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転生の章 決戦篇
第29話 叔父諌死
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ゴールドも自分のテントに戻った。うすぐらい中でたたずんでしばらく動かなかった。そして小さく呟いた。
「ゴールドよ。団長が妾をとるくらいなにがいけないというのだ」
そのままイスにトスンと座る。
そして机に突っ伏して顔をつけてしまった。
「……そうさ。たかが妾の一人、二人……三人……」
と自分に言い聞かせるように言っていたが、グゥっとうなって涙を飲み込んだ。
「一族の秩序、文化を守るという基本的なこともできないとは、このゴールドの教育に手抜かりがあったか。シルバー。この有様を聞いたらオマエが付いていながらと叱責するだろうなぁ。どこで教育を誤ったのであろう? 昔は素直で良い子だった。しかし、幼い頃から団長、団長と言われ慢心してしまったのかもしれん。我々の期待の星だ。団長になってからでも充分教育できると思ったが、誤りであったか……。いずれにせよ、後見人のワシの責任だ」
叔父ゴールドは机から顔を上げて筆を取った。
「さて。最後の教育をするか……」
サラサラと筆を走らせ文書をしたためる。
それをズラシ三つ折りにし、蝋をたらして自分の刻印を押して封をし机の上に置いた。
それから鎧を脱いで土の上に座り、残った片腕で腰に帯びた刀を抜いた。
「うん。やはり、我々コボルド族は土の上のほうがしっくりくる」
しばらく刀に映る自分の顔を見ていたが、その刃をのど元に当てた。
「ふふふふ。一族を思う一念が、この片端ものを無駄に長生きさせたようで……」
叔父は冷静だった。ただコボルドを守る一念。
自分しかいない参謀長の幕舎。
その中で信念のある声でこう言った。
「義兄よ。今より会いに参ります。どうか一族の輪を乱すチャブチを許してくだされ。この片腕の老骨の死をもって最後の教育をすればあの子はきっと分かってくれるはずです」
そう言って、その刃を横に引く。
勢いよく噴き出す鮮血。
彼は自分の血だまりの中に倒れ込んだ。
「どうかチャブチに事の重大さを気付かせてくだされ……。どうかコボルドに永遠の平和が訪れますように……。シルバー……。後を 頼 む……」
◇ ◇ ◇
その頃チャブチはテントの中でまたコノハと睦まじく交わっていた。
そのうちに陣中が騒然となって、クロとチビがテントに飛び込んできた。
「団長!」
その時、ボクたちは裸だった。
「あ、すいません」
その様子に二人はすぐに出て行った。
二人が飛び込んでくるとは火急だ。
ボクは急いで服を着用して二人を入れた。
「なんだ? 敵襲か? であればお偉い参謀長様に言えよ。団長すら叱り飛ばす参謀長様ならきっと上手くやって下さるさ」
先ほど大勢の前で叱られたばかりなので、そう皮肉って溜飲を下げようとしたが、クロの目にはたくさんの涙が湛えられていた。
「い、いえ、その参謀長様が……参謀長様が……」
様子がおかしい。なぜ涙声なのか?
「叔父上がどうした?」
「はい……。ご自分の幕舎の中でご自害あそばれました」
「な! なに!?」
急いで飛び出していくと、すでに叔父の遺骸は幕舎の外にだされ筵がかけられていた。
自慢の金毛にべっとりと赤黒い血がねばりついて、目はただ一点だけを見つめていた。
ボクは耐え切れず彼の胸に顔をうずめ、子供のように泣いた。
「……叔父上! 叔父上ェ! オッオッオッオオオ~!」
不遇だった時を思い出し泣いた。
ともに砦を落として一族の窮地を救ったことを思い出して泣いた。
ただひたすら泣いた。
転生してから、ずっとずっと父代わりだった。
叔父には男児がいなかったので、自分の子のように時に厳しく、時に優しく育ててくれた。
一族が貧しい時に、自分の配給から粟の粥をこっそりとくれた。
ホントはいけないのに、貯蔵庫から魚の干物を2つ持ってきてくれた。
「チャブチとワシの秘密だからな」
そう言ってウィンクした。
自分の手のひらに砂糖を乗せて、舐めさせてくれた。
「大きくなれよ! チャブチ。父のセピアン・ブラウンを越えるくらいな!」
そんな優しい、優しい叔父だった。
「大きくなりましたよ! 叔父上! でもまだ将軍じゃないんです! あなたがいなかったら。あなたがいなかったらぁ~……。叔父上! 叔父上ェェ~~~……!」
声が嗄れるほど泣き叫んだ。
ポチが叔父のテントの中から遺書を携えて持ってきた。
封がされており、まだ誰も読んでいないようだった。
受け取ってその場で開いてそれを読んだ。
諫状だった。
我が一族の風紀を守るため、チャブチ団長にはぜひご一読いただき、身を慎んでいただきたいです。
一つ、女性をご自分の快楽の道具と思いませんこと。
一つ、年寄りの諫めを聞き自分の力とすること。
一つ、神聖な陣幕の中に女性を入れませんこと。
一つ、側室を家臣に下賜し、正妻を絶えず愛しますこと。
一つ、一族は自分のものに非ず、自分も一族の一員ということを常に考えますこと。
一つ、ご母堂ユキと和解しますこと。
我らは他の鬼族とは違い、常に高尚なものにございます。オーク族のような振る舞いはなさいますな。
どうぞ、この書面をシルバーにも見せ、この片腕が亡き後は彼に後見を任せますよう、死を賭してお願い申し上げます。
ボクは気絶しそうになった。
こんなことで死ぬなんて馬鹿な叔父だ。
遺書をクシャリと握りつぶした。そして周りのものに命じた。
「叔父は乱心したのだ。戦の真っ最中に自害するなど尋常じゃない。無責任だ。しかし、今までの功績を考えると責任を問うのは不憫すぎる。いい場所に埋めてやってくれ」
と言って、諫状の内容は誰にも伝えず自分のテントに入って行った。
チビ、ポチは顔を見合わせた。
「乱心して遺書をかくものかな?」
「遺書にはなんて書いてあったんだろう」
そんな中、クロだけはチャブチの方をずっとにらみ付けていた。
「ゴールドよ。団長が妾をとるくらいなにがいけないというのだ」
そのままイスにトスンと座る。
そして机に突っ伏して顔をつけてしまった。
「……そうさ。たかが妾の一人、二人……三人……」
と自分に言い聞かせるように言っていたが、グゥっとうなって涙を飲み込んだ。
「一族の秩序、文化を守るという基本的なこともできないとは、このゴールドの教育に手抜かりがあったか。シルバー。この有様を聞いたらオマエが付いていながらと叱責するだろうなぁ。どこで教育を誤ったのであろう? 昔は素直で良い子だった。しかし、幼い頃から団長、団長と言われ慢心してしまったのかもしれん。我々の期待の星だ。団長になってからでも充分教育できると思ったが、誤りであったか……。いずれにせよ、後見人のワシの責任だ」
叔父ゴールドは机から顔を上げて筆を取った。
「さて。最後の教育をするか……」
サラサラと筆を走らせ文書をしたためる。
それをズラシ三つ折りにし、蝋をたらして自分の刻印を押して封をし机の上に置いた。
それから鎧を脱いで土の上に座り、残った片腕で腰に帯びた刀を抜いた。
「うん。やはり、我々コボルド族は土の上のほうがしっくりくる」
しばらく刀に映る自分の顔を見ていたが、その刃をのど元に当てた。
「ふふふふ。一族を思う一念が、この片端ものを無駄に長生きさせたようで……」
叔父は冷静だった。ただコボルドを守る一念。
自分しかいない参謀長の幕舎。
その中で信念のある声でこう言った。
「義兄よ。今より会いに参ります。どうか一族の輪を乱すチャブチを許してくだされ。この片腕の老骨の死をもって最後の教育をすればあの子はきっと分かってくれるはずです」
そう言って、その刃を横に引く。
勢いよく噴き出す鮮血。
彼は自分の血だまりの中に倒れ込んだ。
「どうかチャブチに事の重大さを気付かせてくだされ……。どうかコボルドに永遠の平和が訪れますように……。シルバー……。後を 頼 む……」
◇ ◇ ◇
その頃チャブチはテントの中でまたコノハと睦まじく交わっていた。
そのうちに陣中が騒然となって、クロとチビがテントに飛び込んできた。
「団長!」
その時、ボクたちは裸だった。
「あ、すいません」
その様子に二人はすぐに出て行った。
二人が飛び込んでくるとは火急だ。
ボクは急いで服を着用して二人を入れた。
「なんだ? 敵襲か? であればお偉い参謀長様に言えよ。団長すら叱り飛ばす参謀長様ならきっと上手くやって下さるさ」
先ほど大勢の前で叱られたばかりなので、そう皮肉って溜飲を下げようとしたが、クロの目にはたくさんの涙が湛えられていた。
「い、いえ、その参謀長様が……参謀長様が……」
様子がおかしい。なぜ涙声なのか?
「叔父上がどうした?」
「はい……。ご自分の幕舎の中でご自害あそばれました」
「な! なに!?」
急いで飛び出していくと、すでに叔父の遺骸は幕舎の外にだされ筵がかけられていた。
自慢の金毛にべっとりと赤黒い血がねばりついて、目はただ一点だけを見つめていた。
ボクは耐え切れず彼の胸に顔をうずめ、子供のように泣いた。
「……叔父上! 叔父上ェ! オッオッオッオオオ~!」
不遇だった時を思い出し泣いた。
ともに砦を落として一族の窮地を救ったことを思い出して泣いた。
ただひたすら泣いた。
転生してから、ずっとずっと父代わりだった。
叔父には男児がいなかったので、自分の子のように時に厳しく、時に優しく育ててくれた。
一族が貧しい時に、自分の配給から粟の粥をこっそりとくれた。
ホントはいけないのに、貯蔵庫から魚の干物を2つ持ってきてくれた。
「チャブチとワシの秘密だからな」
そう言ってウィンクした。
自分の手のひらに砂糖を乗せて、舐めさせてくれた。
「大きくなれよ! チャブチ。父のセピアン・ブラウンを越えるくらいな!」
そんな優しい、優しい叔父だった。
「大きくなりましたよ! 叔父上! でもまだ将軍じゃないんです! あなたがいなかったら。あなたがいなかったらぁ~……。叔父上! 叔父上ェェ~~~……!」
声が嗄れるほど泣き叫んだ。
ポチが叔父のテントの中から遺書を携えて持ってきた。
封がされており、まだ誰も読んでいないようだった。
受け取ってその場で開いてそれを読んだ。
諫状だった。
我が一族の風紀を守るため、チャブチ団長にはぜひご一読いただき、身を慎んでいただきたいです。
一つ、女性をご自分の快楽の道具と思いませんこと。
一つ、年寄りの諫めを聞き自分の力とすること。
一つ、神聖な陣幕の中に女性を入れませんこと。
一つ、側室を家臣に下賜し、正妻を絶えず愛しますこと。
一つ、一族は自分のものに非ず、自分も一族の一員ということを常に考えますこと。
一つ、ご母堂ユキと和解しますこと。
我らは他の鬼族とは違い、常に高尚なものにございます。オーク族のような振る舞いはなさいますな。
どうぞ、この書面をシルバーにも見せ、この片腕が亡き後は彼に後見を任せますよう、死を賭してお願い申し上げます。
ボクは気絶しそうになった。
こんなことで死ぬなんて馬鹿な叔父だ。
遺書をクシャリと握りつぶした。そして周りのものに命じた。
「叔父は乱心したのだ。戦の真っ最中に自害するなど尋常じゃない。無責任だ。しかし、今までの功績を考えると責任を問うのは不憫すぎる。いい場所に埋めてやってくれ」
と言って、諫状の内容は誰にも伝えず自分のテントに入って行った。
チビ、ポチは顔を見合わせた。
「乱心して遺書をかくものかな?」
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