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第22話 愛してると叫んじゃえ
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自分の課に戻る恵子。
そこには和斗がにこやかに恵子の帰りを待っていた。
「あ、先輩! ミーティング終わりました?」
「あ、ウン」
「じゃ、行きましょうか!」
「ウン……」
和斗の運転で、引き継ぎスタートされた。
車は、取引先に向かって行く。
だが恵子は和斗の相談もなしの退社に腹が立って仕方がなかった。
「ねぇカズちゃん! なんで辞めるの!? あたしヤダよぉ! 辞めないで! 取り消してよぉ! いつから考えてたの!? バカ! 昨日だって一緒にいたじゃん! ねぇ! やりたいことって何なの!? ねぇ!」
恵子の連続する質問に和斗は少しばかり楽しそうな顔をした。
「わー。そんなにまくし立てないで下さいよ~」
「好きっていったじゃん! 愛してるっていったじゃん!」
「ええ。だから」
「なによ!」
「社内恋愛禁止なんでしょ?」
「……はぁ?」
「だからですよ。社外なら付き合えんでしょ?」
「え? それだけ?」
「はい」
恵子は安直な考えに腹を立てた。
本来はそれが和斗のいいところ。赤ん坊が発覚する前なら喜んだであろう。しかし、今の精神状態、そして秀樹を好きにならなければならない状態も手伝って、和斗を激しく叱責するのだった。
「アンタってヤツは、ホントにあたしの気持ちなんてお構いなしね!」
「それに」
「なに?」
「佐藤係長と一緒に仕事したくない」
「はぁ? まだイジメられたの根にもってんの? 案外ちっちゃい男だったのね。あたしの眼鏡違いだったわ! もう、嫌い! 大っ嫌い!! アンタなんて!」
恵子は和斗と離れ離れになりもう会えないのかもしれない。
それならば、踏ん切りつけて秀樹のことを思いなおそう。子供のことちゃんと考えようと、この短絡的な若者であろう和斗を思いっきり罵った。だが違っていた。
「彼って佐藤係長なんでしょ?」
「え? なんで知ってるの……?」
「ケイちゃんチいったとき、冷蔵庫にプリクラ貼ってありました」
「あー」
「だからあの人の下だと邪魔されそうで。でも電話とか、Lineとか、マメにしていいですか?」
「……じゃ、やりたいことって」
「ふふ。ケイちゃんと結婚!」
「あ。カズちゃん」
「ケイちゃん愛してる」
「カズちゃん……」
「ん?」
「カズちゃぁん……」
「ケイちゃん?」
「……ウグ……」
「???」
「……ダメだ。これ以上言えないや」
「言えばいいじゃないですか」
「……ダメだよぉ」
「カズちゃん、好きだよぉ! 愛してるよぉ! ムチューって。はは」
「……ウン」
「え?」
「……ウグ。言いたい、言いたいよぉ!」
「え? ケイちゃん」
「ハァ。ウグ。エーン! エーン! エーン!」
和斗の困惑。明らかに恵子の状態がおかしい。
ヒステリックかと思えば、何も言わずに泣き出してしまう。
車を停めて抱きしめてやりたくなった。
彼は、人通りの少ない路地に入り、車を片側に寄せハザードをあげる停車した。
「ケイちゃん、涙で化粧落ちちゃうよ??」
「ウン。グス。ウウ……」
「どうしたの? 朝から変だよ?」
「言えない。言えないんだよぉ。言ったらカズちゃん。きっと……」
「うん」
「たぶん、カズちゃんに言ったら、全部受け止めてくれるんだろうけど……」
「え?」
「カズちゃんに甘えられないよ……」
「言って、みたら?」
「ダメ、言えない」
「受け止めるよ? ケイちゃんのこと」
「うん……ありがと。カズちゃん……」
体も心も大きい男。
まるで海のように広く青い。
太陽のように輝き眩しく温かい。
寄りかかりたい。
好きだよ。大好きだよ。愛してる。
言ってしまおう。愛していると。
あたし、赤ちゃんがいるけど。
和斗は、きっと、きっと、赤ん坊ごと自分を受け止めてくれるはずだ。
はずなのだ……。
「カズちゃん」
「ん?」
「……じゃぁ、次の会社も頑張ってね!」
「うん。もちろん。頑張りますよ!」
「……フフ。はー泣いたらスッキリした。さぁ! 引継ぎするぞ!」
「ハイ!」
「……あのねぇ。急だったから、寂しくなっちゃっただけだから! せっかく一緒に呑みに行けるヤツができたと思ったのにさぁ。なんか、それで。はは。ゴメン、ゴメン」
「ホントですかぁ? ホントは、好きになって来たんじゃないんですか?」
「うぬぼれんなっつーの。ふふ」
「はは。スイマセン」
「そうだ! 送別会しないとねぇ?」
「えーいいですよ~。一年いなかったんですから~」
「ダメ! あたし幹事する!」
「ケイちゃんと二人だけならなぁ~」
「そういう訳にいかないでしょ!」
「はぁーい。でも佐藤係長もくるんですよねぇ~?」
「うーん。あの人こないと思うよ?」
「どうして?」
「たぶん。カズちゃんを嫌いだから、用事見つけて」
「あ、やっぱり。でもその方がいいなぁ」
「ふふ」
その日の引継ぎの会社回りを終え会社に戻り、恵子は送別会の社内回覧を作った。
突然だから課と絡みのある部署だけにした。
和斗が、モツ好きだからもつ鍋のコース。
週末の金曜日、仕事終了後。
次の日、社内回覧を回すと…思わぬほどの人数がくることになってしまった。
戻って来た回覧を手に取り自分の課の秀樹の欄を見てみた。
「不参加・個人的用事の為」
やはり。でもそれでよかった。
そこには和斗がにこやかに恵子の帰りを待っていた。
「あ、先輩! ミーティング終わりました?」
「あ、ウン」
「じゃ、行きましょうか!」
「ウン……」
和斗の運転で、引き継ぎスタートされた。
車は、取引先に向かって行く。
だが恵子は和斗の相談もなしの退社に腹が立って仕方がなかった。
「ねぇカズちゃん! なんで辞めるの!? あたしヤダよぉ! 辞めないで! 取り消してよぉ! いつから考えてたの!? バカ! 昨日だって一緒にいたじゃん! ねぇ! やりたいことって何なの!? ねぇ!」
恵子の連続する質問に和斗は少しばかり楽しそうな顔をした。
「わー。そんなにまくし立てないで下さいよ~」
「好きっていったじゃん! 愛してるっていったじゃん!」
「ええ。だから」
「なによ!」
「社内恋愛禁止なんでしょ?」
「……はぁ?」
「だからですよ。社外なら付き合えんでしょ?」
「え? それだけ?」
「はい」
恵子は安直な考えに腹を立てた。
本来はそれが和斗のいいところ。赤ん坊が発覚する前なら喜んだであろう。しかし、今の精神状態、そして秀樹を好きにならなければならない状態も手伝って、和斗を激しく叱責するのだった。
「アンタってヤツは、ホントにあたしの気持ちなんてお構いなしね!」
「それに」
「なに?」
「佐藤係長と一緒に仕事したくない」
「はぁ? まだイジメられたの根にもってんの? 案外ちっちゃい男だったのね。あたしの眼鏡違いだったわ! もう、嫌い! 大っ嫌い!! アンタなんて!」
恵子は和斗と離れ離れになりもう会えないのかもしれない。
それならば、踏ん切りつけて秀樹のことを思いなおそう。子供のことちゃんと考えようと、この短絡的な若者であろう和斗を思いっきり罵った。だが違っていた。
「彼って佐藤係長なんでしょ?」
「え? なんで知ってるの……?」
「ケイちゃんチいったとき、冷蔵庫にプリクラ貼ってありました」
「あー」
「だからあの人の下だと邪魔されそうで。でも電話とか、Lineとか、マメにしていいですか?」
「……じゃ、やりたいことって」
「ふふ。ケイちゃんと結婚!」
「あ。カズちゃん」
「ケイちゃん愛してる」
「カズちゃん……」
「ん?」
「カズちゃぁん……」
「ケイちゃん?」
「……ウグ……」
「???」
「……ダメだ。これ以上言えないや」
「言えばいいじゃないですか」
「……ダメだよぉ」
「カズちゃん、好きだよぉ! 愛してるよぉ! ムチューって。はは」
「……ウン」
「え?」
「……ウグ。言いたい、言いたいよぉ!」
「え? ケイちゃん」
「ハァ。ウグ。エーン! エーン! エーン!」
和斗の困惑。明らかに恵子の状態がおかしい。
ヒステリックかと思えば、何も言わずに泣き出してしまう。
車を停めて抱きしめてやりたくなった。
彼は、人通りの少ない路地に入り、車を片側に寄せハザードをあげる停車した。
「ケイちゃん、涙で化粧落ちちゃうよ??」
「ウン。グス。ウウ……」
「どうしたの? 朝から変だよ?」
「言えない。言えないんだよぉ。言ったらカズちゃん。きっと……」
「うん」
「たぶん、カズちゃんに言ったら、全部受け止めてくれるんだろうけど……」
「え?」
「カズちゃんに甘えられないよ……」
「言って、みたら?」
「ダメ、言えない」
「受け止めるよ? ケイちゃんのこと」
「うん……ありがと。カズちゃん……」
体も心も大きい男。
まるで海のように広く青い。
太陽のように輝き眩しく温かい。
寄りかかりたい。
好きだよ。大好きだよ。愛してる。
言ってしまおう。愛していると。
あたし、赤ちゃんがいるけど。
和斗は、きっと、きっと、赤ん坊ごと自分を受け止めてくれるはずだ。
はずなのだ……。
「カズちゃん」
「ん?」
「……じゃぁ、次の会社も頑張ってね!」
「うん。もちろん。頑張りますよ!」
「……フフ。はー泣いたらスッキリした。さぁ! 引継ぎするぞ!」
「ハイ!」
「……あのねぇ。急だったから、寂しくなっちゃっただけだから! せっかく一緒に呑みに行けるヤツができたと思ったのにさぁ。なんか、それで。はは。ゴメン、ゴメン」
「ホントですかぁ? ホントは、好きになって来たんじゃないんですか?」
「うぬぼれんなっつーの。ふふ」
「はは。スイマセン」
「そうだ! 送別会しないとねぇ?」
「えーいいですよ~。一年いなかったんですから~」
「ダメ! あたし幹事する!」
「ケイちゃんと二人だけならなぁ~」
「そういう訳にいかないでしょ!」
「はぁーい。でも佐藤係長もくるんですよねぇ~?」
「うーん。あの人こないと思うよ?」
「どうして?」
「たぶん。カズちゃんを嫌いだから、用事見つけて」
「あ、やっぱり。でもその方がいいなぁ」
「ふふ」
その日の引継ぎの会社回りを終え会社に戻り、恵子は送別会の社内回覧を作った。
突然だから課と絡みのある部署だけにした。
和斗が、モツ好きだからもつ鍋のコース。
週末の金曜日、仕事終了後。
次の日、社内回覧を回すと…思わぬほどの人数がくることになってしまった。
戻って来た回覧を手に取り自分の課の秀樹の欄を見てみた。
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やはり。でもそれでよかった。
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