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第36話 麗以外の女
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初めて入るホテル。麗とは来たことがない場所。
入りざま、畑中さんの唇を奪う。
麗とは違う唇。
これから始まることに気持ちが高揚する。
さり気なくシャワールームに入る畑中さん。
少し落ち着かず、部屋の中を見渡した。
何もかもが勝手が違う。
彼女を待つ間、興奮だけが押し寄せる。
彼女がシャワールームから出て来た。
次はオレが入る。すでに臨戦態勢。
今すぐ畑中さんを抱きたくて、急いで丁寧に洗い下着だけでシャワールームから飛び出した。
ベットに腰を下ろしてスマホを見ている畑中さんへ近づき手を取ってそこに立たせた。
そして、自分の胸に抱き寄せる。
麗より少し高めの背。
自分の生涯で二人目の女性。
──麗を忘れるための。
新しい恋をすれば忘れられる。
あの大好きだった麗を。
今から胸の下に麗以外の女性を置く。
麗が今までオレ以外の男にそうされていたように。
なぜこれが大事なことなんだろう。
愛する人以外に許していけない行為。
麗は何のためにそうしていたんだ?
それがなぜ言えない。
後ろめたいからだろう。
クソ。思い出してしまう。
あの映像。それに胸が冷える。
今から畑中さんを抱くのに。
抱きしめるのに。
「畑中さん。オレ、全力で畑中さんを愛します!」
「愛す? 便利な言葉だな」
「え?」
「ただ抱きたいだけだろ?」
「違いますよ。オレ、畑中さんを本気で……」
「どうでもいいけど? さっさと男の顔になれよ」
「は、はい」
そのまま彼女の服を脱がせ、腕に抱えてベッドイン。
後は言葉通りだ。
全力で彼女を抱いた。
全力で彼女を──。
しかしこんなものか。
愛のないセックス。
オレは麗のスペアを探してるだけ。
畑中さんはただオレが可哀相なだけ。
心の隙間が埋まらない。
感じ方も違う。
満足はした。だけど──。
畑中さんは、オレの胸に手を伸ばして抱いていてくれた。
落ち着きはするが、オレは天井を眺めていた。
「なかなか巧いな。キミは」
「ありがとうございます」
「今まで出会った男の中で一番良かった」
「またまたぁ」
「たまにしてみるか」
「そっすね」
畑中さんの提案にただ返答した。
セフレ。最初の恋人にしたいという気持ちはどこに行ってしまったのだろう。
なぜか畑中さんとはそれでいいという気持ち。
特段、恋人にはなれないだろう。ならなくてもいい。
そんな気持ちだった。
麗の思いは捨てきれなかった。
麗への思い。
あの可愛らしい、オレだけの子猫。
心の中に住み着いてる。
小さく愛らしく鳴いている。
だがやはり思い出す。
寝取られた感覚。ただの過去の映像なはずなのに、形に残っているのだから。
今より若い麗が、たくさんの男に責め苦を味わわされている。
顔が麗でなければ興奮するシチュエーション。
それが麗ではダメだ。ダメなんだ。
甘い顔つき。苦悶の表情。絶頂の至り。
それは演技なのだと分かるが無理。
もう無理なんだ。
そんなことを思いながら天井を見つめていた。
ふと、胸の上に冷たい感触。
見ると、ガラスの灰皿が置かれ畑中さんが細長いメンソールの紙タバコに火を付けていた。
「な、なにしてるっスか?」
「動くなよ。いいから考え事してろ」
「は、はぁ……」
胸の上の灰皿に灰を落とされる。
今までなかった経験。タバコに興味はなかったが、旨そうに吸うなぁと思いながら見ていた。
甘いタバコの香り。畑中さんの顔を見ているとなぜか落ち着くように感じた。
「旨いもんスか?」
「そうだな」
「へー」
「興味出て来たようだな」
「は、はい」
畑中さんは手のひらの上でタバコを回し、吸い口をこちらへ向けた。
なぜかドキリとする。
この全てを許した後の、タバコの吸い合い。
それもそれで、気持ちが高揚することを感じた。
「お大尽。一服のみなんし」
突然、訳の分からない言葉。
昔の花魁みたいだ。
目線やイントネーションも、それらしく装っているようだった。
「ど、ど、どう言う意味ッスか?」
「お金持ちの旦那さん。タバコひと吸いいかがですかってことだよ」
オレはタバコを受け取って、首だけ上げて畑中さんを見ながらタバコを吸い込んだ。
「へー。スーッとするっす」
「だろ? メンソールだからな」
「気持ちが落ち着くッス」
「そうか。そのまま吸ってしまっていいぞ」
畑中さんはもう一本に火を付ける。
二人でそのままタバコを吹かし合った。
「さっきの言葉、なんかのセリフッスか?」
「そうだ。落語の紺屋(こうや)高尾と言う話に出てくる」
「へー。落語好きなんですね」
「まあな」
「どんな話ですか?」
「そうだな。高尾太夫は遊女のトップ。今で言う風俗嬢のナンバーワンだ。それを、染物屋の奉公人が一目惚れして、会いたいために一生懸命金を貯めるんだ。それに感動した高尾は彼の元に嫁いで幸せな結婚をするって話だ」
「え……?」
「まぁ今では考えられないが、貧乏な家庭に生まれると吉原っていう風俗街に売られてしまう女子がいたんだ。男の相手をして借金を返していく。彼女たちの夢は結婚だったんだな。もちろん男を手練手管でたらしこみ、金を出させるだけ出させたものも大勢いただろうがな」
「へぇ……」
「高尾太夫は遊女の中でも最高位だ。相手をするのは大名やお侍、豪商だな。だから教養も深いし、夜のテクニックも凄い。売れる女ってのはそういうもんだってことだ。だけど高尾太夫は三年間も自分のために誠実に金を貯め続けてくれた男に心を打たれたんだ」
「金……。どのくらいッスか?」
「たしか10両だったな。今でいう100万円くらいか」
「え? 一晩100万スか?」
「今じゃ考えられないが、そういう遊びがあったんだ」
「へぇ……」
「彼女は契約期間が終わると男の元に自ら赴いた。結婚してくださいってな。なんとも感動的なラブストーリーじゃないか」
「でも、あの~」
「でも? なんだ」
「男はそんな経歴の女性が気にならなかったんですかね?」
「なんだ。キミは女子は処女じゃないといけないという口か?」
「いえまさか。だって風俗の人だったんでしょ?」
「そりゃそうだ。だが男は待ったんだよ」
「いや~。でも他の男とそういうところをしてるのを見たら恋も冷めるでしょ」
「見たらな。実際、キミが他の女とキスしているところを見たら私だって腹が立つと思うよ」
「え?」
「好きな気持ちはあるからな。付き合わないだけで」
「そッスか……」
畑中さんの気持ちは分かって少し嬉しい。
それに、やっぱり畑中さんも、好きな人が他の男と絡んでいたら腹が立つんだな。
いつもクールな彼女からは考えられない。
怒るとき、どうなるんだろう。
彼女に誘われるままもう一度。
互いに同時に果て合い、激しく息をしながらベッドの上に倒れ込んだ。
「やはりいい。偶然の産物じゃなかったんだな。キミは巧いよ」
「マジすか。あざーす」
「さて。明日も仕事だな。どうする?」
「畑中さんは?」
「もちろん。タクシーで帰るよ。キミも帰るならタクシーチケット出すぞ。会社から出されたのたまってるんだ」
「マジすか。いただきます」
休憩二時間。夜の二時にホテルを出てタクシーで部屋に帰る。
街の灯りはほとんど消えて、寝静まっている。
部屋に帰り、麗の姿を探すがもちろんない。
あったからどうだというのだ。
オレはすぐさま服を脱ぎ、広すぎるダブルベッドに倒れ込んで眠りについた。
入りざま、畑中さんの唇を奪う。
麗とは違う唇。
これから始まることに気持ちが高揚する。
さり気なくシャワールームに入る畑中さん。
少し落ち着かず、部屋の中を見渡した。
何もかもが勝手が違う。
彼女を待つ間、興奮だけが押し寄せる。
彼女がシャワールームから出て来た。
次はオレが入る。すでに臨戦態勢。
今すぐ畑中さんを抱きたくて、急いで丁寧に洗い下着だけでシャワールームから飛び出した。
ベットに腰を下ろしてスマホを見ている畑中さんへ近づき手を取ってそこに立たせた。
そして、自分の胸に抱き寄せる。
麗より少し高めの背。
自分の生涯で二人目の女性。
──麗を忘れるための。
新しい恋をすれば忘れられる。
あの大好きだった麗を。
今から胸の下に麗以外の女性を置く。
麗が今までオレ以外の男にそうされていたように。
なぜこれが大事なことなんだろう。
愛する人以外に許していけない行為。
麗は何のためにそうしていたんだ?
それがなぜ言えない。
後ろめたいからだろう。
クソ。思い出してしまう。
あの映像。それに胸が冷える。
今から畑中さんを抱くのに。
抱きしめるのに。
「畑中さん。オレ、全力で畑中さんを愛します!」
「愛す? 便利な言葉だな」
「え?」
「ただ抱きたいだけだろ?」
「違いますよ。オレ、畑中さんを本気で……」
「どうでもいいけど? さっさと男の顔になれよ」
「は、はい」
そのまま彼女の服を脱がせ、腕に抱えてベッドイン。
後は言葉通りだ。
全力で彼女を抱いた。
全力で彼女を──。
しかしこんなものか。
愛のないセックス。
オレは麗のスペアを探してるだけ。
畑中さんはただオレが可哀相なだけ。
心の隙間が埋まらない。
感じ方も違う。
満足はした。だけど──。
畑中さんは、オレの胸に手を伸ばして抱いていてくれた。
落ち着きはするが、オレは天井を眺めていた。
「なかなか巧いな。キミは」
「ありがとうございます」
「今まで出会った男の中で一番良かった」
「またまたぁ」
「たまにしてみるか」
「そっすね」
畑中さんの提案にただ返答した。
セフレ。最初の恋人にしたいという気持ちはどこに行ってしまったのだろう。
なぜか畑中さんとはそれでいいという気持ち。
特段、恋人にはなれないだろう。ならなくてもいい。
そんな気持ちだった。
麗の思いは捨てきれなかった。
麗への思い。
あの可愛らしい、オレだけの子猫。
心の中に住み着いてる。
小さく愛らしく鳴いている。
だがやはり思い出す。
寝取られた感覚。ただの過去の映像なはずなのに、形に残っているのだから。
今より若い麗が、たくさんの男に責め苦を味わわされている。
顔が麗でなければ興奮するシチュエーション。
それが麗ではダメだ。ダメなんだ。
甘い顔つき。苦悶の表情。絶頂の至り。
それは演技なのだと分かるが無理。
もう無理なんだ。
そんなことを思いながら天井を見つめていた。
ふと、胸の上に冷たい感触。
見ると、ガラスの灰皿が置かれ畑中さんが細長いメンソールの紙タバコに火を付けていた。
「な、なにしてるっスか?」
「動くなよ。いいから考え事してろ」
「は、はぁ……」
胸の上の灰皿に灰を落とされる。
今までなかった経験。タバコに興味はなかったが、旨そうに吸うなぁと思いながら見ていた。
甘いタバコの香り。畑中さんの顔を見ているとなぜか落ち着くように感じた。
「旨いもんスか?」
「そうだな」
「へー」
「興味出て来たようだな」
「は、はい」
畑中さんは手のひらの上でタバコを回し、吸い口をこちらへ向けた。
なぜかドキリとする。
この全てを許した後の、タバコの吸い合い。
それもそれで、気持ちが高揚することを感じた。
「お大尽。一服のみなんし」
突然、訳の分からない言葉。
昔の花魁みたいだ。
目線やイントネーションも、それらしく装っているようだった。
「ど、ど、どう言う意味ッスか?」
「お金持ちの旦那さん。タバコひと吸いいかがですかってことだよ」
オレはタバコを受け取って、首だけ上げて畑中さんを見ながらタバコを吸い込んだ。
「へー。スーッとするっす」
「だろ? メンソールだからな」
「気持ちが落ち着くッス」
「そうか。そのまま吸ってしまっていいぞ」
畑中さんはもう一本に火を付ける。
二人でそのままタバコを吹かし合った。
「さっきの言葉、なんかのセリフッスか?」
「そうだ。落語の紺屋(こうや)高尾と言う話に出てくる」
「へー。落語好きなんですね」
「まあな」
「どんな話ですか?」
「そうだな。高尾太夫は遊女のトップ。今で言う風俗嬢のナンバーワンだ。それを、染物屋の奉公人が一目惚れして、会いたいために一生懸命金を貯めるんだ。それに感動した高尾は彼の元に嫁いで幸せな結婚をするって話だ」
「え……?」
「まぁ今では考えられないが、貧乏な家庭に生まれると吉原っていう風俗街に売られてしまう女子がいたんだ。男の相手をして借金を返していく。彼女たちの夢は結婚だったんだな。もちろん男を手練手管でたらしこみ、金を出させるだけ出させたものも大勢いただろうがな」
「へぇ……」
「高尾太夫は遊女の中でも最高位だ。相手をするのは大名やお侍、豪商だな。だから教養も深いし、夜のテクニックも凄い。売れる女ってのはそういうもんだってことだ。だけど高尾太夫は三年間も自分のために誠実に金を貯め続けてくれた男に心を打たれたんだ」
「金……。どのくらいッスか?」
「たしか10両だったな。今でいう100万円くらいか」
「え? 一晩100万スか?」
「今じゃ考えられないが、そういう遊びがあったんだ」
「へぇ……」
「彼女は契約期間が終わると男の元に自ら赴いた。結婚してくださいってな。なんとも感動的なラブストーリーじゃないか」
「でも、あの~」
「でも? なんだ」
「男はそんな経歴の女性が気にならなかったんですかね?」
「なんだ。キミは女子は処女じゃないといけないという口か?」
「いえまさか。だって風俗の人だったんでしょ?」
「そりゃそうだ。だが男は待ったんだよ」
「いや~。でも他の男とそういうところをしてるのを見たら恋も冷めるでしょ」
「見たらな。実際、キミが他の女とキスしているところを見たら私だって腹が立つと思うよ」
「え?」
「好きな気持ちはあるからな。付き合わないだけで」
「そッスか……」
畑中さんの気持ちは分かって少し嬉しい。
それに、やっぱり畑中さんも、好きな人が他の男と絡んでいたら腹が立つんだな。
いつもクールな彼女からは考えられない。
怒るとき、どうなるんだろう。
彼女に誘われるままもう一度。
互いに同時に果て合い、激しく息をしながらベッドの上に倒れ込んだ。
「やはりいい。偶然の産物じゃなかったんだな。キミは巧いよ」
「マジすか。あざーす」
「さて。明日も仕事だな。どうする?」
「畑中さんは?」
「もちろん。タクシーで帰るよ。キミも帰るならタクシーチケット出すぞ。会社から出されたのたまってるんだ」
「マジすか。いただきます」
休憩二時間。夜の二時にホテルを出てタクシーで部屋に帰る。
街の灯りはほとんど消えて、寝静まっている。
部屋に帰り、麗の姿を探すがもちろんない。
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オレはすぐさま服を脱ぎ、広すぎるダブルベッドに倒れ込んで眠りについた。
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