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転生の章 雌伏篇

第11話 脱出

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集落に戻り、食料を届けると、ボクは単身砦に戻った。
太陽も傾いて山に沈むころ。時間は夕方。薄暗くなっていた。
チープに荷車の中で教えてもらっていた。この砦には抜け穴がある。壁の下から入れる場所。

昔、父ブラウンがこの砦を奇襲する際に部下に命じて掘らせた穴。穴攻(けっこう)という作戦だ。
それが功を奏して堅固なこの砦を奪取することが出来たらしい。
もしも、他の軍勢に狙われた際に抜け出せるようにそのままにしてあることをチープは自分の親から教えてもらっていたらしい。だからオークも知らない秘密の穴だ。

そこには板で蓋をされ、上に土と木の葉が被されていた。何年も使われていなかったので上にかけられた土は固くはなってはいたが、取っ手である縄を引くと鈍い音がして開いた。
土の穴をくぐり抜け、砦の一角にある出口の用水路の横穴から首を出し辺りを見回すと、オークたちは間抜けな顔をして右に左に歩いていた。
だれも忍び込むものを警戒していない。
人がいなくなったところでパッと飛び出し、彼女を探して人通りの少ない裏道を通っていった。

暫く探すと、あった。牢屋だ。
牢屋……というか、簡易な牢だ。木箱に鉄の格子があって頑丈そうだ。
そして、オークが二人で守っている。二人はなにか話しているようだった。

「いやしかし、美しいエルフの娘だな。将軍の好みだ」
「しかし、将軍は最近はブラウン将軍の細君にご執心。やはり元身分の高いものの妻だ。抱き心地が違うだろうな。はっはっはっは」

「ブラウン将軍を征服した気持ちにもなるのであろうな。」

平和そうに話している二人……クソ! 体に沸き起こるこの怒りはなんだ!
オークどもを全員ぶち殺したい!
母を……母を慰み者にしやがって!
あの二人ぐらいなら楽に殺せる。
……でも殺してどうする?
すぐに他のオークがやってきてボクは捕まってしまうだろう。そしたら一族の悲願はどうなる?

悔しさをぶつける場所がなく、壁や土を蹴ってやろうかと考えていると、新たなオークの見張りが現れて二人に話しかけていた。

「そろそろ、食事だな。今日のメシはなんだろう?」
「おい、見張りはどうする」
「どーせ逃げられやせんよ。さっさと食ってこよう」

そう言って、間抜けにもエルフを置き去りにしてどこかに行ってしまった。

今だ! 牢屋に近づくとエルフは三角座りをして顔をうずめていた。
カギを探すと牢の上に置きっぱなし。余りのオークはいい加減さに苦笑した。
すぐさまカギをあけて、彼女に声をかけた。

「おい! 逃げるんだ!」

彼女は顔を上げてこちらを見た。しかし、怯えた表情は変わらない。

「早く! 見張りが戻ってくる!」

と言うと、彼女は恐る恐る立ち上がり牢の外に出た。
ボクは自分の纏っているローブを脱ぎ彼女に被せ、忍び込んてきた場所まで彼女の手を引いて急いだ。

「エルフが逃げた!」

背中から間抜けな声が聞こえたが構いはせずそのまま逃げた。
闇が僕たちを隠してくれる。日は沈みすでに夜になっていた。

秘密の抜け穴から飛び出し、元通りに丁寧に密封した後で、二人して体を伏せて砂漠を進み、森のしげみに入ったころようやく立ち上がった。
エルフの娘もようやく安堵のため息をもらした。

「助かりました。あなたは……?」

知ってる言語だ。助かった。もしもエルフ独特の言葉しか話せなかったら意志の疎通も出来なかったろう。
ボクはフードをとり、マスクの布を外した。
彼女は人間か仲間のエルフだと思っていたのだろう。
ボクがコボルドだとわかるとかなり驚いていた。

「ボクはコボルド族のチャブチ。オーク族には多少の恨みがあってね。困らせてやりたかったんだ」
「そ、そうなの……。でもありがとう。助かりました」

「そうか。じゃ、元の家にお帰り。ここは危ないからね」

ボクはそう言って、彼女を置き去りにして集落に戻ろうとした。
すると彼女は追いかけて来てボクの服の裾を引っ張った。

「あ、あの……。なにかお礼を……」
「お礼? お礼なんていいよ。キミには叶えられっこないもの」

「そ、そうかもしれないけど……」

ボクはわざと意地悪くいった。
味方といえども実は仲はよくない我々だ。
異種族は内情を知らない。世間知らずのこの美しいエルフに愚痴をぶち撒きたかったのかも知れない。

「ボクの一族はオークに蹂躙されてるんだ。彼らの部下と言う立場で戦場の最前線に立たせられる。一族の女は夜は彼らの慰み者。ボクは一族の期待を一身に背負って将来将軍にならなくちゃいけない。どうだい? なにか一つでも助けられるものがあるかい? 一族の女の代わりに売春でもしてくれるのかい?」
「そ、それは……」

やはり。出来るはずがない。所詮我が身が可愛いだけだ。ボクは鼻で笑った。

「それみなよ。ボクも気まぐれで助けただけなんだ。自分たちの哀れな姿を君に投影しただけなんだ。ただそれだけ。じゃ」

もう一度去ろうとすると彼女は握った服の裾をさらに強く引いた。

「将軍になるための……手助けは?」
「ん?」

最初彼女が何を言っているか分からなかった。
将軍の手助け。それってなんだ?
兵士となって敵陣に斬り込むことかと思ったら違った。

「……魔法を教えられるわ。あなたたちの発音に合わせた回復魔法、防御を高める魔法、攻撃を強くする魔法。こうして話せるってことは同じような舌の巻き方や発声ができるってことだもの」
「ま、マジ?」

「うん。それにもう家がないの。両親もオークに殺されてしまった。だから集落に住まわせてもらえると助かるわ。魔法の専属教師として」
「そ、そうか!」

魔法の先生か。それは願ってもないことだった。
コボルド族は魔法を使えるものがいない。魔法が使えるかもわからないが彼女の言うのが本当なら、使えるかも知れない。
父ブラウンは偉大だったが、魔法は使っていなかった。そして魔法に敗れたと聞いている。
もしボクが父と同じ腕力をもって魔法まで使えたら?
そりゃものすごいぞ!

集落に戻り、シルバー隊長と叔父のゴールド隊長へ彼女を紹介した。
が、もちろん歓迎はされなかった。叔父にしこたま怒られ、オーク族の牢屋から彼女を解放したことを咎められた。
しかし、将軍になるための魔法の教師。それは必要かもしれないということで、彼女の家は地面を四角に深く掘り下げ、階段を作り上に木の枝をかけその上に動物の皮をかけて地下室のような感じのものにした。入り口の階段には木の扉をつけてはたから見ればコボルドの人家だとはわからないだろう。雨避けに枝振りの多い木を回りに植樹した。

そう言うわけでエルフのホーリーを集落にかくまうことになった。ボク、チャブチは11歳だが、ボクの精神的年齢は23歳ほどになっていた。当然、魔法をおぼえるのは大人のボクの理解力。チャブチの若い肉体でみるみる習得していった。
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