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第1話 突然の出会い

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東京に出て5年。専門学校からそのまま就職。
パッとしない生活。華がない。
仕事にやりがいを感じるがどうにも人生寂しい。
彼女がいないというのはこんなにも自分に自信が持てないものか?
性格も暗くなる。
話す声も小さい。
23年の人生で未だに付き合ったことがないなんて。

そんなオレの恋物語──。


オレは、その日ファミレスにいた。
友人の真司に女の子を紹介して貰っていたのだ。
だが恋愛経験がないオレはガチガチに緊張し、目の前の彼女の前で、1パーセントの自分も出せないまま無言の時が過ぎる。
真司はそんなオレの代わりに一生懸命話題を振っていてくれていた。

「夢ちゃん、泰志はデザイナーなんだよ。な、泰志」
「う、うん」

「へー。服飾ですか?」
「い、いや」

「じゃなに?」
「……こ、広告とかだっけ?」

「そ、そう」
「ふーん」

「なんか注文しようよ。夢ちゃんお酒飲む?」
「ああ、今日はいいや」

「た、泰志は?」
「こ、コーヒー」

「泰志くんは飲めないの?」
「い、いや」

彼女は話の途中でスマホを取り出した。
タップの回数から、誰かにメッセージを送っているようだった。
退屈丸出し。
そりゃそうだ。こんな言葉が出て来ないなんてつまらないよな。
真司はこんなオレのために一生懸命しゃべってくれたが、彼女は40分ほどいただけでバッグを取って用事があると言って出て行ってしまった。

「はぁ……」

真司は小さくため息をつく。
結果が出ないのは今日だけじゃ無い。
これで四回目。それでも真司は、オレのために女の子を紹介してくれる。
経験がないオレに何とか女子の免疫を付けさせてくれようとしてくれているのだ。

「まぁ、夢ちゃんは無かったかな?」
「そんなこと……」

「いやいや。性格あわなかったな。次を考えよう」
「……いつもゴメン」

「泰志のいいところを知ってくれれば、これほどいい男いないのになぁ」

買いかぶりすぎだ。オレだって人間。
怒るし、ムカつくし、悲しい。
真司と別れ、オレは家路に着いた。
少しヤケ酒したい気持ちもあり、途中の立ち飲み屋で千円ほどビールを飲み、ほろ酔い気分で路地裏を歩いた。

車通りはほとんどなく、車道の真ん中をフラつきながら歩く。
それほど酒に強くないので、少しのビールがきいていたのだ。

ビルの合間から見える満月。
とてもクッキリと見え、美しさに見惚れた。

「キレーだなぁー」

そう言って、視線を下に落とす。
そこには、満月の光を受けて目を黄色く光らせる長髪の美女が一人。髪の行く末、末端の方はウェーブがかかっている。それも、その顔立ちにぴったりと似合っていた。
白いティーシャツに、スリムのジーパン。持ち物は小さなポーチだけ。
そんな彼女は縁石に腰を下ろして、月を見上げていた。
オレは月のことなんて忘れてそれに見入る。
しばらく目を離せないでいたんだ。

すると、彼女はこっちに気付いた。
オレはいつものように顔を赤らめる。
そして、足早に彼女の前を通り過ぎようとした。

「なーん」

神秘的な声。
彼女はひと声猫のように鳴いた。
まるで甘える仔猫。ついそちらに視線を移すとニコリと笑う。
彼女はオレの方に細い手を伸ばした。

「ねぇ引っ張って」
「え?」

見知らぬ美女。年の頃は同じか若いくらい。
それが甘えて手を引いて立たせて欲しいらしい。
緊張してパニクった。
よほどオドオドしていたのであろう。
彼女は伸ばした手とは逆のほうで口を押さえて笑っていた。
その姿も可愛らしく、顔を真っ赤にしながらその手を握った。

「い、い、い、行きますよ」
「うん」

力を入れて引き寄せるが、彼女は意地悪をして腰に重心を置いているようで、こちらが前のめりになった。

「おっと」
「あっはっは」

笑う彼女。からかわれたと思い恥ずかしくなった。

「冗談は……」

やめてください。その次の言葉が出て来ない。
女の子と自分をさらけ出して話すのをしたことがない。
ましてや美女に怒りを見せられなかったのだ。
赤面し、顔をそらしてそのまま。
なにも立ち去ってしまえばいいのに。

「なーん。冗談。ねぇ、もう一回」

彼女は笑顔で腕を伸ばす。
なぜか心の奥では怒っていたのに、負けてしまった。
自分も笑顔になり、彼女の手をもう一度握った。
先ほどの緊張がいくらか和らいでいる。
彼女の手を優しく引いてやると、彼女はオレの胸元に入り込んで抱きついてきた。

「ちょ……!」

ひょっとして、そんな商売の女性?
それとも、路地裏から怖いお兄さんが出てくるのだろうか?
思いとは裏腹に、つい彼女の肩を抱いていた。

初めて抱く女の子の体。
とても柔らかくて心地よい。
体から疲れやストレスが抜けていくような。そんな感じだった。

怖いお兄さんは出て来ない。
彼女を笑顔で抱いたまま。
彼女はオレの胸から顔を上げ、見上げるとニィと笑う。

「にぃ……」

なんて可愛い。例えるなら猫。
猫派のオレは連れて帰って、撫で回したい思いだった。
そんな思いを巡らせていると、スルリとオレの横に立ち、寄りかかるように腕に抱き付いてきた。

「あ、あの!」

言葉が出て来ない。
どうしていいか分からないが、彼女の喉からゴロゴロと音が聞こえるようだ。
余りの可愛らしさについ言ってしまった。

「──オレの部屋に来る?」

言っちまった。軟派な言葉。
会って5分も立たないのに。
自己嫌悪。今まで慎重に生きてきたのに、なんてことを。

「うん。行く。ゴロニャンゴロニャン」

え?
彼女の答えは簡単だった。
まさか、怖いお兄さんが出てくる?
辺りを見回してもそれは感じられない。

オレは彼女を腕にぶら下げたまま、自分の部屋へ向かっていった。
顔は終始ニヤつきながら。
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