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第14話 終わり?

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可愛い麗。
彼女はオレに合わせてくれる。
多少猫のような気まぐれはあるものの、部屋に居る間はずっと抱き付いていてわがままを言わない。

「レイー?」
「なー」

「コンビニ行くか」
「なーん。行く」

近場のコンビニに手を繋いで行く。
麗はほとんど部屋を出ないが、オレと一緒なら近所のコンビニやスーパーは行く。
行くまではなかなか起き上がらなかったりするが、来るのは好きなようだ。

「お菓子と、菓子パンも。シリアルも食べたいなぁ。プリンとヨーグルトとゼリーも」
「ゼリーは高いよ。我慢しなさい」

「なーん……」

好きなものを何でも買って貰えると思っている。
叱られるとしょんぼりして、傘立ての横で拗ねている。
そんな姿がまたたまらなく愛おしい。
レジで支払いを済ませ、麗に近づくと彼女は一声。

「……なー」

と言った。それから部屋に向かうが何も話そうとしない。
いつも手を繋いだり、腕を組んだりするのにそれもない。
様子が変だった。

「どうかした?」

聞いても、横に首を振るだけ。
部屋に帰ると、そそくさと背を向けてソファーに寝転んでしまった。いつもは、買ったものを冷蔵庫にしまうのは麗の仕事。
それをせずに。
明らかにおかしい。冷蔵庫に食材をしまいながら問いかけた。

「レーイ?」
「…………」

無意識に怒らせてしまったのだろうか?
ゼリーでだろうか?

……それともオレ、気付かずに蛍の話とかしたかなぁ?
いや、それはないぞ。
そもそも、傘立ての横に立ってる麗に近づいたときに様子が変わったんだから。

ちょっと、探りを入れてみるか。

「テレビ見よーかなー?」

リモコンに手を伸ばして電源をオン。
麗の横に腰を下ろすか下ろさないかのうちに麗は立ち上がって寝室に行ってしまった。
いつもなら……。

「なーん。タイちゃんが来てくれたー。ゴロナンゴロナン」

って言ってくるのに。
マジで怒ってるのかな?
オレはテレビの電源を切り、麗の元へ急いだ。
そして、その背中に抱き付く。

「どうしたの?」
「…………」

「具合悪いの?」
「…………」

「もしかして、怒ってる?」
「…………」

「ねぇ。レーイちゃん」
「うるさいな!」

麗は跳ね起きると、オレのことをクッションで何度も叩いてきた。
クッションだから痛くはないが、いつもの怒り方ではないので防御しつつ固まってしまった。

「もう嫌。一人で寝る」

そう言うと麗はクッションとタオルケットを持ってリビングのソファーの上に寝転んでしまった。
原因が分からないから調査のしようがない。

何でだよ。オレが何したって言うんだよ。
ビビりのオレは胸をドキドキさせながらその日は寝るしかなかった。

次の日、目を覚まして出勤準備をしても、麗はソファーの上から動こうとはしなかった。
会社に行っている間に出て行ってしまったらどうしよう。

「レーイ。テーブルの上に二千円置きまーす。ちゃんとご飯食べるんだぞー」

しかし麗はこちらに顔を向けずに寝たふりをしているようだった。
……何だろう。この二人の生活が終わってしまう感。
些細なことで破綻なんて聞いたことがあるけど、意味が分からないのはいやだ。




「何でだと思います?」
「ふむう。状況がそれだけだと分かりづらいな」

オレは休憩時間に、上司の畑中さんに相談していた。
同棲中の19の女の子の突然の無視。
同じ女性として意見を聞きたかったのだ。

「普段から怒るような子ではないんだよな」
「たまに訳の分からないことで突発的に怒ることもありますが、すぐに元に戻るんで……」

「ふーむ」
「分からないですよね~」

畑中さんの眼鏡の奥が妖しく光る。そして、一つの策を授けてくれた。そんな大層な話ではないが。

部屋に帰ると麗は朝と同じ体勢だった。
しかし靴があったこと。いることにホッとした。
こちらに背中を向けていると言うことは形のよいお尻がこちらを向いていると言うこと。オレはそれに触れた。
だが無言で薙ぎ払われる。

「マジないから」
「ずっとそのままだったの? 二千円も触ってないみたいだし」

「…………」

黙っている麗の顔に紙袋を押し当てた。
麗はそれをうざったく払おうとする。

「ナプキンかタンポンか分からないから、いくつか種類買ってきた。不要なのは返品してくるよ。あと頭痛薬。生理、重いのか?」

麗はそれをむしり取ると、トイレに駆け込んだ。
水流の音が数度聞こえる。
そのうちに、吐息と共にお腹を押さえた麗が出て来た。

「なーん。ゴメンね」
「やっぱり生理かよ。言ってくれればすぐに買ったのに」

「だって、恥ずかしかったし、怖かった」
「どうして怖いの?」

「それは……」
「うん」

「エッチ出来ないレイなんて、魅力ないでしょ?」
「バカ」

麗は飛び付いてきた。なんて可愛い。
いつものように胸の上で甘えている。

「どうしてたの? 生理用品もないのに」
「ティッシュ当ててた」

「バカ。服汚れたら大変だろ?」
「うん。シャワーも浴びてた」

「お金置いてったのに」
「だって、レイがガマンすればいいと思って」

「なんて可愛いお馬鹿さんなんだろう」

オレはレイを強く抱いた。
つまり、レイは突然生理が来てパニクっただけだった。
悟られないようにしていた。
怒ることで自分を優位にして、生理なら別れる。みたいなことをオレが言い出すのを阻止していたのだ。
木の上に登り高さで優位となる猫のケンカと一緒。
漏れないように必死だったのだろう。
困ったやつだ。これをきっかけにちゃんと言ってくれればいいんだ。

「タイちゃん、生理の間ゴメンね」
「いやいいよ。レイはいつものしてくれるんだろ?」

「なーん。しないよ?」
「な、なんで?」

「生理の時は、タイちゃんは禁欲するの。終わったらたくさん愛し合う。どう?」
「はぁ? ……まぁいいか。しょうがないよなぁ」

オレはレイに抱き付いた。そして耳元でささやく。

「でも、いつものしてくれるんだろ?」
「なーん。ダメ。頭もお腹も痛いの」

シャットアウト。本気でダメらしい。
麗の背中に貼り付いたまま、ため息を漏らした。

「つらいなぁ。はぁ……」

生理は長引かなかったが、その間の禁欲。
つらかった。
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