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第31話 猫に戻る
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麗との帰り道。何も会話は無かった。
電車に乗り、部屋までつく間、何も──。
部屋につくなり、麗はオレの胸に抱きすがった。
顔は下を向いたまま。
オレはそんな麗の頭を撫でることもなく、背中に腕を回すことなく、両腕を垂らしたまま。
麗は抱き付く腕の力を強めたが、オレがそれを返すことはなかった。
あのパッケージ──。
中の内容は見ていない。
だが、要所要所のコマの写真でどんなことをされていたのか想像がついた。
複数の男に囲まれ、そいつらにヒドいことをされる内容だ。
女性の尊厳を徹底的になくしてしまう。
そんな中身であったと想像がついた。
麗の過去。
だいたいは想定していた。
夜のテクニックも凄いし。
若い頃、彼氏に教えられたか、そう言う商売をしていたのだろうと。
しかし、あんな風に写真で見てしまうと、キツい。
あれは過去のことなのに、麗への気持ちが怒りとも哀しみともつかない感情が沸く。
アダルトDVD。
彼の話では、当時は有名な女優。
18歳? 今から一年前? それとも年齢を偽ってもっと若い頃なのだろうか?
「レイ。皆野水都はレイなの?」
麗の動きが止まる。あんなに似ていても、違うことだってあり得る。しかし、違うならば会場を出る必要はない。
心の中では違うことを願っている。
しかし現実的にあれは麗だと思う。
麗は小さくつぶやいた。
「そう……」
「……チィッ」
オレの小さい舌打ちに麗の体が驚いたように震える。
オレは麗を押しのけて、礼装を脱ぎ、脱衣所の洗濯カゴに乱暴に投げ入れた。
それに反応して麗の体が浮いたのが横目に見える。
しかしそれを無視して、足をならしてソファーの上に音を立てて座った。
鼻息が荒い。
オレは怒っているのか?
自分でも分からない感情。
麗のこと、放さないって言ったのに。
どうしていいか分からない。
眉がつり上がっているのがわかる。
これは誰への感情なんだ?
しかし、目に焼き付いている三人を相手取る麗の姿。
モザイク修正された画像にこれほどダメージを受けるなんて。
二人とも何も言えずに一時間。
麗は玄関先に立ち尽くしたままだった。
なんと声をかけていいのか分からない。
しかし。
「なーん」
麗から声が聞こえた。見るとニッコリ微笑んでいる。
オレの好きな顔に。
「なーん。なーん」
しばらく彼女は、見慣れた部屋を見渡していた。
そのうちに、寂しそうに
「……なーん」
と言うと、ドアを開けて出て行ってしまった。
しかし、オレは追えなかった。
なんと声をかけてやっていいか分からない。
アパートの外から、発情期の雌猫が雄猫を呼ぶように「なーん。なーん。なーん」と聞こえていたが、その声はしばらくすると聞こえなくなっていた。
電車に乗り、部屋までつく間、何も──。
部屋につくなり、麗はオレの胸に抱きすがった。
顔は下を向いたまま。
オレはそんな麗の頭を撫でることもなく、背中に腕を回すことなく、両腕を垂らしたまま。
麗は抱き付く腕の力を強めたが、オレがそれを返すことはなかった。
あのパッケージ──。
中の内容は見ていない。
だが、要所要所のコマの写真でどんなことをされていたのか想像がついた。
複数の男に囲まれ、そいつらにヒドいことをされる内容だ。
女性の尊厳を徹底的になくしてしまう。
そんな中身であったと想像がついた。
麗の過去。
だいたいは想定していた。
夜のテクニックも凄いし。
若い頃、彼氏に教えられたか、そう言う商売をしていたのだろうと。
しかし、あんな風に写真で見てしまうと、キツい。
あれは過去のことなのに、麗への気持ちが怒りとも哀しみともつかない感情が沸く。
アダルトDVD。
彼の話では、当時は有名な女優。
18歳? 今から一年前? それとも年齢を偽ってもっと若い頃なのだろうか?
「レイ。皆野水都はレイなの?」
麗の動きが止まる。あんなに似ていても、違うことだってあり得る。しかし、違うならば会場を出る必要はない。
心の中では違うことを願っている。
しかし現実的にあれは麗だと思う。
麗は小さくつぶやいた。
「そう……」
「……チィッ」
オレの小さい舌打ちに麗の体が驚いたように震える。
オレは麗を押しのけて、礼装を脱ぎ、脱衣所の洗濯カゴに乱暴に投げ入れた。
それに反応して麗の体が浮いたのが横目に見える。
しかしそれを無視して、足をならしてソファーの上に音を立てて座った。
鼻息が荒い。
オレは怒っているのか?
自分でも分からない感情。
麗のこと、放さないって言ったのに。
どうしていいか分からない。
眉がつり上がっているのがわかる。
これは誰への感情なんだ?
しかし、目に焼き付いている三人を相手取る麗の姿。
モザイク修正された画像にこれほどダメージを受けるなんて。
二人とも何も言えずに一時間。
麗は玄関先に立ち尽くしたままだった。
なんと声をかけていいのか分からない。
しかし。
「なーん」
麗から声が聞こえた。見るとニッコリ微笑んでいる。
オレの好きな顔に。
「なーん。なーん」
しばらく彼女は、見慣れた部屋を見渡していた。
そのうちに、寂しそうに
「……なーん」
と言うと、ドアを開けて出て行ってしまった。
しかし、オレは追えなかった。
なんと声をかけてやっていいか分からない。
アパートの外から、発情期の雌猫が雄猫を呼ぶように「なーん。なーん。なーん」と聞こえていたが、その声はしばらくすると聞こえなくなっていた。
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