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第25話 誕生日に大決心

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 数日後──。
 恵子は意を決して冬子に電話をし、現在の状況を話した。

「あたたたァ~。できちゃったかぁ」
「ウン。ゴメン。トーコに怒られると思ってなかなか言えなかったんだけど」

「まーホント腹立つけど、もう言ってもしょうがない。これからを考えよ? ね? もう生命は宿っちゃったんだから」
「ウン」

「でさ、もう気持ちは後輩くんにいっちゃったのね」
「ウン」

「で、お腹の子のパパは好きではないと」
「好きだけど、気持ちはあるけど、でももう、カズちゃんへの思いが抑えられなくて」

「不倫する子の考え方かもね」
「……そうかも」

「でもさ。後輩くんに面倒見てもらったら?」
「そんな! 簡単に言わないでよ。カズちゃんにそんな迷惑かけらんない」

「だって、アンタのことすっごい愛しちゃってんでしょ? 前の先生の子だって、育てようとしてたんでしょ?」
「でも」

「うん」
「あたしと一緒にならなきゃ、ちゃんとした人と結婚して、自分の子だけ可愛がれるわけだし」

「あー。なるほど」
「そうでしょ?」

「で? アンタは」
「うん」

「産みたいの?」
「それは。ウン。産みたい」

「そっか」
「ウン」

「そうきたか」
「ウン」

「八方ふさがりだねぇ。こりゃぁ。最低男のせいでメチャクチャ」
「ウン」

「アンタには悪いけど」
「ウン」

「アンタもだけど、その子が不幸になる未来しか見えないなぁ~」
「でも幸せにする」

「じゃぁ。一人で産んでさ、一人で育てたら? どう?」

「ウン」
「そしたら、あたしも協力する! 一緒に育ててあげる!」

「ウン。トーコありがと。でも彼氏いるじゃん。ケンタくん」
「だからさ~。シェアハウスみたいにすんのよ。ケンタにも手伝わせるよ」

「ありがと。もうちょっと考えてみるね」
「ウン。でも、いつでも頼って!」

「ありがと」
「その方があたしも楽だわ。はは!」


 冬子に慰められ、休日は終わり。そして週が明けて会社へ出勤。恵子が見つめるのは一つだけ席の空いた営業一課。

「はぁ」
「おはよう。」

「あ! 係長おはようございます!」
「うん。おはよう」

 それだけ。その後は長い沈黙。結局どちらとも何も言わないまま、一日が過ぎてゆく。

 夜。恵子は部屋に帰って一日を振り返る。

「ヒデちゃんも辛いんだろうな。困ったなぁ。どうしよう。どうしたらいいの?」

 自分のまだ目立たない腹をさすりながら聞いてみる。
 その時。

 Line「チンコン」

「あ! カズちゃん?? はは。なんでヒデちゃんだと思わないんだろ。今まで考えてたくせに。どうせ、ヒデちゃんはLineなんてくれませんよ~。ほらやっぱりカズちゃんだ」

 スマートフォンのポップアップに「カズちゃん」の文字。
 恵子はすかさず送られてきたメッセージを読んで返信した。

 Line:カズちゃん「今帰宅しました! 初出社でした~」

 Line:ケイコ「おかえり」

 Line:カズちゃん「レスポンス早」
 Line:カズちゃん「うん。ただいま。今からお酒飲みます」
 Line:カズちゃん「あ~。ケイちゃんのご飯が食べたいな~」

 Line:ケイコ「うん。食べさせてあげたい」

 Line:カズちゃん「今から行っていい?」

 Line:ケイコ「それはダメ」

 Line:カズちゃん「即答」
 Line:カズちゃん「スタンプ:泣き顔」

 Line:ケイコ「スタンプ:あっかんべー」

 Line:カズちゃん「おつまみなんか作って!」

 Line:ケイコ「そーだねー」

 恵子はキッチンに向かい、和斗が好みそうなつまみを作り、テーブルに並べる。その時間は僅かに10分。写真をとり、メッセージ送信した。

 Line:ケイコ「画像:料理」

 Line:ケイコ「ピーナッツを塩とバターで炒めたのと、ブロッコリーのベーコンを塩で炒めたの。ワカメのサラダ」

 Line:カズちゃん「すげー! はえー!」

 Line:カズちゃん「写真だけで2本目です」
 Line:カズちゃん「ヨメに来てくれ」

 Line:ケイコ「スタンプ:どや顔」


 和斗が前に言っていた言葉。
 夜だけは二人のもの。二人は夜だけはつながるんだと言う言葉。

 だがダメだ。ダメなのだ。
 恵子の中に秀樹しかいないという気持ち。
 それが和斗への気持ちの衝動を止めている。

 とてももどかしい。
 言ってしまいたい。楽になりたい。

 だがダメだ。和斗は応えてくれるだろうけど。

 それはなぜだろう。
 好き同士なのに、思いを通じ合えないのは。

「あは。結局全部……あたしのせいじゃん」

 何日も何日も、二人が会えない日々が続いた。
 会えるはずがない。

 Line:カズちゃん「ケイちゃんに会いたいなぁ」

 Line:ケイコ「そうだねぇ」

 Line:カズちゃん「電話していい?」

 Line:ケイコ「いいよ」
 Line:ケイコ「スタンプ:OK!!」

 すぐに、恵子のスマートフォンに着信が来た。
 彼女は急いでそれを取る。

「ケイちゃん?」
「カズちゃん! 久しぶりだなー。声聞くの!」

「ウン。今なにしてた?」
「え~? ヒマしてた」

「じゃ、会わない?」
「会いたいけど」

「ウン。ダメ?」
「うん。ダメ。今からご飯」

「じゃ、一緒に食べに行かない?」
「でも~。もう、パジャマに着替えちゃった」

「あー。そうか~」
「うん。また今度ね」

「ケイちゃん。愛してる」
「ハイハイ。じゃ、明日も仕事がんばってね!」

 わたしも会いたい。
 わたしも愛してる。
 その言葉を飲み込んでいた。

 しかし電話を切った後、声を聞けたので久々にテンションが高くなる。
 独り言のオンパレードだった。誰も聞いてないのにも関わらず。

「よしよし。あー! ご飯たべよー!
 あ! 明日誕生日だぁ。ま、いっかぁ。
 ヒデちゃんも会社じゃアレからロクに話してくれないし。
 カズちゃんなんか、知らないだろうなぁ~。誕生日。
 ま。明日ライン来たら言おうかな? 今言ったらプレゼント要求してるみたいだし。
 ……でもいつまでこんな関係続けんの?
 ヒデちゃんも、もう、はっきりしてよ~! ヘビの生殺しだよ~!
 ヒデちゃん、今頃、必死で考えてんだろうなぁ。
 自分の今いる子供のこととか、あたしのこととか。
 辛いだろうなぁ。
 あたしさえいなきゃ。ヒデちゃんも楽になるのかなぁ。
 ヒデちゃん、ゴメン。あたしカズちゃんのこと好きだぁ。
 こんな気持ちじゃ離婚してくれても結婚なんてできないよ。
 あたし不倫体質なのかなぁ~」



 その晩、恵子は夢を見た。

 真っ白い町。
 白い建物と白い道。
 白い花と白い街路樹。

 恵子は白い服を着て立ってる。

 向こうから楽しそうな話し声が聞こえる。

 和斗が知らない年上の女性と5歳くらいの女の子と手をつなぎながら笑いながら歩いている。

 和斗は女の子のことを“カヅキ”と呼んでいる。

 恵子はそれを一人離れた場所から見ていた。

 和斗が離れていってしまう。
 恵子に気付かないで。

 すると、女性が振り返って恵子に気付いた。
 そして女の子を呼んで、手をつないだ。

 和斗になにか話してる。
 和斗はうなづいてる。

 和斗が笑顔で振り返りこっちを見た。

 和斗は、その女性に深く頭を下げた。

 その女性は女の子と、二人で和斗の背中に手を振っていた。

 和斗がこっちに走ってくる。

 途中、何度も女の人の方に振り返りながら、頭を下げて。
 泣きながら、恵子の方に走ってくる。

 恵子に飛び込んでくる和斗。

 恵子はそれをギュッと抱きしめる。

「泣き虫」と笑いながら言う。

 和斗は泣きながら笑っている。

 そして女性と女の子は光の中に消えていった。


 そこで目が覚めた。


「……ふふ……。
 夢までみるかぁ? 普通。そんなに恋しいのかぁ?
 あー。だめだ。こんなんじゃ。
 やめよう。
 ヒデちゃんを待つの。カズちゃんにも迷惑かけれない。
 トーコだって一緒に育ててくれるっていったけど、この町にいたら。
 カズちゃんにだって、ヒデちゃんにだって会っちゃうわけでしょ?
 ……一人で産んで遠くで暮らそう。みんな忘れて。
 ウン! 誕生日にいい決心だ!
 忘れよう! 忘れよう!
 ふふ。
 ……カズちゃん。ゴメン。ね……」
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