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第4話 危険な遊び
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それから幾日か経って。その日は国中お祭りムードだった。
民衆の家々には国旗や花などが飾られ、中央の沿道には露天が立ち並んだ。
そこかしこで楽器が鳴らされ、歌を歌うものが大勢。それは国家を讃える歌。
そう。リックの誕生日。それは王太子に指名されるという華々しい日だ。
王太子の戴冠があるということで、我々貴族は王城の大広間に招待されていた。もちろんライラも同じだ。
彼女は王太子の婚約者なのだ。そして公爵令嬢。一番良い席が用意されている。
私とライラの実際の行動は別だが、その日の朝に彼女の家に訪問した。
王太子の婚約者と正式に指名される彼女。いくらか心労があろう。
その心配を振り払ってやりたい。彼女は繊細な女子なのだ。
彼女の屋敷につくと、たくさんのメイドに迎えられた。ちょうどランドン公爵も出立の準備をしていたのか、入り口付近にいたので挨拶をした。
「これはこれはランドン閣下」
「おお。ジンジャー嬢ではないか」
「──いえ。どうぞジンとお呼び下さい」
「おお、そうだったな。スマン。ジン」
「ところでライラは?」
「ああ、中庭におる。下男のルミナスと一緒のはずだ」
「ありがとうございます。お会いしても?」
「いいとも」
ルミナス。少しばかり心配だ。
またライラに無碍な扱いを受けているのではないだろうか。
ランドン家の中庭に入るには大きな木の扉がある。そこへ近づくと、ライラの高い笑い声が聞こえる。
「うふふふ。や~ん、や~ん。ルミナス~」
「お、お嬢様。あぶないですよ」
「大丈夫。大丈夫。ホラ、ルミナスもっと前よ」
「もう、お嬢様!」
「あ~、楽し~」
なぜか普段とは違う、楽しそうな二人の声。
私は、そっと二人の様子を見たくなり、大きな扉を小さく開けた。
するとそこには、ルミナスに肩車されたライラ。彼女の大きなドレスのスカートに頭を突っ込み、前が見えずにルミナスはフラフラ。
ライラは前の見えないルミナスに指示をしているのだ。
「もっともっと前。そうそう。はぁいストーップ」
「どうです? お嬢様。見えますかぁ?」
「うーん。見えないわ。ちょうど枝と葉っぱに隠れちゃって」
ライラは中庭にある木の枝を見ていた。葉が茂っている場所を。そこになにがあるのか、私も気になって、中庭に入って行った。
「一体何があるんだい。ルミナス」
「わ、わ、わ、その声は、ジン様?」
「え? ジンですって?」
ライラが身をよじったので大きく二人は体勢を崩してしまった。ルミナスはなんとか体勢を整えようとしているのがわかった。足をよたつきながら調整しようと。しかし無理だった。二人は崩れて、ライラはルミナスの背中に尻餅をついた。
「だ、大丈夫かい? ライラ! ルミナス!」
ライラは呼吸を整えるとすぐさまルミナスの背中から立ち上がった。続いてルミナスも唸りながら立ち上がる。そこにライラは平手打ち。ルミナスはすぐさま平伏した。
「主君を殺すつもりだったわね!? 今までの恩を忘れて!」
「申し訳ございません。お嬢様──」
いつも通りの二人──。ライラは激しくルミナスを叱責する。罵倒、度の過ぎた暴力。平手で叩き、靴で背中を叩いた。ルミナスはそれにただ耐えるだけだ。
「もう、よせよ。ライラ。今日はめでたい日だろ?」
「ハァハァ、そうだったわね。ルミナス。今日はめでたい日に免じて恩赦にしてあげるわ」
「あ、ありがたきしあわせ──」
ルミナスは顔を上げることが無い。そのまま顔を伏せたままだ。このまま地面に埋まってしまいそう。気の毒で仕方がない。
「ところでジン。どうしてここへ? 誰も通さないようにメイドに命じていたはずなんだけど」
「いやランドン公爵に許しを得たんだ」
「ああ、お父様に。そうなのね。もしも私の命令を破ったのだったらメイド一人一人に罰を与えられたのに。ざーんねん。うふふ」
いや、笑えるか。
いくら使用人だからといって罰を与えるなんてヒドい。
これから国家の母となるんだから冗談でもそんなことは言わないで欲しい。
「ところで何をやっていたんだい」
「ああ、ルミナスが木の上に小鳥の巣があるっていうから、見ようと思ってたのよ。でも結局見えなかったわ。つまんない。私もこんな男の言葉をまともに聞くべきじゃなかったわ。思い出したら腹が立って来た」
そういうと、ライラはまたルミナスを足蹴にする。
私はライラの手を引いて中庭から出ることにした。
「ホラホラ。式典にいくドレスはもう決まってるんだろうな。時間がないぞ。着れるか?」
「ああ、そうだわ。メイドたち。全員集合なさい」
ライラが小さな鈴を鳴らすと、戦々恐々とした様子でメイドたちが集まって来た。
少しでも遅れたら罰を与えられるのだろう。私はこんなピリピリしたランドン家に嫌気がさしてしまい、入り口を目指して歩き出した。
「ああん。ジン。一緒に私の馬車で式典に行きましょうよ」
「いいや結構。私は父上と共に行くよ」
彼女の声を背中に受けて私はランドン家を後にした。
民衆の家々には国旗や花などが飾られ、中央の沿道には露天が立ち並んだ。
そこかしこで楽器が鳴らされ、歌を歌うものが大勢。それは国家を讃える歌。
そう。リックの誕生日。それは王太子に指名されるという華々しい日だ。
王太子の戴冠があるということで、我々貴族は王城の大広間に招待されていた。もちろんライラも同じだ。
彼女は王太子の婚約者なのだ。そして公爵令嬢。一番良い席が用意されている。
私とライラの実際の行動は別だが、その日の朝に彼女の家に訪問した。
王太子の婚約者と正式に指名される彼女。いくらか心労があろう。
その心配を振り払ってやりたい。彼女は繊細な女子なのだ。
彼女の屋敷につくと、たくさんのメイドに迎えられた。ちょうどランドン公爵も出立の準備をしていたのか、入り口付近にいたので挨拶をした。
「これはこれはランドン閣下」
「おお。ジンジャー嬢ではないか」
「──いえ。どうぞジンとお呼び下さい」
「おお、そうだったな。スマン。ジン」
「ところでライラは?」
「ああ、中庭におる。下男のルミナスと一緒のはずだ」
「ありがとうございます。お会いしても?」
「いいとも」
ルミナス。少しばかり心配だ。
またライラに無碍な扱いを受けているのではないだろうか。
ランドン家の中庭に入るには大きな木の扉がある。そこへ近づくと、ライラの高い笑い声が聞こえる。
「うふふふ。や~ん、や~ん。ルミナス~」
「お、お嬢様。あぶないですよ」
「大丈夫。大丈夫。ホラ、ルミナスもっと前よ」
「もう、お嬢様!」
「あ~、楽し~」
なぜか普段とは違う、楽しそうな二人の声。
私は、そっと二人の様子を見たくなり、大きな扉を小さく開けた。
するとそこには、ルミナスに肩車されたライラ。彼女の大きなドレスのスカートに頭を突っ込み、前が見えずにルミナスはフラフラ。
ライラは前の見えないルミナスに指示をしているのだ。
「もっともっと前。そうそう。はぁいストーップ」
「どうです? お嬢様。見えますかぁ?」
「うーん。見えないわ。ちょうど枝と葉っぱに隠れちゃって」
ライラは中庭にある木の枝を見ていた。葉が茂っている場所を。そこになにがあるのか、私も気になって、中庭に入って行った。
「一体何があるんだい。ルミナス」
「わ、わ、わ、その声は、ジン様?」
「え? ジンですって?」
ライラが身をよじったので大きく二人は体勢を崩してしまった。ルミナスはなんとか体勢を整えようとしているのがわかった。足をよたつきながら調整しようと。しかし無理だった。二人は崩れて、ライラはルミナスの背中に尻餅をついた。
「だ、大丈夫かい? ライラ! ルミナス!」
ライラは呼吸を整えるとすぐさまルミナスの背中から立ち上がった。続いてルミナスも唸りながら立ち上がる。そこにライラは平手打ち。ルミナスはすぐさま平伏した。
「主君を殺すつもりだったわね!? 今までの恩を忘れて!」
「申し訳ございません。お嬢様──」
いつも通りの二人──。ライラは激しくルミナスを叱責する。罵倒、度の過ぎた暴力。平手で叩き、靴で背中を叩いた。ルミナスはそれにただ耐えるだけだ。
「もう、よせよ。ライラ。今日はめでたい日だろ?」
「ハァハァ、そうだったわね。ルミナス。今日はめでたい日に免じて恩赦にしてあげるわ」
「あ、ありがたきしあわせ──」
ルミナスは顔を上げることが無い。そのまま顔を伏せたままだ。このまま地面に埋まってしまいそう。気の毒で仕方がない。
「ところでジン。どうしてここへ? 誰も通さないようにメイドに命じていたはずなんだけど」
「いやランドン公爵に許しを得たんだ」
「ああ、お父様に。そうなのね。もしも私の命令を破ったのだったらメイド一人一人に罰を与えられたのに。ざーんねん。うふふ」
いや、笑えるか。
いくら使用人だからといって罰を与えるなんてヒドい。
これから国家の母となるんだから冗談でもそんなことは言わないで欲しい。
「ところで何をやっていたんだい」
「ああ、ルミナスが木の上に小鳥の巣があるっていうから、見ようと思ってたのよ。でも結局見えなかったわ。つまんない。私もこんな男の言葉をまともに聞くべきじゃなかったわ。思い出したら腹が立って来た」
そういうと、ライラはまたルミナスを足蹴にする。
私はライラの手を引いて中庭から出ることにした。
「ホラホラ。式典にいくドレスはもう決まってるんだろうな。時間がないぞ。着れるか?」
「ああ、そうだわ。メイドたち。全員集合なさい」
ライラが小さな鈴を鳴らすと、戦々恐々とした様子でメイドたちが集まって来た。
少しでも遅れたら罰を与えられるのだろう。私はこんなピリピリしたランドン家に嫌気がさしてしまい、入り口を目指して歩き出した。
「ああん。ジン。一緒に私の馬車で式典に行きましょうよ」
「いいや結構。私は父上と共に行くよ」
彼女の声を背中に受けて私はランドン家を後にした。
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