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第9話 同じ夢

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淳の心の声は奥の方へと消えてしまった。
これ以上探ることはできない。
気になるがどうすることもできない。聞くわけにもいかない。
だけど、淳もエスパーだということが分かってますます親近感が湧いた。

「うふ」
「ん? どうしたの?」

「そういえば、この前の夢に椎太クン出て来て、スゴく面白かった」

え──。そう言えばオレの夢にも淳が出て来たぞ?
つか、淳つーか、雛川陽のほうだったけど。

「ど、ど、ど、どんな夢?」
「なに慌ててるの? 全然変な夢じゃなかったよ。椎太クンが白馬の王子様で、淳を悪い人から守ってくれるの」

「へー。すげー」

似てる。この前みた夢と。
同じ夢なのかな。あの時は、淳じゃなくて雛川陽だったけど。

「淳もね、メガネもマスクもとってて、お姫様の姿なの。椎太クンとキスしたんだ」

一緒。一緒じゃない。
そしたら、その後ちょっぴりエッチな──。

「椎太クンたら、胸大きいですねって。オレの彼女のはどのくらいかなぁって。彼女って誰?」
「……そ、それはホラ。その時はまだ淳のこと雛川陽だってしらないからだろ」

「わ。ビックリ。そういうことかぁ。でも不思議だね。椎太クンも同じ夢見てたみたい」

見てた。同じ夢。
つーか、これはこういうことなのかも。
淳の夢を見る能力と、オレの心を読む能力が合わさって、寝ている間に互いの夢の中に行き来できた──。
ちょっとこじつけかも知れないけど、科学では解明できないこのオレたちの能力。親密になるにつれ、そんなことが出来るようになっているのかもしれないな。

淳が能力者ということが分かった。
でも打ち明けられたわけじゃないし、教えたがらない理由もわかる。オレだって自分の能力を打ち明けたら、もう淳にキスして貰えないかもしんねぇ。
言うのはまだやめておこう。


そこから他愛のない話。
淳は見ての通り、目が物凄く悪くて、分厚いメガネをしないとほとんど見えないらしい。
コンタクトレンズは体質に合わないので、メガネができないなら見えないそのままですごさなくてはならない。
だから普段は恥ずかしがり屋だが、メガネを外してのグラビア撮影だとスタッフがほぼ見えなかったので、思い切ったポーズがとれ、それで人気があがったとのことだった。
だがこうしてグラビアを眺めてみるとやはり恥ずかしいらしい。

そういうのもあってグラビアの仕事を辞めたくなったというものだ。
それもあるだろう。
しかし、淳の心の中にある言葉。夢に従って──。
それでここにいるんだと思う。
事務所から逃げたことが世間に周知ということはそれも心に留めておくべきだ。

夢。夢。夢。
不思議な能力だ。
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