上 下
54 / 68

第54話 育てるために

しおりを挟む
姉は中学を卒業して働きながらボクを育てると親戚に言いました。
少しだけお金を貸して欲しい。保証人になって欲しい。

健気な姉をようやく尊敬するようになれました。

「ケイ。お姉ちゃんが働くから、頑張って勉強しなさい」
「うん。ボク頑張るよ。いつか姉ちゃんのために家を建てるんだ」

「ふふ。ようやく家族二人きりになれたというか……」
「ホントだね」

姉が野菜をカットして袋詰めする工場で働くようになり、最初は大変でしたが徐々に生活が楽になってきました。部活の高いシューズも平気で買ってくれました。
ある日、こっそり預金通帳を見てみると、月に50万、80万、100万。
かなりの給料でした。その時は野菜をカットして袋詰めする工場って給料高いんだなあと思っただけでしたよ。

ボクは先生に六大学を目指すように言われていました。
成績が良かったのです。そのために姉はボクを塾に入れ、高校のパンフレットをあさりました。
ボクは知りませんでした。塾にも、高校にも、大学にも多額の金がかかることを。

「何も心配いらないよ。家族じゃない」
「うん。ありがとう姉ちゃん」

姉が働くのは当たり前。
ボクは勉強をするのが当たり前。

「これ、姉ちゃんの誕生日プレゼント。安物だけど」

それは小さな1000円のポーチ。
小遣いから買ったものに、姉は大変喜んでいましたよ。

やがて、県内一の進学校に進み、六大学の合格率もほぼ確実の判定が出た頃。
クラスの誰かが勉強の出来るボクへやっかみの気持ちだったのでしょう。
赤面するボクを見て溜飲を下げたかったのかも知れない。
机の上に、赤いDVDの箱が置かれていたのです。


「それはレイの出演作品だった?」


その通りです。置いた本人は気付かなかったのでしょう。
しかしボクは長い時間固まっていました。
ホームルームが始まり、先生にそれを没収されるまで。
姉のあられもない姿。叔父との行為がフラッシュバックします。

これから二人で頑張ってやっていこうと誓ったのに。
これじゃダメだ。
怒りと哀しみ。
部屋に帰って、姉をなじりました。
姉は泣いて謝りましたがボクは許しませんでした。

「出て行けよ! もう縁切りだ! 姉弟だなんて思わない。二度とボクの前に姿を現さないでくれ!」
「ケイ。ケイ。ケイ──」

泣きじゃくる姉。
やがてボクのプレゼントしたポーチを片手に持つとニコリと微笑みました。

「なーん」

それっきり。姉は出て行ってしまいました。
しかし、一年前に一度だけメールが来たのです。


件名:須藤麗です
本文:圭元気ですか? これ、人生最後のメールにします。お父さんとお母さんを失って、お姉ちゃんは間違って圭を育ててごめんなさい。お姉ちゃんが置いてったお金は汚いですが、あれでちゃんと大学に行って欲しいです。お姉ちゃんがいてごめんね。恥ずかしい思いをさせてごめんなさい。圭にはそんな人間になって欲しくないなんて矛盾してるけど、普通に生きていって下さい。
お姉ちゃんね、今度結婚します。旦那さんになる人はとても立派な人だよ。優秀で才能のある人なの。旅行会社の店頭にポスターが貼ってあるデザインをした人です。その写真、お姉ちゃんなの。また圭が恥ずかしい思いするかと思って本当は嫌だったけど、断れなくてごめん。また圭に迷惑かけちゃったかも知れません。
お姉ちゃんね、四度目の家族は必ず成功させます。真面目に生きるの。楽な道はもう選ばないよ。だからお姉ちゃんのことは心配いりません。
圭の人生の成功を祈っています。さようなら。



ですが、そのメールが来てもまだ姉を軽蔑していたボクは返信をしませんでした。
しかし、姉がしていた行為はボクを育てるための仕方のない行為だったのだと……。思い直し始めたのです。
そこまでにずいぶんかかりました。バカはボクの方だったのです。考えた末にメールを返信しましたが、すでに解約された後だったようで、メールは返ってきてしまったのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

あなたは人妻のパンツを見た

ヘロディア
恋愛
主人公と夫は仲睦まじい夫婦である。 実は隣の家にもラブラブカップルが住んでいて、毎晩喘ぎ声が聞こえてくるようなイチャイチャっぷりである。 隣の夫人を少々羨ましく思った主人公は、夫とある約束をする…

ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。 余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。 しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。 医師からの検査の結果が「性感染症」。 鷹也には全く身に覚えがなかった。 ※1話は約1000文字と少なめです。 ※111話、約10万文字で完結します。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...