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第42話 奇妙な同居

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畑中さんから逃げる、シェルター生活。
会社では畑中さんが話したそうにしていたが、避けた。
会社を出て、柿沢の部屋へ向かう。
彼女と、帰宅の時間に誤差はあったが柿沢は帰ってくると必ず手料理を作ってくれた。
とても旨い。

「今日は手早く親子丼ね」
「へー。手早く出来るもんなの?」

「簡単ですよ。卵、タマネギ、鶏肉、麺汁」
「そんなもんなんだ~」

料理は最高。申し分ない。
会話も楽しい。昔なじみだ。
買い物、デザインの話。

週末はショッピングモールでデート。
映画館で好きな映画を並んで見る。
活発な恋人同士。同棲している恋人同士なのだ。

だが二人は一線を越えていない。
彼女を抱き寄せキスをする。だが体は強ばったまま。

「ん~。タバコ臭い」
「え?」

「やだぁ。気持ち悪いです」
「じゃ、もう一回歯を磨いてくるよ」

「いえ。いいです」
「な、なにが?」

「別に眠りましょ」
「う、うん」

正直意味が分からない。
こんな恋人いるのかな。
互いに大人で、セックスも未だになしで暮らす二人なんて。


重いのかな。
なんだろう。
彼女をその気にさせること。

難しいぞ。
麗の時は逆だったもんな。
彼女はいつもその気だった。
オレは猫に狙われる魚。

でも今度は逆だ。オレは魚なりに彼女をどうにかさせるってことだよな。



もっとイチャイチャしてその雰囲気を作ろう。
その考えに至ったオレは、前の部屋の中で麗にしていたように近くにいって抱いた。
首筋に両腕を回したり、耳の近くにキスをしたり。

だが柿沢はそれが余り好きでは無かったようだ。

「暑いですよ。泰志さん」
「そう? じゃどうすればいい?」

「離れて座ればいいと思います」

うん……人それぞれだ。オレも別に常々抱き付いていたいわけじゃない。
だが麗の時のクセ。彼女はベタベタするのを喜んだだけ。
それがマックスになると、身を翻して、奉仕行為をしてくれる。それが好きだったのだ。
しかし、柿沢にはそれが望めなかった。

麗の奉仕行為は当然ながら格別だった。
畑中さんも、麗ほどとは言わないが巧かった。
それはオレ以外の男に教えられた結果なんだろう。
蛍はどうなんだろう。真司に教えられたのだろうか?
今度真司に聞いてみようかな……。

しかし柿沢は何もしてくれない。そう思うのは男のエゴかもしれない。
雰囲気さえ作れば柿沢だって。

軽くいこう。
ごく軽く。

「ユイさーん」
「なんですか? 泰志さん」

「ベッドに行きましょうか?」
「えー……」

「なに? いやなのぉ?」
「……うん。まだ時間も早いし」

「あのさ。恋人なら時間があれば励むもんだよ?」
「うーん」

「それに同棲してるのにまだ繋がれないなんておかしくない?」
「うーん」

「なにがうーんなもんか」
「いやぁ、それより同棲してるのに家事を分担してない方がおかしいと思います」

「え?」
「私が食事を作ってるんだから、食器洗いとか掃除とかは泰志さんがやるべきだと思います。男だから家事はしないなんておかしいですよ」

それとこれとは。
なぜ急にそれが出て来た。もう二週間も一緒にいるのに、何もないままの方がおかしいじゃねぇか。
なにが家事分担だよ。正直イラつく。

だいたいにして、キスでも何でも誘うのはオレの方ばかりじゃないか。
誘うのだって体力がいる。
拒否されたら次どうしていいか分からない。
それを、その気持ちも知らないで簡単に拒否するくせに。

負がたまる。負がたまる。
エッチするのにこんなに手続きが面倒だなんて。

「分かった。食器洗いと掃除だな。やるよ。じゃベッドに行こう」
「やだ。ちょっと待って下さい」

「いいから立てよ」

ぷっ

力んで立ち上がった拍子に出てしまった。

「やだ。泰志さん、目の前でなんてマナーがなってないですよ!」
「あー。ゴメンゴメン。つい。な」

「ほんとに嫌。トイレでしてください」

彼女は顔を背けた。そして、興もそがれた。
なんかもう今日はいいって感じ。

あの時を思い出す。

「にやにゃにゃにゃ!」
「あ。出ちゃった~。レイちゃん嗅いで」

「臭いにゃん! 臭いにゃん!」
「何でだよぉ。魚しか食ってねぇから臭くないだろ?」

麗は立ち上がって後足で砂をかける振りをする。
その姿にオレは笑う。
あそこには笑顔があった。仲良しの雰囲気に溢れていた。
今はどうだろう。
息が詰まる。しんどい。

オレはソファーで。柿沢はベッドで離れて寝る生活が二週間。
意味があるのかな。これって恋人なのかな?
分からない。
せめて繋がれれば変わるのかなぁ。
なんか、やる気も起きない。
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