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第48話 少しずつ忘れる。猫のような彼女
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「前カノは、本当に可愛い。甘え上手で魚好き。そして、エッチが上手でしたよ」
「へー。猫っぽいな」
「そう。猫。オレも最初から感じてました。昼間は寝る場所を求めて、オレの帰りをただ待っているんです」
「ますます猫っぽい」
「帰って行くとひと声鳴いて、体を擦り付けてくるんです。夕食はゴロニャンゴロニャン言いながら食べるし」
「そりゃウソだろ」
「いやホントですよ。「なー」って鳴きますし。でも、彼女は猫になって過去を忘れようとしていただけだったんです。いわゆる心の病というかなんというか」
「はぁ。例のアダルト動画だな」
「そうですね。その過去を隠して結婚しようとしたんです。オレだって、彼女の過去まで咎めようとは思ってませんでしたよ? でもね。不意打ちで他の男とヤッてる写真見て平静でいられます? しかも親友の結婚式の二次会でそれが全員にバレたんスよ? もうね。ダメでした」
「ふーん」
「あれ? 嫉妬して噛もうとしてません?」
「してないよ。それで彼女を軽蔑したってことだろ?」
「うーん。何ですかね? 過去の話なんですけど、汚く感じてしまったみたいな?」
「泰志はさぁ」
甘い顔。だが厳しくも真面目でもある。
畑中さんは何を言おうとしているのか。
オレも顔が真剣になり返事をした。
「はい」
「私の、ピアスを開けていたときの過去、タトゥを入れたときの過去、売春をしてた過去を聞いても何も言わなかったよね」
「あー。畑中さんならありそうですもん」
「前カノのは許せなかった?」
「やっぱ画像っスかね?」
「多分泰志は、私の行為写真を見ても何も言わないと思う」
「……そーかなぁ」
「そう。そこが二時間の女と、生涯を伴にしようとした女との違い」
「はぁ……、まぁ……」
「泰志」
「何です?」
「愛してると言ってみてくれ」
「は、はぁ? 何でですか?」
「簡単だろ? 泰志。愛してる。キミとずっと一緒にいたい。さぁ、キミも言うんだ」
「あの、由香里……」
「うん」
「あい、して……」
「…………」
何故だろう。どうして言葉がつまる?
ただの5文字。
それが何故目の前の畑中さんに言えない?
言え。簡単だろ。言っちまえ。
愛してる。愛してる。愛してる。
全てを許した仲だろうが。
今から一緒に泊まるんだろうが。
「タイちゃん」
「レイ。愛しているよ」
流れる涙。麗が心の中に入ってきてしまった。
小さい子猫。
オレだけの──。
「由香里」
「なに?」
「オレ、前カノの前に六年間思い続けていた人がいたんだ」
「……うん?」
「前カノと付き合いながらも、そいつを諦めきれない気持ちがあって……。だから、オレはそんな女々しいヤツなんだよ。未だに前カノを忘れられずにいるんだ。だけど、由香里と一緒に忘れていきたい。彼女はもう、どこに行ったかさえ分からないんだから」
「へー。そっか……」
会話が止まる。自分のセリフもなかなかおかしい。
どこに行ったか分からないから忘れるって意味分かんねーし。
「猫みたいな彼女か」
「そうです」
「まぁ、猫は飼い主の見てないとこで死ぬって言うしな」
「ちょっと! 縁起でもない」
畑中さんは、急にニヤついてオレの胸に飛び込んでベッドに押し倒して来た。
「にゃーん。泰志ぃ」
「スゲぇ。ギャップ萌え」
「可愛いから噛み噛みしちゃう。がぶぅ」
「わぁ! 痛ぇ!」
「痛くないにゃん。甘噛みだにゃん」
「いや、猫っつうか、狂犬」
「なに? 旨そうだから食っちゃうぞ?」
「マジでやりそうだから怖い」
麗ほどじゃないけど、ほどよいイチャイチャ。
そして体を合わせる。タバコの呼吸。真面目な仕事の話。
未来の話。
畑中さん──。
由香里は、オレに惚れてくれた。
狼のような人生だったのに、オレと伴にいることを選んだ。
柿沢には別れを告げた。
泣きじゃくってすがりついてきたけど自分に嘘をつけない。
前カノとよりを戻すと言ったら、なじってきて少ないオレの荷物を投げつけてきた。
心から申し訳ないと思う。
彼女には早く立ち直って、新しい人を探して貰いたい。
「初めての夜は少しくらいガマンするんだぞー」
部屋を出されて、ドアに向かって小さくつぶやいた。
自分の部屋に帰る。
自分の部屋に。
少しずつ忘れる。蛍のことをそうしたように。
麗のことも。
「へー。猫っぽいな」
「そう。猫。オレも最初から感じてました。昼間は寝る場所を求めて、オレの帰りをただ待っているんです」
「ますます猫っぽい」
「帰って行くとひと声鳴いて、体を擦り付けてくるんです。夕食はゴロニャンゴロニャン言いながら食べるし」
「そりゃウソだろ」
「いやホントですよ。「なー」って鳴きますし。でも、彼女は猫になって過去を忘れようとしていただけだったんです。いわゆる心の病というかなんというか」
「はぁ。例のアダルト動画だな」
「そうですね。その過去を隠して結婚しようとしたんです。オレだって、彼女の過去まで咎めようとは思ってませんでしたよ? でもね。不意打ちで他の男とヤッてる写真見て平静でいられます? しかも親友の結婚式の二次会でそれが全員にバレたんスよ? もうね。ダメでした」
「ふーん」
「あれ? 嫉妬して噛もうとしてません?」
「してないよ。それで彼女を軽蔑したってことだろ?」
「うーん。何ですかね? 過去の話なんですけど、汚く感じてしまったみたいな?」
「泰志はさぁ」
甘い顔。だが厳しくも真面目でもある。
畑中さんは何を言おうとしているのか。
オレも顔が真剣になり返事をした。
「はい」
「私の、ピアスを開けていたときの過去、タトゥを入れたときの過去、売春をしてた過去を聞いても何も言わなかったよね」
「あー。畑中さんならありそうですもん」
「前カノのは許せなかった?」
「やっぱ画像っスかね?」
「多分泰志は、私の行為写真を見ても何も言わないと思う」
「……そーかなぁ」
「そう。そこが二時間の女と、生涯を伴にしようとした女との違い」
「はぁ……、まぁ……」
「泰志」
「何です?」
「愛してると言ってみてくれ」
「は、はぁ? 何でですか?」
「簡単だろ? 泰志。愛してる。キミとずっと一緒にいたい。さぁ、キミも言うんだ」
「あの、由香里……」
「うん」
「あい、して……」
「…………」
何故だろう。どうして言葉がつまる?
ただの5文字。
それが何故目の前の畑中さんに言えない?
言え。簡単だろ。言っちまえ。
愛してる。愛してる。愛してる。
全てを許した仲だろうが。
今から一緒に泊まるんだろうが。
「タイちゃん」
「レイ。愛しているよ」
流れる涙。麗が心の中に入ってきてしまった。
小さい子猫。
オレだけの──。
「由香里」
「なに?」
「オレ、前カノの前に六年間思い続けていた人がいたんだ」
「……うん?」
「前カノと付き合いながらも、そいつを諦めきれない気持ちがあって……。だから、オレはそんな女々しいヤツなんだよ。未だに前カノを忘れられずにいるんだ。だけど、由香里と一緒に忘れていきたい。彼女はもう、どこに行ったかさえ分からないんだから」
「へー。そっか……」
会話が止まる。自分のセリフもなかなかおかしい。
どこに行ったか分からないから忘れるって意味分かんねーし。
「猫みたいな彼女か」
「そうです」
「まぁ、猫は飼い主の見てないとこで死ぬって言うしな」
「ちょっと! 縁起でもない」
畑中さんは、急にニヤついてオレの胸に飛び込んでベッドに押し倒して来た。
「にゃーん。泰志ぃ」
「スゲぇ。ギャップ萌え」
「可愛いから噛み噛みしちゃう。がぶぅ」
「わぁ! 痛ぇ!」
「痛くないにゃん。甘噛みだにゃん」
「いや、猫っつうか、狂犬」
「なに? 旨そうだから食っちゃうぞ?」
「マジでやりそうだから怖い」
麗ほどじゃないけど、ほどよいイチャイチャ。
そして体を合わせる。タバコの呼吸。真面目な仕事の話。
未来の話。
畑中さん──。
由香里は、オレに惚れてくれた。
狼のような人生だったのに、オレと伴にいることを選んだ。
柿沢には別れを告げた。
泣きじゃくってすがりついてきたけど自分に嘘をつけない。
前カノとよりを戻すと言ったら、なじってきて少ないオレの荷物を投げつけてきた。
心から申し訳ないと思う。
彼女には早く立ち直って、新しい人を探して貰いたい。
「初めての夜は少しくらいガマンするんだぞー」
部屋を出されて、ドアに向かって小さくつぶやいた。
自分の部屋に帰る。
自分の部屋に。
少しずつ忘れる。蛍のことをそうしたように。
麗のことも。
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