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転生の章 雌伏篇
第18話 謁見
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馬車は城に入り、馬車の停車場で止まった。
天まで届くほどの城でボクとピンクは面食らってしまった。
ドキドキしながら手と足の振り方を一緒にして長い階段を上り、母を先頭に都督の執務室に入った。
ボクの頭の中には都督は怖い人。怖い人。というキーワードがグルグルまわっていて、今にも沸騰しそうだった。
挨拶をして、コボルドからの貢ぎ物の目録を渡す……。
挨拶をして、コボルドからの貢ぎ物の目録を渡す……。
叔父や義父に出立前に噛んで含めるほど言われた言葉を、心の中で何度も復唱しながら。
母は都督の御前でドレスのスカートを手で上げて挨拶をした。
「しばらくぶりで御座います。閣下に於きましてはつつがなきことお慶び申し上げます。わたくし、コボルド族の長でした、ブラウン将軍の妻、ユキにございます」
凜とした言葉。それだけで都督の執務室はシンとなり、空気が変わった。
都督は黒い甲冑に身を包む4メートルほどの巨人だったが、母の言葉に振り向き、椅子から立ち上がって近づいてきた。
近づいてくると、顔に刻まれた深い皺。白くなった顎髭。歴戦の老戦士だと言うことが分かった。
「おお。これは久しい人のご登場だ。昔ブラウンの家に行ったおり手料理をご馳走になったな」
「あら、おぼえてらっしゃいましたか」
「忘れるものか。……となると、後ろに控えるはセピアンの一粒胤のブラウン団長かね」
「左様にございます。さぁ団長。閣下にご挨拶を」
ボクは、都督のあまりの威厳と、母の堂々とした態度にビビってしまった。
「あ、あの。父、ブラウン将軍の息子、チャブチ・ブラウンにございます。この度は、ご招待に預かりまして光栄至極にございます……」
都督は、口に手を当ててプッと笑った。
「ふふ。緊張しておるな。なにも取って食おうとは思わん。そうか。セピアンによく似たやつだ。ワシとセピアンは部下であり戦友であった。エルガイド城はワシとセピアンで取ったのだ。あやつは勇猛果敢な戦士だった。しかし、当時から部下を守る気持ちが多かったな。それで討ち死にしてしまうとは……。長所が短所になってしまったのう……。非常に残念である。それがためにまったく真逆の性質のブタンを将軍に任命したのはそんな理由だ。しかし、鬼族もよく収まっておるようで喜ばしい限りである」
ボクはオーク族の圧政で鬼族の緊迫した現状を伝えようと言う言葉が喉から出かかった。
しかし、とても言い出せる雰囲気ではない。
ましてや、ブタン将軍は都督が任じた上官だ。その上官を讒言して成り代わるつもりか! と思われることも今後のコボルド族にとって、良くないのでは? とか、いろいろと考えているうちに都督は話を締めてしまった。
「まぁ、仲良くやってくれ。鬼族の団結力に期待しておるぞ。さぁ、では行こう。魔王様がお待ちである」
都督にそう言われて、オーク族と他の鬼族の軋轢が頭の中で行ったり来たりして、叔父や義父に託されたコボルド族からの貢ぎ物である馬具の革製品の目録をお渡しすることを忘れてしまった。
家族は別室に連れて行かれ、ボクは都督と並んで任命式の会場に進んだ。そこには、ボク同様、団長に新規任命されたものが4名いた。
初めてお会いする各地区の団長方に一礼し、文官の指示に従って整列した。
急にシーンと静かになり、カーンカーンと鐘の音がなると、魔王様が厳かに登場し玉座に座った。
魔王様は普通の人間のようなお姿だが、紫色の顔で耳の上に立派な大きな角が二本伸びていた。
ボクたちは並んで片膝をついて忠誠を表す態度を取った。
魔王様は尊厳のある声でひと言お言葉を述べられた。
「君たちの団長としての活躍に期待する」
そのお言葉に、ボクたちは「ははーー!」と礼をした。そして、それぞれの新団長にお言葉をおかけになられ、最後にボクに
「ブラウン団長は、東のブラウン将軍の息子だな。若いのに砦を単騎で落とすとはたいした奴だ。しかし、守勢なりがたしだ。キチンと前線を守り富国強兵に努めたまえ。軍事も大事だが政治も大事だ。優秀な者を左右に任官せよ。」
「は、はい!」
と返事をすると、ニコリとお笑いになられた。
その後、魔王様はご多忙のようですぐに退席してしまった。
天まで届くほどの城でボクとピンクは面食らってしまった。
ドキドキしながら手と足の振り方を一緒にして長い階段を上り、母を先頭に都督の執務室に入った。
ボクの頭の中には都督は怖い人。怖い人。というキーワードがグルグルまわっていて、今にも沸騰しそうだった。
挨拶をして、コボルドからの貢ぎ物の目録を渡す……。
挨拶をして、コボルドからの貢ぎ物の目録を渡す……。
叔父や義父に出立前に噛んで含めるほど言われた言葉を、心の中で何度も復唱しながら。
母は都督の御前でドレスのスカートを手で上げて挨拶をした。
「しばらくぶりで御座います。閣下に於きましてはつつがなきことお慶び申し上げます。わたくし、コボルド族の長でした、ブラウン将軍の妻、ユキにございます」
凜とした言葉。それだけで都督の執務室はシンとなり、空気が変わった。
都督は黒い甲冑に身を包む4メートルほどの巨人だったが、母の言葉に振り向き、椅子から立ち上がって近づいてきた。
近づいてくると、顔に刻まれた深い皺。白くなった顎髭。歴戦の老戦士だと言うことが分かった。
「おお。これは久しい人のご登場だ。昔ブラウンの家に行ったおり手料理をご馳走になったな」
「あら、おぼえてらっしゃいましたか」
「忘れるものか。……となると、後ろに控えるはセピアンの一粒胤のブラウン団長かね」
「左様にございます。さぁ団長。閣下にご挨拶を」
ボクは、都督のあまりの威厳と、母の堂々とした態度にビビってしまった。
「あ、あの。父、ブラウン将軍の息子、チャブチ・ブラウンにございます。この度は、ご招待に預かりまして光栄至極にございます……」
都督は、口に手を当ててプッと笑った。
「ふふ。緊張しておるな。なにも取って食おうとは思わん。そうか。セピアンによく似たやつだ。ワシとセピアンは部下であり戦友であった。エルガイド城はワシとセピアンで取ったのだ。あやつは勇猛果敢な戦士だった。しかし、当時から部下を守る気持ちが多かったな。それで討ち死にしてしまうとは……。長所が短所になってしまったのう……。非常に残念である。それがためにまったく真逆の性質のブタンを将軍に任命したのはそんな理由だ。しかし、鬼族もよく収まっておるようで喜ばしい限りである」
ボクはオーク族の圧政で鬼族の緊迫した現状を伝えようと言う言葉が喉から出かかった。
しかし、とても言い出せる雰囲気ではない。
ましてや、ブタン将軍は都督が任じた上官だ。その上官を讒言して成り代わるつもりか! と思われることも今後のコボルド族にとって、良くないのでは? とか、いろいろと考えているうちに都督は話を締めてしまった。
「まぁ、仲良くやってくれ。鬼族の団結力に期待しておるぞ。さぁ、では行こう。魔王様がお待ちである」
都督にそう言われて、オーク族と他の鬼族の軋轢が頭の中で行ったり来たりして、叔父や義父に託されたコボルド族からの貢ぎ物である馬具の革製品の目録をお渡しすることを忘れてしまった。
家族は別室に連れて行かれ、ボクは都督と並んで任命式の会場に進んだ。そこには、ボク同様、団長に新規任命されたものが4名いた。
初めてお会いする各地区の団長方に一礼し、文官の指示に従って整列した。
急にシーンと静かになり、カーンカーンと鐘の音がなると、魔王様が厳かに登場し玉座に座った。
魔王様は普通の人間のようなお姿だが、紫色の顔で耳の上に立派な大きな角が二本伸びていた。
ボクたちは並んで片膝をついて忠誠を表す態度を取った。
魔王様は尊厳のある声でひと言お言葉を述べられた。
「君たちの団長としての活躍に期待する」
そのお言葉に、ボクたちは「ははーー!」と礼をした。そして、それぞれの新団長にお言葉をおかけになられ、最後にボクに
「ブラウン団長は、東のブラウン将軍の息子だな。若いのに砦を単騎で落とすとはたいした奴だ。しかし、守勢なりがたしだ。キチンと前線を守り富国強兵に努めたまえ。軍事も大事だが政治も大事だ。優秀な者を左右に任官せよ。」
「は、はい!」
と返事をすると、ニコリとお笑いになられた。
その後、魔王様はご多忙のようですぐに退席してしまった。
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