月夜の晩、猫のような彼女を拾った ──突然始まる同棲生活!!

家紋武範

文字の大きさ
上 下
48 / 68

第48話 少しずつ忘れる。猫のような彼女

しおりを挟む
「前カノは、本当に可愛い。甘え上手で魚好き。そして、エッチが上手でしたよ」
「へー。猫っぽいな」

「そう。猫。オレも最初から感じてました。昼間は寝る場所を求めて、オレの帰りをただ待っているんです」
「ますます猫っぽい」

「帰って行くとひと声鳴いて、体を擦り付けてくるんです。夕食はゴロニャンゴロニャン言いながら食べるし」
「そりゃウソだろ」

「いやホントですよ。「なー」って鳴きますし。でも、彼女は猫になって過去を忘れようとしていただけだったんです。いわゆる心の病というかなんというか」
「はぁ。例のアダルト動画だな」

「そうですね。その過去を隠して結婚しようとしたんです。オレだって、彼女の過去まで咎めようとは思ってませんでしたよ? でもね。不意打ちで他の男とヤッてる写真見て平静でいられます? しかも親友の結婚式の二次会でそれが全員にバレたんスよ? もうね。ダメでした」
「ふーん」

「あれ? 嫉妬して噛もうとしてません?」
「してないよ。それで彼女を軽蔑したってことだろ?」

「うーん。何ですかね? 過去の話なんですけど、汚く感じてしまったみたいな?」
「泰志はさぁ」

甘い顔。だが厳しくも真面目でもある。
畑中さんは何を言おうとしているのか。
オレも顔が真剣になり返事をした。

「はい」
「私の、ピアスを開けていたときの過去、タトゥを入れたときの過去、売春ウリをしてた過去を聞いても何も言わなかったよね」

「あー。畑中さんならありそうですもん」
「前カノのは許せなかった?」

「やっぱ画像っスかね?」
「多分泰志は、私の行為写真を見ても何も言わないと思う」

「……そーかなぁ」
「そう。そこが二時間の女と、生涯を伴にしようとした女との違い」

「はぁ……、まぁ……」
「泰志」

「何です?」
「愛してると言ってみてくれ」

「は、はぁ? 何でですか?」
「簡単だろ? 泰志。愛してる。キミとずっと一緒にいたい。さぁ、キミも言うんだ」

「あの、由香里……」
「うん」

「あい、して……」
「…………」

何故だろう。どうして言葉がつまる?
ただの5文字。
それが何故目の前の畑中さんに言えない?

言え。簡単だろ。言っちまえ。
愛してる。愛してる。愛してる。
全てを許した仲だろうが。
今から一緒に泊まるんだろうが。




「タイちゃん」
「レイ。愛しているよ」




流れる涙。麗が心の中に入ってきてしまった。
小さい子猫。

オレだけの──。



「由香里」
「なに?」

「オレ、前カノの前に六年間思い続けていた人がいたんだ」
「……うん?」

「前カノと付き合いながらも、そいつを諦めきれない気持ちがあって……。だから、オレはそんな女々しいヤツなんだよ。未だに前カノを忘れられずにいるんだ。だけど、由香里と一緒に忘れていきたい。彼女はもう、どこに行ったかさえ分からないんだから」
「へー。そっか……」

会話が止まる。自分のセリフもなかなかおかしい。
どこに行ったか分からないから忘れるって意味分かんねーし。

「猫みたいな彼女か」
「そうです」

「まぁ、猫は飼い主の見てないとこで死ぬって言うしな」
「ちょっと! 縁起でもない」

畑中さんは、急にニヤついてオレの胸に飛び込んでベッドに押し倒して来た。

「にゃーん。泰志ぃ」
「スゲぇ。ギャップ萌え」

「可愛いから噛み噛みしちゃう。がぶぅ」
「わぁ! 痛ぇ!」

「痛くないにゃん。甘噛みだにゃん」
「いや、猫っつうか、狂犬」

「なに? 旨そうだから食っちゃうぞ?」
「マジでやりそうだから怖い」

麗ほどじゃないけど、ほどよいイチャイチャ。
そして体を合わせる。タバコの呼吸。真面目な仕事の話。
未来の話。

畑中さん──。
由香里は、オレに惚れてくれた。
狼のような人生だったのに、オレと伴にいることを選んだ。



柿沢には別れを告げた。
泣きじゃくってすがりついてきたけど自分に嘘をつけない。
前カノとよりを戻すと言ったら、なじってきて少ないオレの荷物を投げつけてきた。

心から申し訳ないと思う。
彼女には早く立ち直って、新しい人を探して貰いたい。

「初めての夜は少しくらいガマンするんだぞー」

部屋を出されて、ドアに向かって小さくつぶやいた。
自分の部屋に帰る。
自分の部屋に。

少しずつ忘れる。蛍のことをそうしたように。
麗のことも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

偶然PTAのママと

Rollman
恋愛
偶然PTAのママ友を見てしまった。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

処理中です...