転移先の人妻に恋をした!

家紋武範

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第三話 デートしよう

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「そんなに泣くなって。現に俺は無事だったんだから。忘れよう。それにまだ殺したいかい?」

 彼女は大きく首を横に振って顔を伏せた。

「ごめんなさい。光朗さん。ごめんなさいぃぃぃ」

 どうやら、悪いと思ってるみたいだな。細腕の奥さんだし、今は武器も持ってない。何かあっても反撃は出来るぞ。

 俺は彼女の隣へと腰を下ろした。少しだけ体が密着する。

「もう泣かなくてもいいよ。何もなかった。何もなかったんだ」
「でも、でも、でも──」

 泣きじゃくる彼女を抱き締めた。もうこうするしかない。

「大丈夫だよ。大丈夫──」

 しばらくそのまま。
 そのうちに彼女はすがるように抱き返してきた。彼女の温もりが伝わる。押し倒したい。いやダメだろ。

 俺は彼女に微笑んで見せた。すると彼女も僅かだが口角をあげる。俺は彼女の口角を人差し指でさらに押し上げた。

「ほら。もっと笑って笑って」
「ぷっ」

 彼女は吹き出して僅かに笑った。ようやく落ち着いたようでよかった。

「光朗さんがそんな冗談するなんて……」
「おいおい。お前の中で俺はどんなイメージなんだよ」

 彼女はぴたっと笑いを留めて、暗い表情を見せる。
 うーん、どうやら彼は家庭の中では暴君だったのかもしれないぞ。それで彼女は思い詰めて彼を殺害したのかもしれないな。

「よし!」
「え?」

「明日は予定なんてキャンセルして思い切ってデートしよう。二人でどこかに出掛けるんだ」
「で、でも光朗さんは明日ゴルフなんじゃ……」

「ゴルフぅ? そんなのお前に比べりゃ全然優先度低いに決まってるっしょ」

 彼女はまたまた吹き出す。俺もようやく楽しくなってきた。

「今日の光朗さんはホントに楽しいです」
「そうかー? こんなの全然普通ですよ。じゃ明日の七時半。リビングで待ち合わせな」

「待ち合わせ? うふふ。おかしい」
「デートなんだから、待ち合わせするに決まってるっしょ~」

 おお。雰囲気いいぞ。ゴルフってことは会社も休みなんだよな。よし。明日が楽しみだ。





 次の日。僅かばかりの睡眠をとって起き上がり、日之出氏のクローゼットを開ける。
 高そうな服がいっぱいだ。おしゃれさんだな。これとこれを合わせればカジュアルっしょ。

 髪を整えて、リビングの階段を降りるとそこには白いワンピース姿の奥さん。可愛い。思わずニヤける。

「よぉーう。おはようー」

 そう言うと彼女は微笑んだ。

「やっぱり。光朗さん、昨日のままだわ。今日はやはりゴルフにするぞって言ったらどうしようかと……」
「なーに言っちゃってんの~。約束はちゃんと守りますよ。じゃあどこ行く?」

「どこって……?」
「そうだなー、海を見に行ったり、水族館に行ったり。映画を見たり、ショッピングモールで買い物したり。どこでもいいよ。お前の好きなところ」

「すごい──」
「どうして?」

「結婚して四年、そんなデートしたことなかった。有希は有希で好きにしろっていつも仰有ってたし……」

 日之出氏よ。どうなってるんだ。四年の結婚生活が冷め切ってる。
 つか、やっぱり有希っていうんだ~。有希ちゃあん。

「いや、そのぅ。反省したんだ。有希に寂しい思いさせてるんじゃないかと思って。昨日のはある意味きっかけだな。でもいろいろ忘れてしまって。ちょっとおかしなことを聞くことがあるだろうけどいいかな?」

 有希は不思議そうな顔をしていたがすぐに笑顔になって頷いた。

「じゃ行こうかぁ」

 俺は玄関に向けて歩き出す。

「光朗さん」
「なに?」

「玄関はこっち……」

 しまった。自分のアパートの部屋はキッチンのほうだったのでそっちに体を向けてた。

「じょ、冗談だろぉ~。でもいいぞ有希ィ~。ナイス突っ込みィ~」

 彼女の額をコツンと突くと、有希はまたまた笑顔になった。

 今度こそ玄関に向かう。日之出氏の部屋に車の鍵とサイフがあった。サイフには五万円とカード。さすが宝くじを当てただけのことはある。それを持って外に出た。
 ガレージには、高級なハイブリッドカー。一千万はするやつだ。このガレージ付きの家といい、高級車といい。宝くじの三億円は神様の話だと残ってるんだよな。てことは、日之出氏は元々が稼ぎのいいヤツなんだ。

 俺は金持ちらしく、気取ってキーホルダーを指でクルクル回しながら車に近付くと、それは勢い余って手から飛び出し、車にカツリと当たってしまった。

「あ!」
「だ、大丈夫ですか?」

 俺と有希は車をチェック。うっすらキズがついてる。青い顔をする有希だが俺は彼女の肩を叩いた。

「なーに。かすり傷だよ。後で修理して貰おう」
「え。いいんですか?」

「いーよー。それよりまだ店も開いてないから海までドライブでもするか」
「は、はい!」

 いいぞ。楽しくなってきた。
 車に乗り込んでナビを立ち上げる。知ってる土地ならいいけどと思い、現在地を見て驚いた。
 ここは、元の自分が生活してい場所とほぼ近い。住所も前は六丁目だったが、ここは二丁目。そんなに近い場所だったのか。
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