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第11話 ヒデキの策

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 和斗と食事したなどと秀樹には言えない。
 もしも言ったらまた嫌がらせに拍車がかかってしまう。
 いくら浮気じゃないといっても。

 あんな秀樹を見たくはなかった。
 せっかく久しぶりに二人りきりになれる時間だ。

 恵子の部屋。二人の部屋。

「ねー。ヒデちゃん?」
「なに?」

「杉沢くんにちょっとアタリ強すぎない?」
「んなことないよ。オレのケイコに近づいたんだから当然の報いだよ」

「そんな。大人のヒデちゃんが好きなのに~」
「あー。……ウン。そうだなぁ」

「課の雰囲気も悪いよ? 最近」
「うん。だよなぁ」

「あたしなら大丈夫だよ。あたしにはヒデちゃんしかいないし。だからやめてあげて?」
「ふふ。かわいいなぁ、ケイコは。いい奥さんになるよな」

「うん。早くもらってね」
「ウンウン。まかせとけって!」

「奥さんと、ちゃんと話進んでる?」
「あ~信用してないな?」

「いや、そーゆーわけじゃないけど」
「ちゃんとしてるよ。大丈夫。あともう少しで、ハンコ押してもらえるよ」

「あ。よかった」
「もう少しの辛抱だよ♡」

「ん♡」

 秀樹に腕を回されて、そのままベッドに突入。
 あとは時間がない二人だ。
 時間がある限りじっくり愛を確かめ合う。手繰りあう。

 だが、秀樹には帰る家がある。
 手をつないで玄関まで見送りにいく。

「じゃあな。ケイコ。また会社で」
「うん。じゃ」

「そんな、悲しそうな顔するなよ。会社も含めりゃ誰よりも一緒にいる時間は長いんだぞ? ふふ」
「あ! うん。そーだよね」

「そーだよ。ふふ。じゃぁな」
「うん」

 今まで言ったことがない言葉を、思い切って言ってしまおうと思った。

「いってらっしゃい!」
「?? ん。ああ。じゃ、いってきます。はは……」

 秀樹がドアをしめた。
 最後のセリフはギクシャクしていたが。
 でも、こんな感じで行ってみようと思った。

 そして、いつか「おかえり」と言いたい。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 変わって次の日の会社。
 課長から秀樹に内線がかかり、会議室に呼ばれていった。

「なんでしょう?」

 課長に呼ばれたわけを聞く秀樹。

「うーん。あのねぇ。佐藤係長。この一か月、売上、下がってんだわ」
「はぁ……?」

 意味が分からない。自分のせいではない。部門長は課長だ。自分に売り上げ減の責をなすりつけるつもりかと思った。だが違うことだった。

「キミ、ちょっと杉沢くんにアタリが強くない? なんかあったの?」

 ドキリとする言葉。恵子に言われてタイムリーな話題だった。
 それならそれで話は早い。

「いいえ。そんな」
「社長も、杉沢くんに内勤させるなってさ。だから、出れるように面倒みてやって?」

「あ、ハイ」
「頼むよ? ちょっと、最近変わったよ?」

「かもしれません。自分もちょっと反省してました。彼を伸ばすためにヤリ過ぎました」
「あ……! そういうことだったのね?」

「そうです。誰かが鬼にならないと。彼もっと伸びるはずですから」
「そーか。そうだったか。合点がいった! 信じてたよ」

「スイマセン。予め言っておくべきでした」
「いや。分かった。ただ、営業成績下がってるのはね。その辺のバランスをね」

「了解です。ただ純粋に社益しゃえきを思ってのことでした。すいません」
「いーよ。いーよ。社長にもいっておくから」

「はい。よろしくお願いします。では失礼します」

 ドアを開けて一人会議室からでてドアを閉める。
 そしてニヤリと笑った。

「ふふ。ちょろい。ちょろい。課長さん。そんなんで営業できますかぁ? この世は、化かし合いですよ。ふふ」

 そう小さく呟いて秀樹は大きく腕を上げて伸びをした。

「さぁ~って。じゃぁ、いい子に戻って、我が営業一課のエースに復帰してもらいますか」

 何事もなかったように係長の席に座って、内勤してる和斗に声をかけた。

「杉沢」
「はい」

「この企画で十分だ。早速先方に持ってってくれ」
「あ! ハ、ハイ!」

「頑張れよ!」
「ハイ! 頑張ります!」

 横の机でそれをほほえましく見ていた恵子。
 秀樹の早い対応に心があたたまる。
 そして和斗の嬉しそうな顔に自分も嬉しくなるのだった。
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