45 / 47
転生の章 チャブチ篇
第44話 他愛無き雑談
しおりを挟む
チャブチは早朝いつものように叔父の墓の前に手をついて長い時間額を擦り付けていた。
すると、後ろに気配を感じた、立ちながら後ろを振り返ると、そこには幼馴染みの三人が同じように額を擦り付けて拝礼していた。
「お前ら……」
声をかけると、三人は顔を上げ立ち上がった。
「水臭いぞ。チャブチ。自分一人だけいいかっこしいか?」
「全く、知らぬとでも思ったか。この城の中で知らぬものなど誰もいないぞ?」
「ゴールド様が自刃なすったのは何も、お前だけのせいじゃない。チャブチを止めなかった我々にだって少しずつ責任がある。それを自分だけのせいとか買い被り過ぎだろ」
公務でないのでいつもの友人口調だ。三人は手を振り上げて思い切りチャブチの尻を叩くと「いっ!」と言って、チャブチは自分の尻を押さえた。
「……いやぁ。叔父には何度頭を下げても謝り切れん。親の心子知らずなんて言い訳も言わん。今更墓に謝ったところでどうにもならんがな……」
と寂しげに目を下に向けた。そんな彼を友人たちは近づき無言で背中をトントンと叩いた。
見るとみんな微笑んでいた。
「許さないはずがないだろ? 今のチャブチを見たら」
「……そうとも。ゴールド様はお心の広いお方。そんなことも知らんのか?」
やはり心置けない友人は良い。
四人で笑い合った。
ポチが頭の後ろで手を組んだ。
「さて。今日の政務政務。仕事がたくさんある。ボクは城の外の砦二箇所の修繕の見回りだ。帰って女房殿が作った朝食を食わんとな。怒られてしまうわい」
「ふふ。全くだ」
そう言って、みんなで叔父の墓から出ようとした時、チャブチが友人たちを止めた。
「なぁ。今度、非番を合わせてみんなで釣りにいかんか? 故郷の池に良く似たところを見つけたんだよ。昔みたいにタンポポの花の疑似餌で誰が一番大物を釣れるか勝負しよう」
と言うと、みんな膝を叩いて大笑した。
「はっはっはっは。チャブチが勝てるわけなかろう」
「せいぜい、小ブナか小エビがいいとこだ」
そう。チャブチには釣りの腕前がなかった。
それもそのはず。ボクが肉体の主導権を握っていたころ、他の子供たちが遊んでいる間に剣術や戦術の稽古をしていたのだ。
たまに休みでみんなに交じって釣りをしてもよい釣果はなかったのだ。
「ムッ……。ボクの腕前を知らないな? 前にこーんなに大きな魚を逃がした」
たしかに、ボクは叔父と剣術の稽古に出かけた時に、池を見つけて駄々っ子のように転がって釣りがしたいと言ったことがあった。
一族の命運とは関係無しに無邪気に遊んでいるみんながうらやましかったのだ。
叔父はため息をついたが、「子供らしいこともいいことだ」と言って自分の服の糸を解き、貝殻を石で打ち磨いて針を作ってくれた。そして二人でこっそり釣りをしたことがあった。
その時、60cmほどの鯉がかかったが服の糸ではもろくて釣り上げることができなかった。
そんなことを、意識だけの存在であったチャブチも楽しい思い出だったのであろう。
三人の前で自分の両腕を思い切り広げて魚の大きさを自慢した。
だが両腕を広げた幅。それってつまり、チャブチの身長と同じ大きさの三メートルだ。
三人は噴き出してますます笑った。
「まったく! チャブチは信用できん」
「そうとも。またいつか妾騒動をおこすぞ?」
「おうとも。反省した振りをして!」
「いや多分、大木でも呑んでいて重くて上げられなかった……。ホントだって叔父に聞いてみろよ!」
と墓を指しながら戯けて言うと、クロはチャブチを指さした。
「今度は平気でゴールド様の名前までだしてきた。とんでもないヤツだ!」
「お、おい。待てよ」
チャブチは三人の背中を追いかけて行った。
「まぁ、いいじゃないか。酒でも呑みながら」
と、三人に近づいて肩を抱くと、怒ってなどいなかった。
「うん。今の時期はカタツムリが多い。それを石焼にしてつまみにするっと」
「となると、塩とニンニクが必要だな。やば。ヨダレが……」
「ふふ。目的が変わってるわ。それじゃバーベキューじゃないか。たしかに、最近はカタツムリを食べさせてはもらえんからな」
「そうそう。芋虫の揚げ物、セミのソテー、豆の葉の炒め物。貧しいながらも好物があったが、奥方はああ言う物が嫌らしい。」
「全くだ。生ハムとか骨なし肉とか、上品だが食いいでがない」
「ホントだよ。ピンクも骨を入れない。コボルドは骨メインだろ! って口論したこともある。それでも折れないからなぁ」
「どの家の女房どのは同じだな。はは。いいじゃないか。こっそりとカタツムリ焼き……」
とヤイヤイと雑談していると、ポチがチャブチに視線を送った。
「でもなぁ、カタツムリとなるとチャブチの箸が早いからなぁ」
「だって、カタツムリは半生だろ?」
「よく焼きだろ!」
「ボクも汁気が飛んだ方が好きだなぁ」
三人はウェルダンの方が好みらしい。レア好みは父ブラウンの影響だろうか?
「しかし、カタツムリは強壮だ。またチャブチの悪いクセが出るか、ピンクに7人めが宿るかもしれん」
チビが言うと、チャブチがピタリと足を止めた。
さすがに最近は反省しているのは分かっている。女グセのことは言い過ぎがと思ったクロが
「ん? どうした。いじられて怒ったか?」
との言葉にチャブチはモジモジしながら言い難そうに答えた。
「いやぁ。7人目はもう宿ってる」
大きな体で照れている。
三人は手で顔を押さえた。
すると、後ろに気配を感じた、立ちながら後ろを振り返ると、そこには幼馴染みの三人が同じように額を擦り付けて拝礼していた。
「お前ら……」
声をかけると、三人は顔を上げ立ち上がった。
「水臭いぞ。チャブチ。自分一人だけいいかっこしいか?」
「全く、知らぬとでも思ったか。この城の中で知らぬものなど誰もいないぞ?」
「ゴールド様が自刃なすったのは何も、お前だけのせいじゃない。チャブチを止めなかった我々にだって少しずつ責任がある。それを自分だけのせいとか買い被り過ぎだろ」
公務でないのでいつもの友人口調だ。三人は手を振り上げて思い切りチャブチの尻を叩くと「いっ!」と言って、チャブチは自分の尻を押さえた。
「……いやぁ。叔父には何度頭を下げても謝り切れん。親の心子知らずなんて言い訳も言わん。今更墓に謝ったところでどうにもならんがな……」
と寂しげに目を下に向けた。そんな彼を友人たちは近づき無言で背中をトントンと叩いた。
見るとみんな微笑んでいた。
「許さないはずがないだろ? 今のチャブチを見たら」
「……そうとも。ゴールド様はお心の広いお方。そんなことも知らんのか?」
やはり心置けない友人は良い。
四人で笑い合った。
ポチが頭の後ろで手を組んだ。
「さて。今日の政務政務。仕事がたくさんある。ボクは城の外の砦二箇所の修繕の見回りだ。帰って女房殿が作った朝食を食わんとな。怒られてしまうわい」
「ふふ。全くだ」
そう言って、みんなで叔父の墓から出ようとした時、チャブチが友人たちを止めた。
「なぁ。今度、非番を合わせてみんなで釣りにいかんか? 故郷の池に良く似たところを見つけたんだよ。昔みたいにタンポポの花の疑似餌で誰が一番大物を釣れるか勝負しよう」
と言うと、みんな膝を叩いて大笑した。
「はっはっはっは。チャブチが勝てるわけなかろう」
「せいぜい、小ブナか小エビがいいとこだ」
そう。チャブチには釣りの腕前がなかった。
それもそのはず。ボクが肉体の主導権を握っていたころ、他の子供たちが遊んでいる間に剣術や戦術の稽古をしていたのだ。
たまに休みでみんなに交じって釣りをしてもよい釣果はなかったのだ。
「ムッ……。ボクの腕前を知らないな? 前にこーんなに大きな魚を逃がした」
たしかに、ボクは叔父と剣術の稽古に出かけた時に、池を見つけて駄々っ子のように転がって釣りがしたいと言ったことがあった。
一族の命運とは関係無しに無邪気に遊んでいるみんながうらやましかったのだ。
叔父はため息をついたが、「子供らしいこともいいことだ」と言って自分の服の糸を解き、貝殻を石で打ち磨いて針を作ってくれた。そして二人でこっそり釣りをしたことがあった。
その時、60cmほどの鯉がかかったが服の糸ではもろくて釣り上げることができなかった。
そんなことを、意識だけの存在であったチャブチも楽しい思い出だったのであろう。
三人の前で自分の両腕を思い切り広げて魚の大きさを自慢した。
だが両腕を広げた幅。それってつまり、チャブチの身長と同じ大きさの三メートルだ。
三人は噴き出してますます笑った。
「まったく! チャブチは信用できん」
「そうとも。またいつか妾騒動をおこすぞ?」
「おうとも。反省した振りをして!」
「いや多分、大木でも呑んでいて重くて上げられなかった……。ホントだって叔父に聞いてみろよ!」
と墓を指しながら戯けて言うと、クロはチャブチを指さした。
「今度は平気でゴールド様の名前までだしてきた。とんでもないヤツだ!」
「お、おい。待てよ」
チャブチは三人の背中を追いかけて行った。
「まぁ、いいじゃないか。酒でも呑みながら」
と、三人に近づいて肩を抱くと、怒ってなどいなかった。
「うん。今の時期はカタツムリが多い。それを石焼にしてつまみにするっと」
「となると、塩とニンニクが必要だな。やば。ヨダレが……」
「ふふ。目的が変わってるわ。それじゃバーベキューじゃないか。たしかに、最近はカタツムリを食べさせてはもらえんからな」
「そうそう。芋虫の揚げ物、セミのソテー、豆の葉の炒め物。貧しいながらも好物があったが、奥方はああ言う物が嫌らしい。」
「全くだ。生ハムとか骨なし肉とか、上品だが食いいでがない」
「ホントだよ。ピンクも骨を入れない。コボルドは骨メインだろ! って口論したこともある。それでも折れないからなぁ」
「どの家の女房どのは同じだな。はは。いいじゃないか。こっそりとカタツムリ焼き……」
とヤイヤイと雑談していると、ポチがチャブチに視線を送った。
「でもなぁ、カタツムリとなるとチャブチの箸が早いからなぁ」
「だって、カタツムリは半生だろ?」
「よく焼きだろ!」
「ボクも汁気が飛んだ方が好きだなぁ」
三人はウェルダンの方が好みらしい。レア好みは父ブラウンの影響だろうか?
「しかし、カタツムリは強壮だ。またチャブチの悪いクセが出るか、ピンクに7人めが宿るかもしれん」
チビが言うと、チャブチがピタリと足を止めた。
さすがに最近は反省しているのは分かっている。女グセのことは言い過ぎがと思ったクロが
「ん? どうした。いじられて怒ったか?」
との言葉にチャブチはモジモジしながら言い難そうに答えた。
「いやぁ。7人目はもう宿ってる」
大きな体で照れている。
三人は手で顔を押さえた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる