コボルド将軍の息子 ──チャブチ

家紋武範

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転生の章 チャブチ篇

第41話 妻への赤心

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それから数ヶ月、戦後処理が大変だった。
まず人間の捕虜をどうするか。
食料も配給出来ないし、殺してしまおうと言う意見が大半だった。

しかしチャブチは違った。
捕虜に食料も財産も持たせず解放する。と言った。
これはチャブチの意識に他ならない。
ボクが元人間だからではなかった。
義父のシルバーが「どうして?」と尋ねると、チャブチの作戦はこうだった。

「シルバー副団長、これだけの難民を食べさせるのは人間の方でも大変でしょう。受けれた側は職も与えなくてはなりません。相当混乱して自滅しますよ」

そこに居合わせた者は『なるほど!』と唸った。
さすがは英雄の息子だ。
人間の服をはぎ取り、裸にして恥辱を与え荒野に放した。
だが王族には王家を示す宝だけは持たせてやった。
これを取り戻しに攻められたら厄介ごとが増えるとの考えだった。
しかも、人間側も王族を受け入れるというのは混乱を招くだろう。

チャブチの肉体のコントロールが徐々に彼に奪われ、ボクはただの意識だけの存在となって行った。

つまりこう言うことだろう。
チャブチの肉体にはチャブチとボクの二つの魂が宿ってしまったのだ。だが、もともとのチャブチの魂が肉体の主導権を持っていた。
しかし人間奇襲でチャブチは意識を失い、そのスキにボクの魂は肉体の主導権を奪った。彼の魂は途中で意識を取り戻したのかも知れないが、一度奪われた主導権をなかなか取り戻せず、あの一騎討ちでようやく主導権を奪い始め、コントロールしはじめたのであろう。

彼は、コノハを引き取ったが寝食を共にせず、ただ遊び相手といった感じにしかしなかった。ボールを放り投げてやったり、帯を揺らしてじゃらしてやったりするだけだ。
コノハは彼の性器に触れようとしたが、それを強く叩くと、もう触ろうとはしなくなった。
まるで動物を躾けるようだった。

そんに中、チャブチは国元の母に手紙を書いた。

「お母さん、任務は成功し我々は巨大な城と領土を手に入れました。この要衝の地を一度見に来ませんか? 子供たちもここで生活させ将来の勉強にさせたく思います。私は遠慮申し上げたのですが義父上ちちうえが人間の邸宅で一番大きいものを下さいました。ここで共に暮らしませんか? 実は私、父上の仇を討ち果たしました。彼は父の首を持っていましたので、母上立会いの元、埋葬式もしたいと思います。甚だ勝手な話しですが、これに免じて今までの無礼、親不孝に目をつぶって頂きたく思います」

この手紙に母ユキの心も雪解けし、すぐにピンクやボクが集めた側室たちにドレスを着せ、子供たちに正装をさせて城に向かって馬車を走らせた。
彼女たちの馬車が付き、一家全員彼の前に並ぶと、チャブチは母の前に跪きその大きな体を低くして母の顔よりも首を下に下げた。

「今までの親不孝お許し下さい」

母ユキは息子が改心したと思ったのであろう。目に涙をためて彼の肩に触れた。

「親子じゃないの……」

許された彼は立ち上がって母に微笑みかけ、そして妻達の方を見た。
……いや、ピンクだけ見つめていた。
そして人目をはばからず彼女に抱きついた。

「もう、またはじまった……」

とピンクは言ったがずっと強く抱きしめた。
その内に彼からは鼻をすする音が聞こえた。

「……チャブチ??」
「……グズ。……ピンク」

「本当にチャブチなの?」
「ああ」

一声だけだった。
もしもボクなら「キミの情けない夫だよ」とか、「今でもキミに夢中なんだ」とか言ったのかもしれない。
ただ、チャブチは違った。「ああ」の一言で彼女に全て伝わると信じていたのだ。
彼女はそう言われてチャブチの背中に手を回した。

チャブチはピンクの手を引いて大きな屋敷にはピンクと、ピンクの生んだ子だけ入れ、ジュンやキャラ、コノハには敷地内に並ぶ小さい屋敷にそれぞれ案内しそれを与えた。
子供たちにも順列をつけ、ピンクの生んだ子供以外とはなかなか会おうとしなかった。

チャブチはピンクに言った。

「なぁ、ピンク。ボクが間違っていた。離縁してくれないか? キミだけじゃない。側室たちもみんな家に帰すつもりなんだ。でないと一族に示しがつかん。コボルド族始まって以来の離縁したものだ。ボクは歴史に悪名を残すだろう。バカな僕にはちょうどいい」

ピンクはチャブチに抱きついた。

「そんな! あなたを嫌いと言ったのはウソなの! そんな気はないの。だって愛してるんだもの。どんなあなたでも!」

しかし、チャブチはピンクの肩を掴んで自分の身から離した。

「いや、言ったではないか。一族に示すためだ。ボクを見限って実家に帰ってくれ」

そう言って、彼女と子供たちを義父シルバーの家に帰した。
一家暮らしたのは僅かに二日ばかり。
チャブチがなぜそんな行動に出たのか、ボクばかりかピンクすら分からなかったであろう。


次にチャブチは側室たちを集めた。

「君たちにヒマをとらせたい。実家に帰ってくれたまえ。ボクは一族の長だ。ようやく気付いた愚かな男だ。長が側室をとるなどありえない話なのだ。しかし、この与えた屋敷にいたければいてもいい。だがもう君たちを抱こうとはしないだろう」

と伝えた。コノハは女児を生みチャブチが変わってしまったことを嘆いてそれを抱いて山に帰った。
キャラもまだ若く未来があったので子供を連れて実家に帰りやがて再婚した。
ただ、ジュンだけはピンクの妹のように過ごした数年間。これからも同じようにしたいと言うことで邸内の小さい屋敷に残ることに決めた。
チャブチは出て行った妻に多額の慰謝料を払ったがコノハの行方は分からずじまいだった。

そして、国中に自分は離縁したと公表した。自分が間違っていたと大々的に伝えたのだ。
これにてチャブチの女性問題は完全に片付いてしまった。
チャブチは独身となって団長職をもくもくとこなしたのだった。

さすがはブラウン将軍の息子。見事な裁きだった。
ボクはこの問題を解決しようと考えたが、人道的問題とかいろいろ考えてしまい、無理だった。
だがそもそもハーレム自体が人道的でない。
彼がしたことも正しいとは言えないが、一族のためにはこの方法が最善だったのこも知れない。

全くボクの数年はいったいなんだったんだろう?
チャブチの意識がハッキリしてれば叔父も死ぬことなかったんだろう。
やっぱりボクは「のび犬」なのかなぁ……。
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