ない! 行く行く!! でも、あ」
「どうしたの?」
「まだ佐藤係長とケジメついてないんだよね?」
「ウン」
「じゃ、明日にしよう? 着替えも持ってくから」
「あー。明日会社だもんね~」
「そ。このコートのままじゃぁね」
「明日の何時?」
「仕事終わってから。そんなに遅くならない。19:30か、20:00くらい」
「よし! じゃぁ! 美味しいもの用意して待ってる」
「やった! お泊りセット持ってこよ~」
二人の最後に進む、別の道になるのかも知れない。
手を大きく振って、互いの家路に着いた。
長く会わなかった、二人のおしゃべりは尽きなかった。
「ケイちゃん。焼酎にする?」
「だね。ビールでおなかパンパン」
「大将! 赤霧島もらいますよー」
「あいよ。自分でだしてー」
「ケイちゃん。ちょっとボランティアして? オレ、氷だすから、水さしに水入れて」
「あいよぉ。オマエさん」
「ふふ。江戸っ子夫婦」
「てやんでぇべらぼうめぇ!」
「へへ! あたりきよぉ~!」
「へへ~! 祭りだぁ! 祭りだぁ!」
「それって、江戸弁??」
あたらしいグラスを出して、氷を入れる。注がれる甘露。
二人の空間。二人の世界。
近付いた距離。
「おいしそ」
「おいしいよ」
「あたしさ」
「うん」
「カズちゃんの彼女になれたけど」
「彼女じゃない。婚約者!」
「あ、ふふ。そうか」
「ケイちゃん。結婚しようね?」
「うん。するする!」
「やった! さっき、指輪渡したときに返事聞くの忘れてた。じゃ、正式に婚約しましたね」
「うん。でね。婚約者になれたけどさぁ」
「なに?」
「先生より大きな存在になれるかなぁ」
「あー……」
「うん」
「あのね、気を悪くして聞いて欲しくないんだけど」
「……なに?」
「昨日の夢でね、オレのアパートに帰って行ったら、先生がいたんだ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「カズトおかえり。ふふ」
それは、和斗の普通の日常だった。
先生との結婚生活。貧乏なので狭いアパート。
そこには、先生の不倫で出来た子供、娘の和月もいる。和斗はしばらく娘と遊んでいた。
「カヅキは賢いなぁ~。もうこれ覚えたんだ。やっぱママの子だな」
「あら、パパの教え方が上手なのよ~。いっぱい愛情もらってるもんね。それからいい名前も!」
「うん!」
「それじゃ、カズト。カヅキ。行きましょうか?」
そういって、家族は外に出て歩き出した。
普通に、娘をお互いの手でつないで、ブランブランと遊ばせて。
白い壁のある道を、どこまでも、どこまでも。
和斗は言った。
「イツキ。幸せだなぁ。こんな日がずっとつづけばいいのに」
「うん。そうだね。あたし、カズトに思われてとっても幸せだったよ?」
足を止める。不思議な言葉。
不要な言葉が入っていたからだ。
「だった?」
先生は下を向いた。少し肩を震わせる。
しかし、上げた顔は笑顔だった。
「うん。でもね、カズトが幸せにするのはあたしじゃないよ? 後ろ見てごらん?」
和斗が振り返ると、そこには、恵子が立っていた。
忘れられてしまって不安で寂しい顔をしている彼女が、和斗の背中を見つめていたのだ。
「ほら。行って手を引いてあげないと、あの子動けないよ」
「う、うん」
「私は大丈夫だから。ほらカヅキ。いくよ?」
「うん。ママ」
先生に呼ばれて、和月はその手を繋いだ。
和斗の放された手が寂しい。つい二人に手を伸ばす。
「イツキ! どこにいくの?」
「どこにも。でも、カズトが行くのはあの人のところじゃない?」
「そうか。そうだった」
和斗は改めて恵子の方に駆け出す。
「パパ、バイバイ! 名前ありがとう!」
「カヅキ。バイバイ! またな!」
「カズト。幸せになってね」
「イツキ。先生! 先生! ありがとう!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そういってオレ、ケイちゃんのところに来たんです。なんかとってもリアルで、先生に祝福されてるようで……。はは。不思議な夢だったなぁ」
恵子と見た夢とリンクする。
視点は違えど同じ状況。
それは、先生が二人に同じ夢を見させたのかもしれない。
二人のこれからを祝福しているのかもしれない。
「へー。そうなんだ」
「はい。先生がもう、あたしを吹っ切って、前を向けって言ってくれて」
「不思議だね。夢に続きはあった?」
「もちろん。ケイちゃんのところに飛び込んで」
「その時、あたしのセリフはなんかあった?」
「あ。はい。でも、バカにされそうだなぁ」
恵子は和斗の首に抱きついて、自分の胸に強引に引き寄せた。
「泣き虫!」
和斗は胸の中で驚く。夢と同じ状況。同じ声。
「え?」
「フフ」
「え? え? え? えー!?」
「ふふ。あたしもその夢、知ってるも~ん」
「ええーー!!?」
不思議。不思議な夢。
二人で驚きあった。そして、笑った。
きっと、先生も応援してくれてたんだと。
やがて二人は現実に戻らなくてはならない時間となった。
明日は会社。二人は大将に、暇乞いをした。
「さぁて。帰りますかぁ~」
「そうだね」
「カズちゃん」
「ん?」
「ウチにくる?」
「え? 行きたい」
「来なよ。一緒に寝よ~。……生理だけど」
「関係ない! 行く行く!! でも、あ」
「どうしたの?」
「まだ佐藤係長とケジメついてないんだよね?」
「ウン」
「じゃ、明日にしよう? 着替えも持ってくから」
「あー。明日会社だもんね~」
「そ。このコートのままじゃぁね」
「明日の何時?」
「仕事終わってから。そんなに遅くならない。19:30か、20:00くらい」
「よし! じゃぁ! 美味しいもの用意して待ってる」
「やった! お泊りセット持ってこよ~」
二人の最後に進む、別の道になるのかも知れない。
手を大きく振って、互いの家路に着いた。
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