66 / 68
第66話 さよなら。サヨナラ。さようなら
しおりを挟む
「先生泣かないでくださいよ」
「はは。ゴメン。やっとキミに会えたから」
麗に言われて握っている方とは逆の手で涙を拭う。
彼女は握りしめた手を少しばかり振ると、なんともないように手を放した。
オレの手だけが名残惜しげに宙に浮く。
「それじゃ先生、これからも頑張ってください」
「……キミも」
「ありがとうございます」
彼女は背を向けて行ってしまった。
振り返りもせず。
しばらくそれを見ていた。
そしてまた涙があふれる。
「あーあ」
一言だけ漏れる。
そうでもしないと悲しくて仕方がない。
やりきれない。
麗は大人になってしまったんだ。
あの19の子供じゃない。
オレにベタベタと張り付いていた猫じゃないんだ。
彼女を愛してる男は彼女の過去を受け入れた。
すごい奴だ。尊敬する。
そんな彼なら彼女を幸せにできるだろう。
今は彼女の幸せを祈ろう。
それがオレにできる最後の愛だろう。
「はぁ。今日はいい日だった。少し遠回りして帰ろう」
三月の風は少し冷たい。
たどり着いた大きな公園にはたくさんの子供達がいた。
道の脇を見ると新しい芽が出ている。小さい花も咲いている。
オレもこうならなくちゃならない。
人間は何度も別れを繰り返して大きくなるんだ。
少しばかり笑顔になる。
麗と夢見た家族を他の家族と合わせてみる。
あのときに結婚していれば、あんなんだったのかもしれない。
わぁわぁという大きな子供たちの声。
それを微笑みながら見ている若い夫婦。
よちよちと親の手を放して歩く小さい小さい子供。
それを見守る母親。
あれは麗だ。
あの時、二年前、オレが手を放さなかった麗。
あの時子供が出来ていれば丁度あのくらいの子供だろう。
彼女は自分が作った家族にああして微笑んだのだろう。
「のぞみぃ」
「いっちゃん」
彼女は自分の夫の声に微笑む。
その拍子に子供は尻餅をついてしまった。
「あ……ッ」
彼女はすぐさま我が子に駆け寄ったが、子供は自分で立ち上がろうと彼女のサポートを振り払った。
それに彼女は微笑んで手を打って応援をする。
やがて子供は立ち上がり、またよちよちと公園の道を歩き出した。
その後に手をつないだ若い夫婦が微笑みながら歩いて行く。
そうだ。それでいいんだ。
子供、親、夫婦、恋人。
なんてうらやましいんだろう。
オレはそれを自らの手で砕いた。
必死に掴もうとした麗の手を。
「レイね、今日晴れてたからお洗濯したんだ──」
オレはなぜあの言葉に返答しなかったんだろう。
「そうか」
たったそれだけの一言を。
麗。よかったな。
そんな冷たいオレと離れて、別な優しい男をつかまえて、楽しい人生を送ってくれよ。
オレは。
オレは。
オレはさぁ──。
オレは誰と家族になるのだろう。
それって何年後だろうか?
だけどきっと幸せになるよ。
麗。だからキミも幸せになってくれ。誰よりも。誰よりも。
そしてもしもまた会えたら笑い合おう。
わずかな時間を過ごした青春のあの部屋の出来事。
それを笑い話にしようよ。
さようなら。
オレの愛した麗。
「はは。ゴメン。やっとキミに会えたから」
麗に言われて握っている方とは逆の手で涙を拭う。
彼女は握りしめた手を少しばかり振ると、なんともないように手を放した。
オレの手だけが名残惜しげに宙に浮く。
「それじゃ先生、これからも頑張ってください」
「……キミも」
「ありがとうございます」
彼女は背を向けて行ってしまった。
振り返りもせず。
しばらくそれを見ていた。
そしてまた涙があふれる。
「あーあ」
一言だけ漏れる。
そうでもしないと悲しくて仕方がない。
やりきれない。
麗は大人になってしまったんだ。
あの19の子供じゃない。
オレにベタベタと張り付いていた猫じゃないんだ。
彼女を愛してる男は彼女の過去を受け入れた。
すごい奴だ。尊敬する。
そんな彼なら彼女を幸せにできるだろう。
今は彼女の幸せを祈ろう。
それがオレにできる最後の愛だろう。
「はぁ。今日はいい日だった。少し遠回りして帰ろう」
三月の風は少し冷たい。
たどり着いた大きな公園にはたくさんの子供達がいた。
道の脇を見ると新しい芽が出ている。小さい花も咲いている。
オレもこうならなくちゃならない。
人間は何度も別れを繰り返して大きくなるんだ。
少しばかり笑顔になる。
麗と夢見た家族を他の家族と合わせてみる。
あのときに結婚していれば、あんなんだったのかもしれない。
わぁわぁという大きな子供たちの声。
それを微笑みながら見ている若い夫婦。
よちよちと親の手を放して歩く小さい小さい子供。
それを見守る母親。
あれは麗だ。
あの時、二年前、オレが手を放さなかった麗。
あの時子供が出来ていれば丁度あのくらいの子供だろう。
彼女は自分が作った家族にああして微笑んだのだろう。
「のぞみぃ」
「いっちゃん」
彼女は自分の夫の声に微笑む。
その拍子に子供は尻餅をついてしまった。
「あ……ッ」
彼女はすぐさま我が子に駆け寄ったが、子供は自分で立ち上がろうと彼女のサポートを振り払った。
それに彼女は微笑んで手を打って応援をする。
やがて子供は立ち上がり、またよちよちと公園の道を歩き出した。
その後に手をつないだ若い夫婦が微笑みながら歩いて行く。
そうだ。それでいいんだ。
子供、親、夫婦、恋人。
なんてうらやましいんだろう。
オレはそれを自らの手で砕いた。
必死に掴もうとした麗の手を。
「レイね、今日晴れてたからお洗濯したんだ──」
オレはなぜあの言葉に返答しなかったんだろう。
「そうか」
たったそれだけの一言を。
麗。よかったな。
そんな冷たいオレと離れて、別な優しい男をつかまえて、楽しい人生を送ってくれよ。
オレは。
オレは。
オレはさぁ──。
オレは誰と家族になるのだろう。
それって何年後だろうか?
だけどきっと幸せになるよ。
麗。だからキミも幸せになってくれ。誰よりも。誰よりも。
そしてもしもまた会えたら笑い合おう。
わずかな時間を過ごした青春のあの部屋の出来事。
それを笑い話にしようよ。
さようなら。
オレの愛した麗。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる