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第49話 謀反
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由香里とは、週に一、二度ほど密会を繰り返した。
なにも密会なんて大げさじゃない。
恋人同士なんだから。
たまに甘えるようになった由香里。
オレも由香里の膝に甘えて倒れる。
二人の至福の時間。
互いの部屋には行き来はしない。
由香里は休日は一人で居たがる。
互いの休日は互いの部屋で過ごすのだ。
オレもそれでよかった。洗濯や掃除もしたかったし。
だがたまにわずかな時間が会いたくなる。
それは由香里も同じようだった。
しかし、そんなのも次ぎ会うための重要な時間なんだろうと互いに言い合っていた。
だから二人が外で会う日は、月曜日と金曜日が多かった。
月曜日は休日の時間を埋めるため。
金曜日は休日前に温め合うため。
……まぁ、火曜も水曜も木曜も会うときは連続であったりしたが。
会社でもオレたちは顔を会わす。仕事もチームを組んだりして同じ仕事をこなすことが多くなった。
そんな中、オレに係長の辞令がおりることになった。
畑中さんの推薦が大分あったようだった。
つか、ホテルのベッドの上で聞いていた。
社長が、オレたちのフロアにおりて来て全員を集めた。
デザイナーや編集、ライター、校正の社員があつまるなかでオレの係長就任式。
社長の期待度が分かる。
だが、由香里には野望があった。
そう。独立だ。
オレが係長ともなれば独立した際にも箔がつくということだ。
社長は笑顔で声高らかに、前のコンテストのグランプリに輝いたことを褒め讃え、期待の言葉を贈ってくれた。
みんなが拍手をしてくれる中、そこには柿沢の姿もあった。
あれ以来話もしていない。
そこで吐き捨てるような怒声が聞こえ、みんながそちらを向く。
そこには谷元さん。
完全なる面白くない顔。
そりゃそうだ。年下のオレが上役になってしまうわけなのだから。
「どうしたのかね? 谷元くん」
社長が問う。
いつもの谷元さんならこんな大胆な行動にはでない。よほど面白くないのだろう。
しかも社長に一喝されればブルッちまって何も話せなくなるはずなのだ。
だがその日の谷元さんは違っていた。
「坂間野が係長? どう考えたっておかしいでしょう」
「何を言っているのかね。キミは」
社長も少しばかり声を荒げる。
谷元さんは完全な捨て身だ。自暴自棄といった感じだった。
「私にはなぜ坂間野が係長になったか分かりますよ」
「ほう。どういうことかね」
この時まで、谷元さんが何を言いだすか分からなかった。
彼は大きく息を吸い込んだ。
「畑中次長の情夫だからですよ。二人が会社帰りに密会しているところを何度も目撃しました。おおかたホテルで畑中次長に色目を使って出世させてもらったんでしょう。それに畑中次長だって、昔は専務や常務とも噂がありましたよね? 互いに自分の道具で出世ですか? デザインが聞いて呆れますよ」
全員の時が止まる。
そしてザワつき。
私も見たことがあると言うような声も聞こえる。
前に立つ、オレや由香里に視線が集まるが、由香里はいつも通り冷静な顔をしていた。
社長はどもりながら由香里に聞いてきた。
「どういうことかね。畑中くん」
しかし、由香里は至極冷静。まるで分かっていたかのように。
「はい。私と坂間野は恋人同士ですが、会社の益を考えての推薦です。私だけでなく、部長お二人の推薦もあります。お二人が同調するほど能力があるのです。それはコンテストでも明らか。社長も常々お褒めになっておりました。それは讒言にて否定されるものではありません」
秘密の開示。恋人であるとの認知。
並み居る社員をピシャリと封じた。
谷元さんも黙ってしまった。所詮は鷹と鼠の開きがある。
彼は今後も不遇な会社生活を送ることになるだろう。
ざまぁ見ろだ。
そう思ったときだった。
人垣を割って前に進んでくるもの。
それが由香里の前に立って頬を叩く。
「あなただったんですね。このサディスト! 人の恋人を横取りして……!」
柿沢だ。柿沢だった。
由香里はあっけに取られた顔をして、叩かれた勢いでオレの方を向く。
どうするのだろう。と思ったら、ニヤリと笑った。
そして噴き出す。
由香里の柿沢へ対する嘲笑だろう。
オレも笑ってしまった。二人で声を偲ばせて。
真面目な女──。
家庭的な女──。
つまらない女──。
さらには、泰志、近場で済ませやがってと言う思いもあるのだろう。二人の笑い声がフロアに広がる。
柿沢は真っ赤な顔をしてさらに怒った。
「何よ! 二人とも馬鹿にして!」
これが引き金となって、オレと由香里は大笑する。柿沢には悪いがお呼びじゃない。
恋人になりきれなかった柿沢がでてくる幕じゃなかった。
「二人とも頭おかしいよ!」
そういいながら柿沢は部屋を出て行ってしまった。
泣きながら。そりゃプライドも傷つけられたし恥もかいたろう。
おかげでオレたちは大ひんしゅくだ。
社長にも怒られた。
係長就任式は中断し、正式なものは行われず、総務から任命書を受け取るだけで終った。
なにも密会なんて大げさじゃない。
恋人同士なんだから。
たまに甘えるようになった由香里。
オレも由香里の膝に甘えて倒れる。
二人の至福の時間。
互いの部屋には行き来はしない。
由香里は休日は一人で居たがる。
互いの休日は互いの部屋で過ごすのだ。
オレもそれでよかった。洗濯や掃除もしたかったし。
だがたまにわずかな時間が会いたくなる。
それは由香里も同じようだった。
しかし、そんなのも次ぎ会うための重要な時間なんだろうと互いに言い合っていた。
だから二人が外で会う日は、月曜日と金曜日が多かった。
月曜日は休日の時間を埋めるため。
金曜日は休日前に温め合うため。
……まぁ、火曜も水曜も木曜も会うときは連続であったりしたが。
会社でもオレたちは顔を会わす。仕事もチームを組んだりして同じ仕事をこなすことが多くなった。
そんな中、オレに係長の辞令がおりることになった。
畑中さんの推薦が大分あったようだった。
つか、ホテルのベッドの上で聞いていた。
社長が、オレたちのフロアにおりて来て全員を集めた。
デザイナーや編集、ライター、校正の社員があつまるなかでオレの係長就任式。
社長の期待度が分かる。
だが、由香里には野望があった。
そう。独立だ。
オレが係長ともなれば独立した際にも箔がつくということだ。
社長は笑顔で声高らかに、前のコンテストのグランプリに輝いたことを褒め讃え、期待の言葉を贈ってくれた。
みんなが拍手をしてくれる中、そこには柿沢の姿もあった。
あれ以来話もしていない。
そこで吐き捨てるような怒声が聞こえ、みんながそちらを向く。
そこには谷元さん。
完全なる面白くない顔。
そりゃそうだ。年下のオレが上役になってしまうわけなのだから。
「どうしたのかね? 谷元くん」
社長が問う。
いつもの谷元さんならこんな大胆な行動にはでない。よほど面白くないのだろう。
しかも社長に一喝されればブルッちまって何も話せなくなるはずなのだ。
だがその日の谷元さんは違っていた。
「坂間野が係長? どう考えたっておかしいでしょう」
「何を言っているのかね。キミは」
社長も少しばかり声を荒げる。
谷元さんは完全な捨て身だ。自暴自棄といった感じだった。
「私にはなぜ坂間野が係長になったか分かりますよ」
「ほう。どういうことかね」
この時まで、谷元さんが何を言いだすか分からなかった。
彼は大きく息を吸い込んだ。
「畑中次長の情夫だからですよ。二人が会社帰りに密会しているところを何度も目撃しました。おおかたホテルで畑中次長に色目を使って出世させてもらったんでしょう。それに畑中次長だって、昔は専務や常務とも噂がありましたよね? 互いに自分の道具で出世ですか? デザインが聞いて呆れますよ」
全員の時が止まる。
そしてザワつき。
私も見たことがあると言うような声も聞こえる。
前に立つ、オレや由香里に視線が集まるが、由香里はいつも通り冷静な顔をしていた。
社長はどもりながら由香里に聞いてきた。
「どういうことかね。畑中くん」
しかし、由香里は至極冷静。まるで分かっていたかのように。
「はい。私と坂間野は恋人同士ですが、会社の益を考えての推薦です。私だけでなく、部長お二人の推薦もあります。お二人が同調するほど能力があるのです。それはコンテストでも明らか。社長も常々お褒めになっておりました。それは讒言にて否定されるものではありません」
秘密の開示。恋人であるとの認知。
並み居る社員をピシャリと封じた。
谷元さんも黙ってしまった。所詮は鷹と鼠の開きがある。
彼は今後も不遇な会社生活を送ることになるだろう。
ざまぁ見ろだ。
そう思ったときだった。
人垣を割って前に進んでくるもの。
それが由香里の前に立って頬を叩く。
「あなただったんですね。このサディスト! 人の恋人を横取りして……!」
柿沢だ。柿沢だった。
由香里はあっけに取られた顔をして、叩かれた勢いでオレの方を向く。
どうするのだろう。と思ったら、ニヤリと笑った。
そして噴き出す。
由香里の柿沢へ対する嘲笑だろう。
オレも笑ってしまった。二人で声を偲ばせて。
真面目な女──。
家庭的な女──。
つまらない女──。
さらには、泰志、近場で済ませやがってと言う思いもあるのだろう。二人の笑い声がフロアに広がる。
柿沢は真っ赤な顔をしてさらに怒った。
「何よ! 二人とも馬鹿にして!」
これが引き金となって、オレと由香里は大笑する。柿沢には悪いがお呼びじゃない。
恋人になりきれなかった柿沢がでてくる幕じゃなかった。
「二人とも頭おかしいよ!」
そういいながら柿沢は部屋を出て行ってしまった。
泣きながら。そりゃプライドも傷つけられたし恥もかいたろう。
おかげでオレたちは大ひんしゅくだ。
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