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第59話 愛した人
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それから由香里は夢に出て来てくれることはなくなった。
オレは白い草原で待ちぼうけを食らわされている。
たまにうっすらと現れ苦笑いをしながら口をパクパクさせるだけですぐ消えてしまう。
もうエネルギーを保てないのだろう。
霊の世界はよく分からない。
出版した絵本の売り上げはそこそこ順調だった。
変則な話ではあるが、絵もよかったらしい。
これが世間に広まれば、麗から連絡があるんじゃないか?
と言う思いは短慮だった。
麗からは連絡はない。
本の存在も知らないかも知れない。
ひょっとしたら、最悪の事態。
すでに死んでしまっているのかも知れない。
しかし、夢の中だが、由香里は以前、麗らしき人物はこっちにいないと言っていた。それを信じたい。
『おさかなたいし』
オレのペンネーム。
麗が見たら一発で分かってくれると思う。
そして、話の内容も。
でも、麗は本に興味があったわけじゃない。
分かって貰える確率は少なかった。
それから一年。麗と別れて二年。由香里が死んで一年と五ヶ月。
全く女性の色がなくなった。
でも構わない。麗を待つことに決めたんだ。
生きていれば21歳。まだまだオレたちの人生やり直せる。
「なー」
「なんだよアイ。お腹すいちゃった?」
「なーん」
愛は愛する人を失ったたった一つのオレの癒やしとなった。
麗のように甘える姿が可愛らしくて仕方がない。
真司たちに子どもが出来た。
とても可愛らしい女の子。正直羨ましかった。
人はこうして家族を増やしていくんだな。
「もういい加減、前に進めよ」
真司の言葉。確かに女々しい。
ずっと一緒にいる真司にはオレの性格がよく分かっているだろう。
いつまでも二人を思っているなんて女々しいよな。
月命日。隣県にある由香里の墓に水とタバコを供える。
丘の上から街を一望できる立地。自由が好きだった由香里にはいい青山。終息の地だろう。
彼女の墓参には仕事をしていないから来れてる。
世間から見れば、とんでもない穀潰しだろう。
「あのう」
振り返ると、年の頃は俺の母親ほどの女性。
見たことがある。由香里の母親だ。派手な人。
スナックのママとかそんな感じの人だ。
「由香里と、どんな縁で?」
オレをその言葉を受け、墓石を一瞥しながら微笑む。
「一緒に暮らそうと思ってました」
それを聞いた由香里の母親は、ハッとしたような顔をした。
「あなたが泰志さん?」
「ええ。そうです」
「娘がずっと前に夢の中で、あなたに伝えて欲しいと」
「は、はぁ……」
「私はいつも近くにいるし、捜し物も近くにいると」
「え?」
「いえ、夢の話しですからね。でも夢の中で、結婚したかった人と言ってましたよ。生前はそんなこと絶対にしないと言ってましたのに」
「そうでしたか。由香里がそんなことを」
夢。
夢。
夢──。
由香里は最後の力を振り絞って、麗のことまで探してくれたのかな?
近くにいるって。
「なー」
「コイツかな?」
ひょいと胸に愛を抱き上げる。
愛は気まぐれに一つの「なー」と鳴くと、ソファーの方へ行ってしまった。
そこには、麗が書いたルームプレート。
『猫とお魚』の文字だ。
麗がいなくなってから外したものをどこかにしまって置いたけど、愛が見つけてきたのかな?
オレはそれをドアの前にかけた。
間違ってはいない。愛とオレの部屋だもの。
もちろん、麗がこれを見てくれたらドアを叩いてくれるかも知れない。そんな思いは当然あった。
オレは白い草原で待ちぼうけを食らわされている。
たまにうっすらと現れ苦笑いをしながら口をパクパクさせるだけですぐ消えてしまう。
もうエネルギーを保てないのだろう。
霊の世界はよく分からない。
出版した絵本の売り上げはそこそこ順調だった。
変則な話ではあるが、絵もよかったらしい。
これが世間に広まれば、麗から連絡があるんじゃないか?
と言う思いは短慮だった。
麗からは連絡はない。
本の存在も知らないかも知れない。
ひょっとしたら、最悪の事態。
すでに死んでしまっているのかも知れない。
しかし、夢の中だが、由香里は以前、麗らしき人物はこっちにいないと言っていた。それを信じたい。
『おさかなたいし』
オレのペンネーム。
麗が見たら一発で分かってくれると思う。
そして、話の内容も。
でも、麗は本に興味があったわけじゃない。
分かって貰える確率は少なかった。
それから一年。麗と別れて二年。由香里が死んで一年と五ヶ月。
全く女性の色がなくなった。
でも構わない。麗を待つことに決めたんだ。
生きていれば21歳。まだまだオレたちの人生やり直せる。
「なー」
「なんだよアイ。お腹すいちゃった?」
「なーん」
愛は愛する人を失ったたった一つのオレの癒やしとなった。
麗のように甘える姿が可愛らしくて仕方がない。
真司たちに子どもが出来た。
とても可愛らしい女の子。正直羨ましかった。
人はこうして家族を増やしていくんだな。
「もういい加減、前に進めよ」
真司の言葉。確かに女々しい。
ずっと一緒にいる真司にはオレの性格がよく分かっているだろう。
いつまでも二人を思っているなんて女々しいよな。
月命日。隣県にある由香里の墓に水とタバコを供える。
丘の上から街を一望できる立地。自由が好きだった由香里にはいい青山。終息の地だろう。
彼女の墓参には仕事をしていないから来れてる。
世間から見れば、とんでもない穀潰しだろう。
「あのう」
振り返ると、年の頃は俺の母親ほどの女性。
見たことがある。由香里の母親だ。派手な人。
スナックのママとかそんな感じの人だ。
「由香里と、どんな縁で?」
オレをその言葉を受け、墓石を一瞥しながら微笑む。
「一緒に暮らそうと思ってました」
それを聞いた由香里の母親は、ハッとしたような顔をした。
「あなたが泰志さん?」
「ええ。そうです」
「娘がずっと前に夢の中で、あなたに伝えて欲しいと」
「は、はぁ……」
「私はいつも近くにいるし、捜し物も近くにいると」
「え?」
「いえ、夢の話しですからね。でも夢の中で、結婚したかった人と言ってましたよ。生前はそんなこと絶対にしないと言ってましたのに」
「そうでしたか。由香里がそんなことを」
夢。
夢。
夢──。
由香里は最後の力を振り絞って、麗のことまで探してくれたのかな?
近くにいるって。
「なー」
「コイツかな?」
ひょいと胸に愛を抱き上げる。
愛は気まぐれに一つの「なー」と鳴くと、ソファーの方へ行ってしまった。
そこには、麗が書いたルームプレート。
『猫とお魚』の文字だ。
麗がいなくなってから外したものをどこかにしまって置いたけど、愛が見つけてきたのかな?
オレはそれをドアの前にかけた。
間違ってはいない。愛とオレの部屋だもの。
もちろん、麗がこれを見てくれたらドアを叩いてくれるかも知れない。そんな思いは当然あった。
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