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第68話 幸せに手をつないで
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それから二年の月日が流れた。
オレと麗は公園のベンチに座り、一歳四ヶ月の娘の美衣を嬉しそうに見ていた。
そう。オレたちの間に子供が出来た。
美衣はおぼつかない足取りでよちよちと楽しそうに歩いている。
「なーなーなー」
「おーい。転ぶなよ~って言ってるそばからかよ」
尻餅をついて不思議そうな顔をしている美衣に二人で駆け寄る。
抱きかかえてやるが、イヤイヤと首を振って麗の方に手を伸ばす。
「なんだよぉ。パパじゃダメなの~?」
「まんま。まんま」
「そうだよね~。ミーちゃんはママが好きなんだもんね~」
そう言って麗は美衣を自分の胸に抱く。
オレたちは顔を見合わせて微笑んだ。
家族──。
麗が望んだものがここに出来ていた。
オレたちは結婚し、もうオレたちは離れることはしなかった。
真司と蛍。そして昔の友人たちも誰も麗の過去を咎めることはしない。
当たり前だ。咎められるとすればオレだ。
オレの方だ。
いくらショックでも麗の手を放すなんてバカ丸出し。
懺悔してもしきれない。
でも麗は許してくれた。
こんなゲスなオレのことを。
オレたちは実家の庭の中に小さな離れを作ってもらった。
アパートの一室のような小さな小さな家。
中には部屋が二つ。食事は母屋に行って親と一緒に食べる。
変則的な二世帯住宅みたいだ。
母はとてもよろこんでいるし、麗も自分の母親のようにたまには口喧嘩をしたりしている。
そこが麗の世界。
子供が大きくなったら、保育園に勤めることを考えている。
もう子供の麗じゃない。
子供のことを考え、姑、舅と楽しく過ごす。
そして子供が寝たらオレの相手。
相変わらずあのテクニックは健在。
結婚しても飽きなんて全然来ない。
毎晩快楽の吐息を吐き出して一日を終えられる。
彼女の腕の中、胸の中で眠れる。
なんて幸せなんだろう。
麗は一人暮らしで料理も出来るようになっていた。
彼女は火を克服したのだ。
そして猫を止めた。
それは寂しくもある。
あの子供だった麗を愛した時間。
あれはもうない。
大人になった麗と、二人の宝物を育てているのは不思議なことだ。
彼女の方が子供だったのに、今では彼女の方が立派に意志を持っているのだから。
彼女を尊敬する。
由香里曰く、彼女はオレを輝かせた。
だけど、本当は彼女が誰よりも輝いていたんだ。
そして今もその輝きを失うことなく、人生を光り続けている。
「ねぇ、タイちゃん。ご飯食べる?」
「お、おい。またお前寿司のネタだけ食ったのかよ」
「はい。あーん」
「あーん」
「おいしい?」
「最高」
そんないつもの風景を、娘の美衣は楽しげな目で見ていた。
【おしまい】
オレと麗は公園のベンチに座り、一歳四ヶ月の娘の美衣を嬉しそうに見ていた。
そう。オレたちの間に子供が出来た。
美衣はおぼつかない足取りでよちよちと楽しそうに歩いている。
「なーなーなー」
「おーい。転ぶなよ~って言ってるそばからかよ」
尻餅をついて不思議そうな顔をしている美衣に二人で駆け寄る。
抱きかかえてやるが、イヤイヤと首を振って麗の方に手を伸ばす。
「なんだよぉ。パパじゃダメなの~?」
「まんま。まんま」
「そうだよね~。ミーちゃんはママが好きなんだもんね~」
そう言って麗は美衣を自分の胸に抱く。
オレたちは顔を見合わせて微笑んだ。
家族──。
麗が望んだものがここに出来ていた。
オレたちは結婚し、もうオレたちは離れることはしなかった。
真司と蛍。そして昔の友人たちも誰も麗の過去を咎めることはしない。
当たり前だ。咎められるとすればオレだ。
オレの方だ。
いくらショックでも麗の手を放すなんてバカ丸出し。
懺悔してもしきれない。
でも麗は許してくれた。
こんなゲスなオレのことを。
オレたちは実家の庭の中に小さな離れを作ってもらった。
アパートの一室のような小さな小さな家。
中には部屋が二つ。食事は母屋に行って親と一緒に食べる。
変則的な二世帯住宅みたいだ。
母はとてもよろこんでいるし、麗も自分の母親のようにたまには口喧嘩をしたりしている。
そこが麗の世界。
子供が大きくなったら、保育園に勤めることを考えている。
もう子供の麗じゃない。
子供のことを考え、姑、舅と楽しく過ごす。
そして子供が寝たらオレの相手。
相変わらずあのテクニックは健在。
結婚しても飽きなんて全然来ない。
毎晩快楽の吐息を吐き出して一日を終えられる。
彼女の腕の中、胸の中で眠れる。
なんて幸せなんだろう。
麗は一人暮らしで料理も出来るようになっていた。
彼女は火を克服したのだ。
そして猫を止めた。
それは寂しくもある。
あの子供だった麗を愛した時間。
あれはもうない。
大人になった麗と、二人の宝物を育てているのは不思議なことだ。
彼女の方が子供だったのに、今では彼女の方が立派に意志を持っているのだから。
彼女を尊敬する。
由香里曰く、彼女はオレを輝かせた。
だけど、本当は彼女が誰よりも輝いていたんだ。
そして今もその輝きを失うことなく、人生を光り続けている。
「ねぇ、タイちゃん。ご飯食べる?」
「お、おい。またお前寿司のネタだけ食ったのかよ」
「はい。あーん」
「あーん」
「おいしい?」
「最高」
そんないつもの風景を、娘の美衣は楽しげな目で見ていた。
【おしまい】
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