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第30話 あばかれた過去

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そして真司と蛍の結婚式の日がやって来た。
オレは式場に向かう前に、鏡に向かい鼻歌まじりで新しく買ったジャケットを羽織っていた。

「なんかすごく楽しそう」
「そらそうだろ。親友の結婚式なんだから」

麗はオレの手を取って自分の胸にくっつけた。

「おい。なんだよ」
「ねぇ。行く前にしようよ」

「バカ。せっかく髪だってセットしたのに。帰って来てからな」
「ふーん。これでも」

でた。麗の技。二本の腕で器用に感じる場所を触ってくる。
あっという間にその気になったが、手を振り払った。
だが、そんな防御もむなしく、次の手がくる。

「は、はへぇ……。らめてェ。だめェ」
「ほらほら。口ではそう言っててももうこっちは~」

「バカ!」

すでにベッドに倒されていたオレは、麗を押しのけて立ち上がる。
急いでヘアスタイルを直すと、ご祝儀袋を持って玄関に向かった。
それに麗は口を尖らせて付いてくる。

「なんだよ。なに怒ってんの?」
「ねぇタイちゃん早く帰って来てよね」

「なんでだよ。二次会もあるし」
「やだ」

「久々なんだからいいだろ?」
「やだもーん」

「聞き分けないなぁ」

珍しい束縛。しかしピンときた。

「麗、さすがにもう蛍のことはなんとも思ってないよ。オレには大好きな麗がいる。愛してるのは麗だけなんだよ。だから今日くらいいいだろ?」
「……キレイなんだろうな~。お嫁さんは」

「おいおい。お前ももうじきなるだろ」

そう言うと、尖った口も和らいで行き、口を大きく弓の形にして嬉しそうにべたべたしてきた。

「もう。タイちゃんたらぁ」
「ふふ。たんじゅーん」

「ねぇ。二次会にお迎えにいく」
「なんだよ。来ないって行ってたのに。人多いぞ? まぁ、麗が来てくれた方がオレも嬉しいけど」

「ホント?」
「ホントだよ」

この美人な麗を見せびらかしたいのは男として本懐だ。
二次会場にいるどんな女よりもきれいなんだぞ~。って感じで。

オレがニヤニヤしていると、玄関先に引っ掛けてあった買ったばかりの帽子を深くかぶった。

「似合う? これかぶってオシャレして行くね!」
「え、に、似合うけど……」

それじゃ、大事なお顔がみえなぁ~い。

「けど、何。可愛いでしょこの帽子。気に入ってるの」
「ふーん。オーケーオーケー。じゃ、近くに着いたら連絡しろよ」

「うん」
「行って来まーす」


オレは電車に揺られて式場へ。
久しぶりの高校の友人。そして新郎の真司。新婦の蛍と空き時間に雑談。


やがて式が始まり、無事に終わった。


二次会が始まる少し前に、麗も到着した。
あの帽子を深く被って良く見ないと顔が見えない。
まぁ仕方ないかと思いながら一緒に二次会に参加し、高校の友人たちに交じってソファに並んで座った。

真司の専門学校の頃の連中が主導する、二次会はめちゃくちゃ盛り上がった。
麗はビンゴゲームで、夜のジョークグッズを当ててからかわれていた。
いわゆる張り型というやつだ。男性自身の形をしている。

「すげぇな。今度使ってみるか?」
「やだ。やらしいね。タイちゃん」

「なんだよ。いつからレイはそんな真面目になっちゃったの?」
「バカ。人がいるんだよ?」

「にゃーん」
「やーだ」

最近、麗は「なー」と鳴かなくなった。
麗は猫を辞めたのだ。
それはいいんだけど、少し寂しい。

ビンゴが盛り上がる。
そのうちに、オレに主催者賞が当たる。
何が貰えるのかウキウキしながら前に行くと、主催者が肩を組んできた。

「私の長年の恋人だったDVDを差し上げまーす」

それはピンク色のパッケージ。
一目でメジャーな映画ではないと分かる。
すでに封は切られており、本当に彼の私物だったことが分かった。
会場がどっと沸く。「いいなー」と言う声も聞こえる。

だがオレは一人固まる。完全なる時間の停止。
パッケージを食い入るように見つめながら脂汗をかいていた。

主演女優の名前は「皆野(みなの) 水都(みなと)」。
年齢は18歳。

それは麗と同じ顔。口元のホクロの位置も同じ。髪型は短いのが違うところではある。
それがパッケージの上だけでも複数の男に責め苦を受けて苦悶の表情を浮かべている。
込み上げてくる呑酸。
オレ以外の男に抱かれる麗。

間違いない。間違いようがない。
須藤麗と皆野水都は同一人物だ。

麗の方に少しずつ首を動かして見てみると、彼女はイスの上で小さく震えていた。

「いいでしょう。人気な女優さんでしたよ。今は引退しちゃったけど。彼女とご一緒に見て下さいよ。水都ちゃん凄テク、勉強になりますよ」
「い、いや……」

「何ですか。暗いですね。まさか、そう言うことしない、セックスレスなお二人だったとか?」

会場の全員が麗の方へ顔を向けて大きく沸く。
麗はさり気なく立ち上がり、会場から出ようとしたが、主催者に腕をつかまれ止められた。

「ありゃ、彼女さん。おトイレ? あれ……?」

主催者は伏せる麗の顔の口元にホクロを見つけて無理やりに覗き込んだ。

「水都ちゃん……?」

麗は顔を背けた。
しかし、オレは何も言えない。固まったままだ。
麗はオレの手から力強くDVDを取り上げると、主催者に返し、そのまま俺の手を引いて会場から出た。

最悪だ。会場の全ての出席者に分かってしまったシチュエーションとなった。
真司にも、蛍にも、昔の同級生たちにも。
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