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第54話 育てるために
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姉は中学を卒業して働きながらボクを育てると親戚に言いました。
少しだけお金を貸して欲しい。保証人になって欲しい。
健気な姉をようやく尊敬するようになれました。
「ケイ。お姉ちゃんが働くから、頑張って勉強しなさい」
「うん。ボク頑張るよ。いつか姉ちゃんのために家を建てるんだ」
「ふふ。ようやく家族二人きりになれたというか……」
「ホントだね」
姉が野菜をカットして袋詰めする工場で働くようになり、最初は大変でしたが徐々に生活が楽になってきました。部活の高いシューズも平気で買ってくれました。
ある日、こっそり預金通帳を見てみると、月に50万、80万、100万。
かなりの給料でした。その時は野菜をカットして袋詰めする工場って給料高いんだなあと思っただけでしたよ。
ボクは先生に六大学を目指すように言われていました。
成績が良かったのです。そのために姉はボクを塾に入れ、高校のパンフレットをあさりました。
ボクは知りませんでした。塾にも、高校にも、大学にも多額の金がかかることを。
「何も心配いらないよ。家族じゃない」
「うん。ありがとう姉ちゃん」
姉が働くのは当たり前。
ボクは勉強をするのが当たり前。
「これ、姉ちゃんの誕生日プレゼント。安物だけど」
それは小さな1000円のポーチ。
小遣いから買ったものに、姉は大変喜んでいましたよ。
やがて、県内一の進学校に進み、六大学の合格率もほぼ確実の判定が出た頃。
クラスの誰かが勉強の出来るボクへやっかみの気持ちだったのでしょう。
赤面するボクを見て溜飲を下げたかったのかも知れない。
机の上に、赤いDVDの箱が置かれていたのです。
「それはレイの出演作品だった?」
その通りです。置いた本人は気付かなかったのでしょう。
しかしボクは長い時間固まっていました。
ホームルームが始まり、先生にそれを没収されるまで。
姉のあられもない姿。叔父との行為がフラッシュバックします。
これから二人で頑張ってやっていこうと誓ったのに。
これじゃダメだ。
怒りと哀しみ。
部屋に帰って、姉をなじりました。
姉は泣いて謝りましたがボクは許しませんでした。
「出て行けよ! もう縁切りだ! 姉弟だなんて思わない。二度とボクの前に姿を現さないでくれ!」
「ケイ。ケイ。ケイ──」
泣きじゃくる姉。
やがてボクのプレゼントしたポーチを片手に持つとニコリと微笑みました。
「なーん」
それっきり。姉は出て行ってしまいました。
しかし、一年前に一度だけメールが来たのです。
件名:須藤麗です
本文:圭元気ですか? これ、人生最後のメールにします。お父さんとお母さんを失って、お姉ちゃんは間違って圭を育ててごめんなさい。お姉ちゃんが置いてったお金は汚いですが、あれでちゃんと大学に行って欲しいです。お姉ちゃんがいてごめんね。恥ずかしい思いをさせてごめんなさい。圭にはそんな人間になって欲しくないなんて矛盾してるけど、普通に生きていって下さい。
お姉ちゃんね、今度結婚します。旦那さんになる人はとても立派な人だよ。優秀で才能のある人なの。旅行会社の店頭にポスターが貼ってあるデザインをした人です。その写真、お姉ちゃんなの。また圭が恥ずかしい思いするかと思って本当は嫌だったけど、断れなくてごめん。また圭に迷惑かけちゃったかも知れません。
お姉ちゃんね、四度目の家族は必ず成功させます。真面目に生きるの。楽な道はもう選ばないよ。だからお姉ちゃんのことは心配いりません。
圭の人生の成功を祈っています。さようなら。
麗
ですが、そのメールが来てもまだ姉を軽蔑していたボクは返信をしませんでした。
しかし、姉がしていた行為はボクを育てるための仕方のない行為だったのだと……。思い直し始めたのです。
そこまでにずいぶんかかりました。バカはボクの方だったのです。考えた末にメールを返信しましたが、すでに解約された後だったようで、メールは返ってきてしまったのです。
少しだけお金を貸して欲しい。保証人になって欲しい。
健気な姉をようやく尊敬するようになれました。
「ケイ。お姉ちゃんが働くから、頑張って勉強しなさい」
「うん。ボク頑張るよ。いつか姉ちゃんのために家を建てるんだ」
「ふふ。ようやく家族二人きりになれたというか……」
「ホントだね」
姉が野菜をカットして袋詰めする工場で働くようになり、最初は大変でしたが徐々に生活が楽になってきました。部活の高いシューズも平気で買ってくれました。
ある日、こっそり預金通帳を見てみると、月に50万、80万、100万。
かなりの給料でした。その時は野菜をカットして袋詰めする工場って給料高いんだなあと思っただけでしたよ。
ボクは先生に六大学を目指すように言われていました。
成績が良かったのです。そのために姉はボクを塾に入れ、高校のパンフレットをあさりました。
ボクは知りませんでした。塾にも、高校にも、大学にも多額の金がかかることを。
「何も心配いらないよ。家族じゃない」
「うん。ありがとう姉ちゃん」
姉が働くのは当たり前。
ボクは勉強をするのが当たり前。
「これ、姉ちゃんの誕生日プレゼント。安物だけど」
それは小さな1000円のポーチ。
小遣いから買ったものに、姉は大変喜んでいましたよ。
やがて、県内一の進学校に進み、六大学の合格率もほぼ確実の判定が出た頃。
クラスの誰かが勉強の出来るボクへやっかみの気持ちだったのでしょう。
赤面するボクを見て溜飲を下げたかったのかも知れない。
机の上に、赤いDVDの箱が置かれていたのです。
「それはレイの出演作品だった?」
その通りです。置いた本人は気付かなかったのでしょう。
しかしボクは長い時間固まっていました。
ホームルームが始まり、先生にそれを没収されるまで。
姉のあられもない姿。叔父との行為がフラッシュバックします。
これから二人で頑張ってやっていこうと誓ったのに。
これじゃダメだ。
怒りと哀しみ。
部屋に帰って、姉をなじりました。
姉は泣いて謝りましたがボクは許しませんでした。
「出て行けよ! もう縁切りだ! 姉弟だなんて思わない。二度とボクの前に姿を現さないでくれ!」
「ケイ。ケイ。ケイ──」
泣きじゃくる姉。
やがてボクのプレゼントしたポーチを片手に持つとニコリと微笑みました。
「なーん」
それっきり。姉は出て行ってしまいました。
しかし、一年前に一度だけメールが来たのです。
件名:須藤麗です
本文:圭元気ですか? これ、人生最後のメールにします。お父さんとお母さんを失って、お姉ちゃんは間違って圭を育ててごめんなさい。お姉ちゃんが置いてったお金は汚いですが、あれでちゃんと大学に行って欲しいです。お姉ちゃんがいてごめんね。恥ずかしい思いをさせてごめんなさい。圭にはそんな人間になって欲しくないなんて矛盾してるけど、普通に生きていって下さい。
お姉ちゃんね、今度結婚します。旦那さんになる人はとても立派な人だよ。優秀で才能のある人なの。旅行会社の店頭にポスターが貼ってあるデザインをした人です。その写真、お姉ちゃんなの。また圭が恥ずかしい思いするかと思って本当は嫌だったけど、断れなくてごめん。また圭に迷惑かけちゃったかも知れません。
お姉ちゃんね、四度目の家族は必ず成功させます。真面目に生きるの。楽な道はもう選ばないよ。だからお姉ちゃんのことは心配いりません。
圭の人生の成功を祈っています。さようなら。
麗
ですが、そのメールが来てもまだ姉を軽蔑していたボクは返信をしませんでした。
しかし、姉がしていた行為はボクを育てるための仕方のない行為だったのだと……。思い直し始めたのです。
そこまでにずいぶんかかりました。バカはボクの方だったのです。考えた末にメールを返信しましたが、すでに解約された後だったようで、メールは返ってきてしまったのです。
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