コボルド将軍の息子 ──チャブチ

家紋武範

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転生の章 ハーレム篇

第23話 総反対

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二人の遠回しの説教はたくさんと事実と正当性でやり込めようとした。

「まぁ、もう手を付けてしまいましたし」

そう言えば、『仕方ないか』で終わって二人とも帰ると思ったが違った。
二人とも驚いて、「なぜ!」とか「どうして!」とかまくし立ててギャーギャーと騒ぎ立てた。

「一人の妻を愛さないと家庭内に不和が生じ、あらぬ後継争い等が起きるぞ!」
「そうとも。それにチャブチを尊敬する子供たちが我も我もと真似したらどうする!」

昔からの煙たい説教。自分はもう5人の子を持つ親。
ましてや鬼族の長で団長だ。それに対して下らない意見だと、計画が潰されたくないボクは怒って政務室の机を『ドン!』と叩きつけた。

「いい加減にしてください。たかだが妾一人ぐらいで大騒ぎして! 私がいなかったらコボルド族はどうなっていましたか!」

怒気を含んで声を上げ、壁に掛けてある革のコートを肩にかけ「面白くもない!」と言って、思い切りドアを叩き閉めて政務室を出た。


残った二人はしばらく立ち尽くしていたらしい。

「うん……まぁ、たしかにチャブチがいなかったらコボルド族に今の地位はない」
「うむ……。特例として認めるほかなかろう」

義兄あにのようにと今まで言い過ぎたのかもしれん。チャブチにはチャブチのやりかたがある。我々も少し考える必要があるのか。……しかし、これでは」
「うむ。英雄色を好むともいうしな。チャブチは特例。認める。認めるしか……」

二人はどうにもならない思いに、互いに嘆息した。


ボクが足を踏み鳴らして屋敷に帰ると外で母ユキが子どもたちと遊んでいた。
母が来るのは久しぶりだ。自分が来ると姑が来たとピンクが遠慮するといけないと言うことで、極力一人息子であるボクの屋敷には来ないのだ。

「おお。お母さん」
「あら。団長閣下。お帰りになりましたか」

そうにこやかに笑った。ボクは母を連れだって、屋敷の中庭にある屋根付きのベンチに腰を下ろしてピンクに茶を持ってこさせた。

「どうしました? 最近は快適ですか?」
「ええ。団長閣下に下賜されたお屋敷もよいし、召し使いもよく働きます。最近は刺繍が趣味です」

「そうですか。左様ですか」

と言って、二人で庭の花を見ながらまったりとした。暖かい柔らかな風が花の香りを運んできて、久しぶりに故郷の山の香りがした。

「我が一族がこうして繁栄しているのも団長閣下のおかげです」

とニコリと笑って褒め称えるので、ボクは照れてふふっと笑った。たが母親の顔色が沈み言葉が暗くなった。

「しかし、最近、一族の秩序を乱そうとしているものがいるとか」
「え?そんな不埒者がおりますか?」

「ええ。しかし官位が高く、だれも諫められません。いかがしましょう」
「な! なんとしたことでしょう? 叔父? でもないし、義父でもないでしょう? クロやチビやポチ? そんなものがおりましょうか? いずれにせよ、私が叱り倒します」

「そうですか? 例えば、ゴールドやシルバーにも言えますか?」
「もちろんですよ。例え誰であろうとも一族の秩序は大事です。それを乱すのであれば」

そこまで話すと母親の目が怒りに変わり、ボクを睨みつけてきた。

「では、おのが身を叱り飛ばしなさい」
「え?」

「自らも律せず、妾をとるなど言語道断! 母はなんの顔をして地下のブラウン将軍に相見えましょう!」

そう言って、立ち上がってボクを叱責した。
母のいう官位が高く秩序を乱す者はボクのことだった。
さすがに側室のことだと勘付いた。

「……なんですか。ピンクがなにか言ったんですね?」
「言おうが言うまいが関係ありません! 人の上に立つものはもっと身を慎まねばなりません!」

ボクは母から目を背け、言わなくても良いことを言ってしまった。

「じゃぁ、お母さんは何なんですか。父を裏切ってオークに抱かれたじゃないですか」

ピシィ!

母は目に涙を湛えていた。それが一つ。また一つとこぼれ落ちる。自分が息子を生かすため、一族を生かすためにしたことを息子であるボクも卑下していたことで、大きな哀しみが襲ってきたのであろう。
首を落としうなだれて、ボクに背中を向けてしまった。

「……もうよい。好きになさいませ」

そう言って、自分の屋敷に向けて去って行った。
たった二人の母子がこんなことで争い不仲になるなどあってはならないことだ。ボクは自分がしたことを棚に上げ、ピンクを怒鳴って呼びつけお茶がまだ少し残っているカップを投げつけた。

「自分が面白くないからと母を呼び出すとは何事か!」

おそらくピンクが母に泣きついたに違いない。
足をならして屋敷の中に入り、思い切りドアを叩き閉めた。
ボクがピンクに投げたカップには少量のお茶が残っており彼女の白い服には茶色のしぶきの後が惨めに残った。
彼女は地面に伏して小さな声で

「ごめんなさい、ごめんなさい」

と泣いていたが、腹が立って仕方がなかった。


一体なんなんだ。みんなして。
ボクは英雄だ。鬼族を統率する団長なんだぞ。
古い秩序を押し付けやがって。

考えるとコボルドの慣習は古くさく、叔父や母の考えも無駄なだけだと思い始めた。
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