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第7話
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角田さんと結婚の約束をして、ニヤつきながら家に帰ると、母もまたニヤついていた。
「どうだった?」
「なにが?」
「スミちゃんに相談されてたんだよね~。奈々に恋人いるかどうか。それでどう? プロポーズされた?」
「なんだよ。二人にそんな密約があったのね。やだもう。お母さんも角田さんも」
「いい、お婿さんじゃん。お店を二人で切り盛りしていきな」
「う、うん」
「じゃお母さんはもう引退だ」
「そうはいかない。ちゃんと手伝って貰うからね。それに動いてないとボケるよ?」
「ふふ。それもそうか」
なんか。いいかんじ。
私はお風呂に入って明日の仕事に向けて眠りにつく。深い深い眠りに──。
まどろみの奥に──。
そこは白い白い町だった。街路樹も建物も止まれの標識も白。
私はその町を歩いていた。誰もいない道を。
「ママ!」
どこからか声がした。お母さんを捜している子どもの声。
「マァマ」
甘えた愛らしい声だ。ふと私の白いワンピースの裾が引かれた。視線をそこに落とすと可愛らしい3歳ほどの男の子が立っていた。白くない。その子にはしっかりと色がついていた。
「ねぇママぁ。遊ぼー」
「──ピー子?」
その男の子はうなずく。これが。この男の子が。私はしゃがみ込んでその子を力を込めて抱いた。
「ピー子! ピー子ぉ。ママ、ピー子に会いたかった!」
「なんでぇ? ボクはいつもここにいるのに。変なママ!」
ピー子は大きく口を曲げてニッコリと笑う。
「ピー子は男の子だったんだねぇ」
「そーだよ。ねぇ、お砂場で遊びたい」
「いいよ。一緒にいこう」
私とピー子は白い町の公園で遊んだ。お砂場、滑り台、シーソー、追いかけっこ、またお砂場。しかし夢の中でも疲れる。子どもの無尽蔵な体力について行けなかった。
「はーはー。ママ、ちょっと休憩」
私は白いベンチに腰を下ろすと、ピー子は公園の入り口に向かって歩いていた。私はその背中に叫ぶ。
「ピー子! ダメだよ! 一人じゃ危ない!」
腕を伸ばして、立とうとするものの体が重い。一歩前に出るのが重いのだ。
ピー子は振り返った。
「ねぇママ。もうすぐ会えるよ!」
そう言うと、ピー子は白い町の中に消えていった。
「ピー子!!」
私は叫んで目を覚ました。布団の中から宙に手を伸ばして。
そして身を起こして、お腹を押さえた。
「──ずっと。いてくれてたんだね。ありがとう。そうか。もうすぐ会えるのかぁ」
私は一人だけの部屋で笑っていた。きっと鏡を見たら、夢の中のピー子の笑顔と同じ顔だったろう。
◇
10年後。私と旦那の純平はあの店の中でランチタイムを終え、休憩中の札を出して一息ついていた。
「はー。お腹空いたね」
「なにか作るか?」
「そうだね。もうすぐ帰ってくるだろうし」
ガチャガチャとランドセルの音を立てて、入り口の鐘がなる。
「ただいまー」
そう。息子の公平だ。旦那と私に似た正真正銘、二人の子。今は小学校三年生。やはりピー子は男の子だった。そして。
「「お兄ちゃん早いよぉ」」
声を合わせて入って来たのは双子の女児。一月生まれだから七草からとって鈴奈と芹奈。小学校二年生。
ピー子は三人になっていた。小さい頃はかわいくて仕方がなかったピー子たちだったが、このくらいになると、うるさいし、せわしない。私たちが夜遅くまで仕事をするので、下校の際に顔を見せに立ち寄る。ちょうど休憩時間だ。時間を見計らって母が迎えに来てくれるのだ。
「ねー、パパ、ゲーム持ってきてくれた?」
「あ。アンタ、またパパにゲームお願いしたね?」
「だってママだと持ってきてくれねーもん」
「なに、その汚い言葉は!」
公平は口をとがらせたまま構わず小型ゲーム機のスイッチを入れる。私は旦那の顔を睨むが口笛を吹いてフライパンを拭くフリをして顔を隠した。
その点、女の子はすぐにテーブルに向かって宿題をするのかと思ったら、勝手に店のジュース機のボタンを押してジュースを飲んでいた。
「あ、鈴。オレにもオレンジ」
「何よ。自分で入れたらいいじゃん」
「そうだよ。お兄ちゃん、いっつもゲーム独占してるし」
三人は固まって公平がプレイするゲームをみている。それをみているこっちはイライラ。
「アンタたち、ジュースなんて飲んだら虫歯になるし、晩ご飯食べれなくなるからね!」
「あ、そこアイテムでるよ」
「マジかよ。早く言えよな」
聞いてない。
「まぁいいじゃないか。元気があって」
「アンタが甘やかすから!」
旦那をまたまた睨みつけると、また目をそらしてハンバーグを仕込んでいた。
「あ。もうコーヒーゼリーしかないじゃん。ババロアないの? パパぁ」
「明日は多目に作っておくよ」
冷蔵庫を開けて文句を言う芹奈。それに応えるバカ旦那。なにこの空間にまともなのは私しかいないわけ? バカばっかり。ホントにもう。
「ああもう!」
「ん? ママどうしたの?」
「ママ、50歳になって疲れてるのに、もうアンタたちはママを疲れさすことばっかり。肩も痛いし、涙でてくるよぅ」
「え? じゃあオレ、肩もんであげる!」
「スズちゃん、肩たたき券つくる」
「セリちゃんはお手伝い券」
さっそくノートとハサミを出す娘たち。公平は私を座らせて肩を揉む。力弱ぇえ。でも……まぁいいか。
「50歳に全然見えないよママ。まだ40代だ」
旦那は昔から変わらないなぁ。私は立ち上がって声を張った。
「ピー子!」
叫ぶと三人同時に顔を上げた。みんな同じ顔。思わず笑ってしまった。
「今から、パパとママ、昼ご飯。アンタたちもおやつに食べる?」
そう言うと、三人はそそくさとカウンターに座った。私は旦那に向かって叫ぶ。
「はいマスター、カウンター焼そば5丁!」
「あいよ!」
「「「わぁい。焼きそば大好き」」」
【おしまい】
「どうだった?」
「なにが?」
「スミちゃんに相談されてたんだよね~。奈々に恋人いるかどうか。それでどう? プロポーズされた?」
「なんだよ。二人にそんな密約があったのね。やだもう。お母さんも角田さんも」
「いい、お婿さんじゃん。お店を二人で切り盛りしていきな」
「う、うん」
「じゃお母さんはもう引退だ」
「そうはいかない。ちゃんと手伝って貰うからね。それに動いてないとボケるよ?」
「ふふ。それもそうか」
なんか。いいかんじ。
私はお風呂に入って明日の仕事に向けて眠りにつく。深い深い眠りに──。
まどろみの奥に──。
そこは白い白い町だった。街路樹も建物も止まれの標識も白。
私はその町を歩いていた。誰もいない道を。
「ママ!」
どこからか声がした。お母さんを捜している子どもの声。
「マァマ」
甘えた愛らしい声だ。ふと私の白いワンピースの裾が引かれた。視線をそこに落とすと可愛らしい3歳ほどの男の子が立っていた。白くない。その子にはしっかりと色がついていた。
「ねぇママぁ。遊ぼー」
「──ピー子?」
その男の子はうなずく。これが。この男の子が。私はしゃがみ込んでその子を力を込めて抱いた。
「ピー子! ピー子ぉ。ママ、ピー子に会いたかった!」
「なんでぇ? ボクはいつもここにいるのに。変なママ!」
ピー子は大きく口を曲げてニッコリと笑う。
「ピー子は男の子だったんだねぇ」
「そーだよ。ねぇ、お砂場で遊びたい」
「いいよ。一緒にいこう」
私とピー子は白い町の公園で遊んだ。お砂場、滑り台、シーソー、追いかけっこ、またお砂場。しかし夢の中でも疲れる。子どもの無尽蔵な体力について行けなかった。
「はーはー。ママ、ちょっと休憩」
私は白いベンチに腰を下ろすと、ピー子は公園の入り口に向かって歩いていた。私はその背中に叫ぶ。
「ピー子! ダメだよ! 一人じゃ危ない!」
腕を伸ばして、立とうとするものの体が重い。一歩前に出るのが重いのだ。
ピー子は振り返った。
「ねぇママ。もうすぐ会えるよ!」
そう言うと、ピー子は白い町の中に消えていった。
「ピー子!!」
私は叫んで目を覚ました。布団の中から宙に手を伸ばして。
そして身を起こして、お腹を押さえた。
「──ずっと。いてくれてたんだね。ありがとう。そうか。もうすぐ会えるのかぁ」
私は一人だけの部屋で笑っていた。きっと鏡を見たら、夢の中のピー子の笑顔と同じ顔だったろう。
◇
10年後。私と旦那の純平はあの店の中でランチタイムを終え、休憩中の札を出して一息ついていた。
「はー。お腹空いたね」
「なにか作るか?」
「そうだね。もうすぐ帰ってくるだろうし」
ガチャガチャとランドセルの音を立てて、入り口の鐘がなる。
「ただいまー」
そう。息子の公平だ。旦那と私に似た正真正銘、二人の子。今は小学校三年生。やはりピー子は男の子だった。そして。
「「お兄ちゃん早いよぉ」」
声を合わせて入って来たのは双子の女児。一月生まれだから七草からとって鈴奈と芹奈。小学校二年生。
ピー子は三人になっていた。小さい頃はかわいくて仕方がなかったピー子たちだったが、このくらいになると、うるさいし、せわしない。私たちが夜遅くまで仕事をするので、下校の際に顔を見せに立ち寄る。ちょうど休憩時間だ。時間を見計らって母が迎えに来てくれるのだ。
「ねー、パパ、ゲーム持ってきてくれた?」
「あ。アンタ、またパパにゲームお願いしたね?」
「だってママだと持ってきてくれねーもん」
「なに、その汚い言葉は!」
公平は口をとがらせたまま構わず小型ゲーム機のスイッチを入れる。私は旦那の顔を睨むが口笛を吹いてフライパンを拭くフリをして顔を隠した。
その点、女の子はすぐにテーブルに向かって宿題をするのかと思ったら、勝手に店のジュース機のボタンを押してジュースを飲んでいた。
「あ、鈴。オレにもオレンジ」
「何よ。自分で入れたらいいじゃん」
「そうだよ。お兄ちゃん、いっつもゲーム独占してるし」
三人は固まって公平がプレイするゲームをみている。それをみているこっちはイライラ。
「アンタたち、ジュースなんて飲んだら虫歯になるし、晩ご飯食べれなくなるからね!」
「あ、そこアイテムでるよ」
「マジかよ。早く言えよな」
聞いてない。
「まぁいいじゃないか。元気があって」
「アンタが甘やかすから!」
旦那をまたまた睨みつけると、また目をそらしてハンバーグを仕込んでいた。
「あ。もうコーヒーゼリーしかないじゃん。ババロアないの? パパぁ」
「明日は多目に作っておくよ」
冷蔵庫を開けて文句を言う芹奈。それに応えるバカ旦那。なにこの空間にまともなのは私しかいないわけ? バカばっかり。ホントにもう。
「ああもう!」
「ん? ママどうしたの?」
「ママ、50歳になって疲れてるのに、もうアンタたちはママを疲れさすことばっかり。肩も痛いし、涙でてくるよぅ」
「え? じゃあオレ、肩もんであげる!」
「スズちゃん、肩たたき券つくる」
「セリちゃんはお手伝い券」
さっそくノートとハサミを出す娘たち。公平は私を座らせて肩を揉む。力弱ぇえ。でも……まぁいいか。
「50歳に全然見えないよママ。まだ40代だ」
旦那は昔から変わらないなぁ。私は立ち上がって声を張った。
「ピー子!」
叫ぶと三人同時に顔を上げた。みんな同じ顔。思わず笑ってしまった。
「今から、パパとママ、昼ご飯。アンタたちもおやつに食べる?」
そう言うと、三人はそそくさとカウンターに座った。私は旦那に向かって叫ぶ。
「はいマスター、カウンター焼そば5丁!」
「あいよ!」
「「「わぁい。焼きそば大好き」」」
【おしまい】
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