月夜の晩、猫のような彼女を拾った ──突然始まる同棲生活!!

家紋武範

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第55話 二つの思い

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麗の弟である圭の話が終る。
彼はため息をつきながら過去のストーリーを結んだ。そして現在に戻る。

「無事にK大を合格しました。姉にお礼を言うために来たんです。あの時、あんなことを言ってごめんなさいと謝りたかったんです。ここへは、メールに書かれてたポスターの製作者から調べて来たんです」
「そうだったのか……」

「しかし、姉の素性はやはりバレてしまっていたんですね」
「そうだ。キミと同じで、DVDの写真を見て気付いてしまった」

「そりゃ他人が見たらもうやり直せませんよね」


他人?
他人──。
麗とオレが他人?

そんなわけない。
オレと麗は同じ目標に向かって進んだ。
同じ時を色濃く過ごした。

彼女は言ったんだ。
オレと家族になりたいんだと。子どもが欲しいんだと。

「すいません。長居致しまして。もう、関係ないですのに」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」

「え?」

席から立ち上がる彼を呼び止めた。不思議そうな顔をする彼。
オレはスマホを取り出した。

「オレも探しているんだ。レイのこと。オレもレイに謝りたい。情報を共有しよう。連絡先を教えてくれ」
「は、はい」

オレたちは互いに電話番号、メールアドレスの交換をした。
電話帳に「須藤麗」の上に「須藤圭」。
麗の方のはもう繋がらないけど。

彼は出て行った。京都に新しいアパートを借りたらしい。
麗と過ごしたアパートを引き払って。
だから彼女の帰れる場所は弟の圭のもとではない。

オレのアパート。
それが、彼女の人生においてのランドマークだ。目印なんだ。

麗のアダルト動画出演は仕方のない、考えた末の行動だったのだろう。
彼女はたった一人の家族のために自分を殺して大学に入れるまでの金を貯めたんだ。
嫌だったろう。叔父に汚された体をまた自ら汚すことに抵抗がないわけがない。
麗がオレのところに来てから、他の男に抱かれたろうか?
そんなはずはない。彼女は、彼女にはオレしか見えていなかった。

彼女は何度もそう言っていた。オレはそれを聞いて微笑んでいたけど分かっていなかった。
それを、分かってやれないなんて。


だが、この由香里を思い続ける気持ちと、麗を思い続ける気持ち。
どちらが本当なんだろう。
オレには答えが出ない。麗のことも忘れかけ、少しずつ由香里が上書きされていっている。
二人の愛らしい顔が思い浮かぶ。

どうしたらいい?
由香里。

どこにいるんだ?
麗。
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