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第1話 ちょっとだけエスパー

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いじめられっ子のオレ。 照場てれば椎太しいた、17歳。
ヤンキーグループのパシリに甘んじる毎日。
でも本当は秘密がある。
ヒョロガリチビなオレだけど、少しだけ特殊能力があるんだ。

それは人の心が読めること。

と言っても、全部が読めるわけじゃない。
人は心の奥深くに重大な秘密を抱えている。
それは読むことが出来ない。
突発的な気持ちだけ。

今思ったことだけを受け取ることが出来るんだ。
だけど、それは対象者の体に触れたときだけ。

本当に大した能力じゃない。
でも、小さい頃に親戚の思ったことを口に出してしまい気味悪がられた。

だから今はそれを隠している。
隠しながら生きて、全うな人生を送りたい。
素敵な人と恋をして結婚して子どもを三人ぐらい作って生きて行きたい。

何しろオレは人の心を読めるんだから、身に触れさえすれば。
長い人生それをゆっくり探せばいいだけだ。


でも高校入学までそんな人に出会ったことは無い。
そらそうだ。オレは見た目も中身も目立たない存在。
普通、みんなもっと自己アピールをする。
オレはエスパーと知られたくないばっかりに、それをしなかった。と言うのは言い訳か?

高二になったのに完全なる『ぼっち』。友だちと言える人がいない。
いや、ぼっちでもないのか?
オレの周りには、ヤンキー集団。それのパシリをさせられてる。
学食、購買へと使いに出される休み時間。
月曜日には週刊マンガを買わされる。
まぁ、金を出さないだけ他のパシリよりかは幸せかも知れない。

それも、このヤンキー集団のトップである久保田くぼた靖広やすひろがなかなか男気のあるヤツで、パシリではあるものの傘下のオレに対しての義理を通す。金まで出させるなと仲間に厳命しているのだ。
他のヤンキー集団がオレを使おうとしたときには、ソイツらを叩きのめして逆にパシリに使ったぐらい。

ろくなもんじゃない連中に目をつけられたと思ったが、久保田の傘下にいる限りは買い出しをするくらいなので苦労はない。
久保田の手に触れて心を読んでみると、ホントはヤンキーなんてしたくないのだが、ガタイがデカいし短気で喧嘩も強いので祭り上げられてしまった。と言うのが真相らしい。
オレのこともパシリに使いたくはないが、仲間の手前連れて来られたオレを使うしかなかったようだ。

他の連中は面白半分。そして久保田を恐れている。本当の久保田は畏怖されるような人間ではないのに。
久保田の金で買ってきた週刊マンガをみんなで回し読み。
メンバーの一人、吉井の楽しみは週刊マンガについているグラビアアイドルを見ること。マンガすら字を読むのが億劫らしい。

「おー。このグラビアアイドル、いい体のラインしてんなー。どうだ照場」
「そうですね。前にもこの子を誉めてましたよ」

「お前は? 興味あんの?」
「いや余り」

「そうかぁ」

ウソ。ホントは興味ありまくり。このグラドルの雛川ひなかわ ようなんて最高。こんな人を彼女にしたいもんだよな。

「でもこいつおとといのニュースで事務所から逃げたとかいってたよな」
「そしたら引退だな。くっそ~。良い体してんのにな~。グラドル1年で引退か」

そうなんだ。じゃぁ雛川のグラビアはこの週刊マンガで終わりか。
後で自分の分買おうっと。

「ふーん。照場は女子に興味がないのか?」

声をかけてきたのは久保田。いや興味が無いわけじゃない。
今だってグラビア目的にマンガ買おうと思ってたくらい。
そりゃアンタは彼女がいるからいいよ。
進学クラスの冷田ひえた 冴子さえこ
ぽっちゃりしていて美人とは言えないが久保田の幼なじみで、彼の優しさを知る一人だ。
久保田がゾッコンで頭を下げて付き合って貰っていることを知るのは心が読めるオレだけ。

「冴子に誰か紹介して貰うか。お前くらいだろ。メンバーで彼女いないの。誰か、照場に紹介できそうな女知らねぇか?」

みんなどうでも良さそうな顔。オレをメンバーだと思っているのは久保田くらいだからだろう。しかしみんなの態度に短気な久保田は火がついてしまった。

「お前ら、人の心はねぇのかよ! 照場にいつも世話になってる気持ちはねぇのか! 頭に来た。照場の面倒はオレが見る!」

メンバーはみな震えた。久々の久保田激怒。そして暴走。立ち上がって冴子を探しにいったのだろう。
久保田が面倒見るだって?
不安だけが残るんですけど。ほぼ強制で誰かと付き合えっていうんじゃないだろうな。
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