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転生の章 結
エピローグ
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「キミ。しっかりしたまえ」
「……う、うん」
周りにたくさんの人間がいる。
なんだ? また棒切れで殴られるのかなぁ……。
「おおい。目を覚ましたぞ!」
ボクはマンホールの横に寝かされていた。体中擦り傷だらけで学生服もボロボロだった。
意味が良く分からず動けない体をおして辺りの様子をうかがった。
たくさんの野次馬に救急車の赤いランプ。
ようやく状況がつかめた。
つまりあの時。
ボクは死んで転生した訳では無かったのだ。
転生する思いが強すぎて、気絶している間に見た邯鄲の夢。一炊の夢だ。
チャブチはボクの幻想の産物に過ぎなかったのだ。
ボクは救急車に乗せられ入院した。
知らせを聞いた両親は病室に駆け込んできた。
また怒られる。ボーッとして人様に迷惑かけたな。と叱られるに違いない。
夢の中でも叔父や義父、コボルド族の戦士たちに怒られ、ボクって怒られるのがスキルなのかしらんと思ったが、まったく逆だった。
「よかった……。ああよかった! 心配したぞ!」
「ホントに……。でもその程度でよかったね。タカシ……」
そう言われてボクは拍子抜けした。
そして涙がポロリとこぼれた。
親は親だった。ユキのように。
この人たちの残して先立ち、転生したいなどとバカさ加減に腹が立った。
「ボク……。ボク……。ぼうっとしていて……。ゴメンナサイ……。バカでゴメンナサイ。期待に答えられなくてゴメンナサイ。そして、また病院代までかけてしまって……」
泣きながら言うと、父はボクの頬を軽く小突いて抱きしめてくれた。
「バカ! 子供なんだから、親に何度でも心配かけろ! 迷惑かけろ! それがお前の経験にもなるんだから」
そう言って一緒に泣いてくれた。
ボクの中にあったかいものがこみ上げて、ボクも泣いてしまった。そして母も謝った。
「しばらく塾に行けないよね。ゴメンね。無駄にお金はらわせてホントにゴメン……」
そう言うボクに母も抱きついてきた。
「親子じゃないの……」
コボルドの時に母だったユキと同じようなことを言った。
その時、ボクの中であの夢の中と現実が少しだけリンクした気持ちになったんだ。
入院中、ボクはベッドに寝転び自分の手のひらを見ていた。
肉球もない。毛むくじゃらでもない肌色の手。
やっぱり夢だった。
邯鄲の枕、一炊の夢。
マンホールに落ちて気絶して、転生したと思い込んだだけ。
女好きで夢の中で一族を崩壊させそうになった男。
ボクは転生ってそんなもんだと思ってた。
魔物だしハーレムだって許されると思ってた。
でもさ、彼らはボクたち人間以上の秩序を持っていた。
誇りを持っていた。
楽しい結婚生活で、楽しい国づくりだった。
それをボクは自分自身で破壊してしまおうとしていたんだ。
「はぁー……。人間が蔑まれるのも分かる気がするってボクのことか。はぁ~」
クソ。チャブチはすごいよ。
かっこいい。やっぱり将軍の息子だったよ。
憧れちゃうな。彼に。
彼のようになりたい。彼のように生きたいよ。
できれば……。できれば、ピンクに会って謝りたいなぁ。
あの時のチャブチはボクだったんですよって。
退院してしばらくして学校に復帰したが、ボクは相変わらず落ちこぼれの「のび犬」のまま。
勉強もできない、運動もできない。友だちもいない。
そんな中、志望していた公立の三流高校は不合格。
滑り止めの私立高校に入学した。周りはガラが悪い方ばっかり。
ある下校のとき、通学路の脇にそれた路地。
人がこない寂しいところでウチの生徒に囲まれている別の高校の女の子がいた。
「なぁ、付き合えって」
「ヤメて下さい……」
「ひょーカワイイ声」
みんな見てない振りてして通り過ぎてしまう。
ボクだって。いつも通り下を向いて足早に通り過ぎようとした。
「弱いものも助けず見て見ぬ振りかね。これは教育を誤ったわ」
……え!?
思わず辺りを見回した。
叔父のゴールドの声だ……。
だが当然その姿はなく、見回しているうちに、かえって彼女を囲んでいるウチの生徒の一人と目が合ってしまった。
その目が面白そうに笑う。
やばい!
しかし、耳元で声がする。
左肩に温かく手が添えられているように感じた。
「チャブチ。義を見てせざるは勇無きなりだ。義とは我々が守らねばならぬこと! 勇とは行動力のこと! 秩序を守るために行動せよ!」
途端に勇気が湧いてきた。
そうだよ。叔父上。
思い出す叔父との剣術の日々。
夢とは言え、経験した。
人間の勇者たちとの決闘だってボクがしたんだ!
ボクは彼らを見据えた。
「よさないか。キミたち」
言ってしまった。ギャラリーも思わず立ち止まる。
すると、そいつらは真っ赤な顔をして近づいてきた。
しょぼくれて弱そうなボクに言われるのは腹が立つのであろう。
「おい、なんつった?」
こっちへ来た。
ガラが悪い彼らはゾロゾロとボクを囲んで逃げられないようにした。
「こいつビビってるよ。唇プルプル震えてんじゃん」
「何考えてんだ? 中二病か? 頭おかしいんか?」
「アムスタラグ!」
ボクはつい声に出して攻撃力を高める魔法を口にしてしまった。そいつらはふーっとため息をついた。
明らかにバカにしてる感じだった。
「なに言ってんだコイツ。こういう自分にない力をあると思ってるバカ見てるとムカっ腹立ってくんだよな。なんだよ今の。ゲームの火が出る呪文かなんかか? は! オイ。見張ってろ」
そう言って腕を捕まれて路地に引き込まれた。
一人が路地の入り口に見張りに行った。
そいつはボクシングの構えをして、小さく二三度そこで跳躍すると、手を振り上げて殴り掛かってきたので、とっさに腕で払いのけた。
「いたぁ!」
腕を抱えて泣きそうな顔になっている。
それを見て他の奴らも引いた顔をしていた。
「な、なんだ? こいつの腕……鉄かよ」
そう言って、仲間をまとめてスゴスゴと去って行った。
ウソだろ? 魔法なんて……。
すぐに回復の魔法を自分にかけてみたが、あの時のような爽快感が駆け巡らない。
今の一度きりだったのかも知れない。
肩にずっしりとして優しくそえられる片手の感触がする。
「それでいい。それがお前の生きる理だ。忘れるな。ワシは常にそばにいる」
お、お、叔父上……。
ボクは叔父を探そうとしたら、今度は彼女と目が合った。
そうだ。彼女を助けたんだっけ。
こういう時は何て言うんだっけ?
「だ、大丈夫ですか?」
平凡。そして声を震えている。カッコ付けて平静を装ったけど、ビビってたんだ。だが彼女はニッコリと笑った。
「ありがとう!」
嬉しそうに言ったその顔は、少しだけピンクに似ていた。
「……う、うん」
周りにたくさんの人間がいる。
なんだ? また棒切れで殴られるのかなぁ……。
「おおい。目を覚ましたぞ!」
ボクはマンホールの横に寝かされていた。体中擦り傷だらけで学生服もボロボロだった。
意味が良く分からず動けない体をおして辺りの様子をうかがった。
たくさんの野次馬に救急車の赤いランプ。
ようやく状況がつかめた。
つまりあの時。
ボクは死んで転生した訳では無かったのだ。
転生する思いが強すぎて、気絶している間に見た邯鄲の夢。一炊の夢だ。
チャブチはボクの幻想の産物に過ぎなかったのだ。
ボクは救急車に乗せられ入院した。
知らせを聞いた両親は病室に駆け込んできた。
また怒られる。ボーッとして人様に迷惑かけたな。と叱られるに違いない。
夢の中でも叔父や義父、コボルド族の戦士たちに怒られ、ボクって怒られるのがスキルなのかしらんと思ったが、まったく逆だった。
「よかった……。ああよかった! 心配したぞ!」
「ホントに……。でもその程度でよかったね。タカシ……」
そう言われてボクは拍子抜けした。
そして涙がポロリとこぼれた。
親は親だった。ユキのように。
この人たちの残して先立ち、転生したいなどとバカさ加減に腹が立った。
「ボク……。ボク……。ぼうっとしていて……。ゴメンナサイ……。バカでゴメンナサイ。期待に答えられなくてゴメンナサイ。そして、また病院代までかけてしまって……」
泣きながら言うと、父はボクの頬を軽く小突いて抱きしめてくれた。
「バカ! 子供なんだから、親に何度でも心配かけろ! 迷惑かけろ! それがお前の経験にもなるんだから」
そう言って一緒に泣いてくれた。
ボクの中にあったかいものがこみ上げて、ボクも泣いてしまった。そして母も謝った。
「しばらく塾に行けないよね。ゴメンね。無駄にお金はらわせてホントにゴメン……」
そう言うボクに母も抱きついてきた。
「親子じゃないの……」
コボルドの時に母だったユキと同じようなことを言った。
その時、ボクの中であの夢の中と現実が少しだけリンクした気持ちになったんだ。
入院中、ボクはベッドに寝転び自分の手のひらを見ていた。
肉球もない。毛むくじゃらでもない肌色の手。
やっぱり夢だった。
邯鄲の枕、一炊の夢。
マンホールに落ちて気絶して、転生したと思い込んだだけ。
女好きで夢の中で一族を崩壊させそうになった男。
ボクは転生ってそんなもんだと思ってた。
魔物だしハーレムだって許されると思ってた。
でもさ、彼らはボクたち人間以上の秩序を持っていた。
誇りを持っていた。
楽しい結婚生活で、楽しい国づくりだった。
それをボクは自分自身で破壊してしまおうとしていたんだ。
「はぁー……。人間が蔑まれるのも分かる気がするってボクのことか。はぁ~」
クソ。チャブチはすごいよ。
かっこいい。やっぱり将軍の息子だったよ。
憧れちゃうな。彼に。
彼のようになりたい。彼のように生きたいよ。
できれば……。できれば、ピンクに会って謝りたいなぁ。
あの時のチャブチはボクだったんですよって。
退院してしばらくして学校に復帰したが、ボクは相変わらず落ちこぼれの「のび犬」のまま。
勉強もできない、運動もできない。友だちもいない。
そんな中、志望していた公立の三流高校は不合格。
滑り止めの私立高校に入学した。周りはガラが悪い方ばっかり。
ある下校のとき、通学路の脇にそれた路地。
人がこない寂しいところでウチの生徒に囲まれている別の高校の女の子がいた。
「なぁ、付き合えって」
「ヤメて下さい……」
「ひょーカワイイ声」
みんな見てない振りてして通り過ぎてしまう。
ボクだって。いつも通り下を向いて足早に通り過ぎようとした。
「弱いものも助けず見て見ぬ振りかね。これは教育を誤ったわ」
……え!?
思わず辺りを見回した。
叔父のゴールドの声だ……。
だが当然その姿はなく、見回しているうちに、かえって彼女を囲んでいるウチの生徒の一人と目が合ってしまった。
その目が面白そうに笑う。
やばい!
しかし、耳元で声がする。
左肩に温かく手が添えられているように感じた。
「チャブチ。義を見てせざるは勇無きなりだ。義とは我々が守らねばならぬこと! 勇とは行動力のこと! 秩序を守るために行動せよ!」
途端に勇気が湧いてきた。
そうだよ。叔父上。
思い出す叔父との剣術の日々。
夢とは言え、経験した。
人間の勇者たちとの決闘だってボクがしたんだ!
ボクは彼らを見据えた。
「よさないか。キミたち」
言ってしまった。ギャラリーも思わず立ち止まる。
すると、そいつらは真っ赤な顔をして近づいてきた。
しょぼくれて弱そうなボクに言われるのは腹が立つのであろう。
「おい、なんつった?」
こっちへ来た。
ガラが悪い彼らはゾロゾロとボクを囲んで逃げられないようにした。
「こいつビビってるよ。唇プルプル震えてんじゃん」
「何考えてんだ? 中二病か? 頭おかしいんか?」
「アムスタラグ!」
ボクはつい声に出して攻撃力を高める魔法を口にしてしまった。そいつらはふーっとため息をついた。
明らかにバカにしてる感じだった。
「なに言ってんだコイツ。こういう自分にない力をあると思ってるバカ見てるとムカっ腹立ってくんだよな。なんだよ今の。ゲームの火が出る呪文かなんかか? は! オイ。見張ってろ」
そう言って腕を捕まれて路地に引き込まれた。
一人が路地の入り口に見張りに行った。
そいつはボクシングの構えをして、小さく二三度そこで跳躍すると、手を振り上げて殴り掛かってきたので、とっさに腕で払いのけた。
「いたぁ!」
腕を抱えて泣きそうな顔になっている。
それを見て他の奴らも引いた顔をしていた。
「な、なんだ? こいつの腕……鉄かよ」
そう言って、仲間をまとめてスゴスゴと去って行った。
ウソだろ? 魔法なんて……。
すぐに回復の魔法を自分にかけてみたが、あの時のような爽快感が駆け巡らない。
今の一度きりだったのかも知れない。
肩にずっしりとして優しくそえられる片手の感触がする。
「それでいい。それがお前の生きる理だ。忘れるな。ワシは常にそばにいる」
お、お、叔父上……。
ボクは叔父を探そうとしたら、今度は彼女と目が合った。
そうだ。彼女を助けたんだっけ。
こういう時は何て言うんだっけ?
「だ、大丈夫ですか?」
平凡。そして声を震えている。カッコ付けて平静を装ったけど、ビビってたんだ。だが彼女はニッコリと笑った。
「ありがとう!」
嬉しそうに言ったその顔は、少しだけピンクに似ていた。
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